引っ越し祝い《1》
「――ほう、知らん顔が二人おるが。大した魔力量よ。儂の魔王軍の幹部でも、お主ら程の者は一握りであったな」
「……なるほど? 以前、海凪 優護が言うておったキャラ被りは、この者か。鬼族とはのぉ」
視線を交わす、ウタとツクモ。
「きゃら被り? 別に被っとらんじゃろう。儂、別にそんな耳と尻尾持っとらんし」
「そうであるな。妾の方が良い女であるな」
「な、何を!? そんなことないわ! 儂の方が良い女じゃ!」
「ほう、そうか? その割には、ちんちくりんに見えるが」
「お主も大して儂と変わらんじゃろうが!?」
「いいや、妾の方が背が高いし、胸も大きい」
「ちょ、ちょっとだけじゃろう! ……そもそも、儂のこの背丈は今だけよ! 本来の形態ならば、もっとないすばでーなんじゃ!」
「そうかそうか。夢見がちなお年頃であるのな?」
「ぐ、ぐぬぬ……ユウゴぉ!」
「いやお前、口喧嘩で負けて俺に泣きついてくるのは流石に情けなくないか……?」
口喧嘩に負ける魔王。威厳が皆無である。
けど、上手く悪口が出て来なくて、言い返せなくなる感じ、正直好きだぜ。
「ゆ、ユウゴは儂の方が好きじゃもんな!?」
「あー、そうだな。その通りだから、そんな顔するな、ウタ」
「ほ、ほれ見ろ! ユウゴはお主より、儂の方が好みなんじゃ! それにユウゴは、儂の元の体形も知っておるし!」
「そうか、海凪 優護はロリコンであったか。ならば納得というものよ」
「おいとんでもない風評被害をまき散らすな!」
「風評被害か? ここにいる皆、全員似たような背丈であるが」
……確かに、全員物の見事にロリっぽいけど!
大人びた感じなの、まさかのレンカさんだけだけど!
「そうじゃ! ユウゴはろりこんなんじゃ! ……ところでユウゴ、ろりこんって何じゃ?」
「あなたは静かにしていなさい。――オホン、ツクモ、ウチのは純粋なんだ。あんまりからかってくれるな」
俺に続いて、シロちゃんが少し顔を顰めながら注意する。
「そうですよ、ツクモ。全く、人のお家にお邪魔しておきながら、そんな悪口を言うとは」
「海凪 優護がキャラ被りなどと言うからよ。それが違うということを確認しただけのこと」
む……意外と気にしてたのか、それ。
まあ、プライド高いのは間違いないだろうし、他人と一緒にしてくれるな、ってことか。
これは俺が悪かったかもしれん。
「……むむ、お姉ちゃん、いじめちゃ、メッ」
と、微妙に怖がった様子ながらも、ウタを庇おうとするのは、リン。
「おう子狐、愛い奴よ。シロめの他に、久しく見ておらなんだ同族よ。同族には優しくしてやりとうところであるが、妾達と対等に話したいのであれば、もちっと尾の数を増やすことよ」
「……尻尾の数が多ければ、偉いって訳じゃないもん。ダメなものは、ダメ」
あ、やっぱりお狐様って、尻尾の数がステータスなんだな。
「フン! 聞いておるぞ! お主確か、ユウゴに負けて、逃げ帰った狐じゃろう!」
「なっ、別に逃げとらんわ! 作戦目標を達成した故、引いただけのこと!」
「よく言うわ! 大方、ユウゴの予想外の実力に驚いてすごすご引き下がっただけじゃろう! 全く、お主程度が我が旦那様に勝とうなぞ、千年早いわ!」
「むっ、ぐむむ……」
今度はツクモが言い返せなくなり、押し黙る。
どうでもいいけど、とりあえず俺を槍玉にあげるのやめてくれないか。
「ほうほう! あなたは、海凪 優護の奥さんなのですか」
「そうじゃ!」
「違います」
「ふふふ、仲が良さそうで何よりです。海凪 優護、奥さんは大事にするのですよ」
「大丈夫じゃ! 此奴、人のいるところじゃと照れ隠しするが、二人だけの時は、毎日らぶらぶじゃからの!」
「そうですか、それは何よりです」
「違いますからね?」
「……杏ちゃん、ここにいる人達のこと、知ってる? 見た限り、人間が優護君と杏ちゃんだけみたいなんだけど」
「漣華さんも人間では?」
「私、人間じゃないよー。まあ、異種族の血は薄いからほぼ人間と変わらないけど、分類的には多分人外になるかな」
「そ、そうなんですか。……とりあえず、ここにいる人の大体はわかります。プカプカ浮いてる人形はわかりませんが……まあ十中八九、優護関係なんでしょう」
「ふふ、杏ちゃんもなかなか、彼のことを知ってるようだねぇ。やっぱり優護君、君の前でもアレな感じ?」
「アレな感じです。そういう漣華さんも、やっぱり?」
「どうやら私達、分かりあえそうだね」
「はい。色々、お話を聞きたいところです」
「……ウタとやら! 貴様とはどうやら、決着を付けねばならぬようであるな!」
「同感じゃ! お主は儂が、しかと成敗して、二度とちょっかいを出せんようにしてやろう! ――そう、この、ま〇おかーとで!」
「マリ〇カート?」
「ふふん、お主らのような者は、こういうのをやったことがないじゃろう! ほれ、すぐに準備してやる故、こちらに座れ」
「ほぉ、まあ良かろう。じゃあ妾、この紫の細長に、芋虫のバギーで、カスタムはこれとこれな」
「……こ、此奴、手馴れておる!?」
「くふふ、阿呆め! 妾はこのゲームを上位レートになるまでやり込んでおる! そこらのひよっこが勝てると思うでないぞ!」
「そうか、暇人なんじゃな」
「ひ、暇人ちゃうわ!」
「こんにちは、同族の子。私の名前はシロです。シロちゃんと呼んでください。あなたのお名前は?」
「……凛」
「凛ですか。良い名前です。この世界は、私達が生きるには、少し大変なところがあります。なので、何か困ったことがあったら、遠慮なく言うといいです。すぐに駆け付けてあげますから」
「……ありがと、シロお姉ちゃん。でも大丈夫。いつも、お兄ちゃんがよくしてくれてるから」
「ふふ、そうですか。私も、海凪 優護にはよくしてもらいました。仲間ですね」
「……シロお姉ちゃんも?」
「はい、そうです。だから、恩を返さないとなと思っています」
「……ん、凛も。お兄ちゃんの助けになるのが、今の夢」
「可愛い子です。でもきっと、その可愛さだけで、海凪 優護は助かっていると思いますよ?」
各々が好きなことを好き勝手に喋り、全く収拾が付かなくなった我が家。
……圧倒的カオス!
まだそれぞれの紹介すら出来てねぇ!
ちなみにそんな俺達の横で、緋月が「コイツら、うっさ!」と言いたげな顔をしてどこか奥へ逃げていき、どうも人見知り気味らしい華月もまた、それに付いてこの場から逃げて行った。
ごめん戻って来て。最初の顔見せだからさ。




