増えた家族《3》
感想いつもありがとう!!
緋月は、精霊種となったことで、魔法が使えるようになったらしい。
今までは、ただひたすらに魔力を吸収するのみであり、それ以外のことは出来なかったが、しっかりとした意識を確立したことで、その貯め込んだ魔力を己の意思で操作出来るようになったようだ。
もしかしたら、今の緋月になら刀身に魔法を乗せて放てるかと思ったが、それは無理だと首を横に振られた。無理か。まあしゃあないな。
魔法が使えるのは、今みたいに意識を外に出している状態の時のみらしい。この状態でも、刀本体は変わらず魔力を吸い続けるようだが。
特に、念力が得意なようで、なんか毛布がふよふよ浮いてるなと思ったら、そのまま緋月のところまで行って寝床になっていた。
緋月程の猫になると、自分で毛布のところに行くのではなく、毛布の方を自分のところに持って来るようだ。
つまり緋月は、俺達のような五本指は持っていないが、しかし同じだけ器用なことが出来る訳だ。
ということは――俺達と一緒に、ゲームが出来るということである。
「……! 緋月、強い!」
「ぐ、ぐぬ、やるのぉ、お主!」
緋月の魔法によって、独りでにカチャカチャと動くコントローラー。
今日初めて触ったもののはずだが、全く問題なく操っており、ぶっちゃけ現時点でウタより操作が上手い。
やっているのは、四人で出来る配管工のおっさん達のパーティゲームだ。何だかんだみんなで一緒に遊ぶとなると、これが一番面白いのだ。
流石、長く続いているシリーズだけはある。
「ふふふ、見たか、これが緋月の実力だ!」
「いや何でお主が偉そうなんじゃ。普通にお主も負けておるが?」
「それは勿論、俺と緋月は一心同体だからな! ということは、緋月の勝ちは、俺の勝ちってことだ!」
「……ならば、ユウゴと一心同体である儂の勝ちでもあるな!」
「そんな訳ないだろ。何言ってんだお前」
「お主だけは儂にそれを言う資格が存在せんぞ」
「……むぅ、凛は、みんなと一心同体……?」
「おぉ、勿論だ! つまりこれは……俺と緋月とリンの大勝利ってことだな!」
「割とちゃっかりしておるよな、ユウゴ」
そんな俺達の横で、いやそんな訳ないだろうが、と言いたげな様子で俺に猫パンチを食らわせる緋月である。我が愛刀の愛が痛いぜ。
まあ緋月、見た目が猫なだけで、中身は別に猫じゃないしな。……いや、動きはまんま猫だけど。
正直、以前からコイツに、何だか意識っぽいものがあるんじゃないかとは思っていたのだ。
そもそも、俺が本気になったのを察して刀身に赤が走るって、そうじゃないと起こらないだろうし。好物の魔力を前にした際、テンションが上がったように赤が走るのもそうだ。
最初がただの刀だったのはよく知っているので、いつからそうなったのかはわからないが……昨日今日で意識を確立した訳ではないのだろう。
――そうして結局、勝負は緋月の勝ち。俺達と二個も星を引き離しての、圧勝である。
というかこれ、俺もゲーム下手なんだろうな。普通に。割とロマンに走りがちなのは自覚しているのだが、それで普通に失敗して負けるパターンが多い気がする。
そして、俺以上にロマンに走るのがウタで、時々爆勝ちするが、大体大負けしている。以前は全部負けだったが、ゲームというものに慣れてきたことで、時々勝てるようになったのだ。
勝って、こっちにドヤ顔を向けてくる。十回やって一回勝っただけでもドヤ顔を浮かべる。そのどや顔がムカつくので、もう一戦やって負かして、「んなぁっ!?」っていう顔をさせるまでがセットだ。
緋月は、賭けに出ることもあるが、計算尽くで動いている感じがして、今回の勝負もそれが如実に出ている気がする。マップをちゃんと確認して、歩数を確認して、アイテムも確認して、最も効率的に動くにはどうすればいいのか、考えている様子が窺えた。
我が刀の方が賢い。それは俺にとって、全く悪いことじゃないので、正直普通に嬉しい。
リンは……まあうん、可愛いから全て良し、だ。
「……今のは、緋月の勝ち。でも、負けない! 次は、別のことで勝負!」
そう言ってリンが取り出したのは、我が家にあった折り紙。
「ふむ、以前なんかユウゴが買っておった紙じゃな。これは、遊び道具なのか?」
「あぁ。折り紙って言って、色々と折ることで形を作るんだ。上手い人だと本当に色々作れるらしいんだけど、俺は何にも出来ん」
昔に、鶴とか手裏剣とかは作った覚えがあるが、昔過ぎて流石にもう覚えてない。
小学生の頃、カメラとぱっくんフラワーの折り紙が、何だかすごい流行ってたのは覚えているが……今の子もやるのだろうか。折り紙って。
「……それじゃあ、凛が教えてあげる! まずは、鶴さんから」
そうしてゲームをやめた俺達は、張り切っているリンに鶴の折り方を教えてもらう。
勿論、緋月も一緒だ。
「……それで、ここをこう折るの」
「ウタ、折ったところが大分ズレてるぞ」
「う、うるさい。思った通りに折るの難しいんじゃ、これ!」
「最近料理出来るようになったし、器用になったと思ったけど、そうでもなかったみたいだな」
「……そういうお主こそ、ずれておるではないか!」
「いやいや、今のところ俺のはピシッと――あれ?」
「……んふふ。最初はみんな、そんなもの、だよ?」
やがて出来上がる、四羽の鶴。
凛のピシッと、とても綺麗に折れていたが、俺のとウタのは、形にこそなっているものの結構ズレていて、何だか飛ぶのが下手そうである。
……おかしい、俺は別に、鶴を折ったのは初めてじゃないんだが。
そして最後の、緋月の鶴だが――。
「…………!」
伸びー、という感じで身体を伸ばしていた緋月の前にあるのは、なんか、デデーン! という効果音が付きそうな感じのポーズを取っている折り鶴である。
うん、まあ……十中八九念力で動かしてポーズを取っているのだろう。
だがそれを見て、リンは何故か衝撃を受けたらしく、その場で四つん這いになる。
しなしなとしおれている尻尾と耳。
「……負け、た!」
あ、リン的にはこれは負けなんだ。
「にゃあ」
まあお前もよくやったよ、と言いたげな様子で、四つん這いのリンの頭を軽くぺしぺしする緋月である。
「……むぅ、でも、勝負はこれから! 次は、もうちょっと難しい折り紙で勝負! もう、負けない!」
「にゃあ」
やれやれ、しょうがないな、と言いたげな様子で頷く緋月。
――その後も、何だか一人と一匹は勝負していたが、最終的に緋月が勝ち越したことで、我が刀が姉で、リンが妹という格付けになったらしい。
が、格付けは順次変動することもあるようで、リンが「……次こそは!」と意気込んでいた。緋月はもう飽きたようで、ベッドで丸くなって昼寝を始めていたが。
……まあ、これはこれで、仲が良いと言えるのかもしれない。




