閑話:何でもない時間
短くなっちゃったので閑話。
ベッドに寝転がりながら漫画を読んでいると、ふと髪をピンピンと引っ張られった。
何だ? と思って周りを見るも……何もない。
不思議に思いながらも、特に気にせずに再び漫画を読み始めると、再び髪をピンピンと引っ張られる。
そこでようやく、これが何か気付いた俺は、ベッドの上を転がり――何食わぬ顔で窓辺で丸くなり、だがこちらを見ていた緋月を、パシッと両手で捕まえた。
「はは、やったな、緋月!」
そのまま抱き上げてわしゃわしゃと撫でてやると、緋月は嫌がるような顔を見せつつも、しかしいつものようにこちらに反撃はして来ず、逃げず、されるがまま。
頭を撫で、顎下を撫で、全力で可愛がってやり、すると緋月は尻尾をクネクネさせる。可愛い奴め。
そうしてしばらく撫でてやっていると、やがて満足してくれたのか、ぷいっと俺から顔を逸らし、腕の中からするりと抜け出し、ベッドを離れて再び窓辺で丸くなり始めた。
うーむ、まんまお猫様だな、お前。
緋月は、いつもこうして猫フォルムを外に出している訳ではなく、そこは気分次第のようだ。
さっきまでいなかったのに、後ろを振り返るとそこで丸くなって寝ていた、ということもよくある。
が、飯時だけは必ず現れる。
どうやら、猫状態で飯を食うのが気に入ったようで、俺達と同じメニューを食べる。お腹いっぱいになって、ぷっくり膨れている時がどちゃくそに可愛い。
ちなみに、一回だけキャットフードを出してみたのだが、別に食べられない程ではないものの普通の飯の方が美味い、みたいな感じの、微妙そうな表情をしていた。
が、ちゅ〇るは好きみたいだ。試しに食べさせてみたら夢中になっていた。好物の魔力を食べた時くらいの食いつきだった。やっぱりすごいな、ちゅ〇る。
まあ、これからも、俺達と同じ飯を食べさせてやるとしよう。
俺は笑って、再び漫画を読み始め――また、ピンピンと髪を引っ張られる。
が、今度は先程と感触が違う。というか、小さな手の感触がある。
ゆっくり移動して――一気にバッと動き、俺はその場にいたリンを捕まえた。
「捕まえたぜ、リン!」
「……んふふ! 捕まっちゃった」
わしゃわしゃと頭を思いっ切り撫で、狐耳をいじりまくり、首の辺りを軽くくすぐってやる。
最高に触り心地の良い感触を楽しんでいると、リンはくすぐりに耐え切れず、笑いながら小さく悲鳴をあげて、俺から逃げて行った。流石に可愛過ぎるな。
リンがいるだけで、我が家の空気は百二十パーセント増しで良くなる。
つまりリンは――空気清浄機ということだな!
そして再び、俺は漫画に戻り……やはり感じる、気配。
が、やられるばかりでは面白くない。
元勇者は、三度も同じ失敗はしない。二度同じ失敗は時々する。まあ人間ってそんなものだろ。
今度は、俺から先に動いた。
「先手必勝!」
「うにゃっ!?」
背後にいたウタを、がっちり掴み、そのままベッドに引きずり込む。
両足でホールドし、空いた両腕で思いっ切り頭を撫でてぐしゃぐしゃにし、そのまま全力でくすぐり始める。
「わひゃっ、わひゃひゃっ! ちょっ、ま、待て!」
「待たん! お前には、リンと緋月の分も合わせて、元勇者のくすぐり刑を受けてもらおう!」
「な、何故儂が――わひゃひゃひゃっ! くっ、な、ならば儂も負けはせん! 食らえ、魔王仕返しくすぐり拳―――うひゃひゃっ!」
ウタも俺をくすぐり返そうとするが、体勢的に俺が有利を取っているため、彼女は上手くこちらに腕を回せていない。攻勢は、圧倒的に俺が押している。
このまま、笑い倒してやる――と、思ったのだが。
「……凛も混ざる!」
登場する伏兵。
ポーン、と飛んできたリンは俺達に加わると、思いっ切り俺をくすぐり始めた。
「なっ、何!? うわっ、ちょっ、あははは!」
「良くやった、リン! このまま二人で、此奴を成敗してやるぞ!」
「……ん!」
「くっ、形勢逆転か! が、勇者ってのは、こっから力を発揮するもんだ! 二人纏めて、笑い倒してやる!」
始まる戦争。
小さな手が四本、俺の身体を這い回るが、勇者は諦めないし、負けはしない。
最後は必ず、正義が勝つのだ!
――ちなみに緋月は、素知らぬ顔で一匹、俺達のことなど気にせず毛繕いしていた。
お猫様。




