増えた家族《1》
あけましておめでとう!
あばよ、2024! 一年間世話になったぜ!
おいでませ、2025! 一年間楽しくやろうや!
そして同時に新章開始!
――何か、ボフッと顔に乗った感触で、俺は目が覚めた。
「……んぅ……?」
温かい、モフモフの何か。
寝起きはあんまり良くない俺だが、流石に即座に意識が覚醒し、俺は己の顔に乗ったものを持ち上げる。
黒い塊。
柔らかく、触り心地の良い毛並みで、温かい。
目が合う。
――それは、黒猫だった。
「……え、猫?」
黒猫は、持ち上げたのに全く抵抗しない。
こちらを見詰める、赤い瞳。
何だか見覚えがあるような、親近感を抱くような。
俺はその瞳を、見返す。
「……え、猫?」
割と混乱して、思わず同じことを呟く俺である。
……というか、野生の猫に家に入り込まれて、顔にまで乗られて、ようやく気付く?
向こうの世界ならば、半径十メートル以内に異物を感じたら自動的に目が覚めていたのだが……こうやって顔に引っ付いてくるまで気付けなかった。
だんだん、己の精神が日本準拠のものに変わってきているのは自覚していたが、俺の警戒能力は、いったいどこまで錆び付いてしまったのか。
「……お前、いったいどこから侵入して来たんだ」
流石に、猫が家に入って来れる程、窓や玄関のドアを開けっ放しにはしていなかったはずだが……ウタが入れたのか?
俺の問いに、当然ながら黒猫は答えない。
持ち上げられたまま、ただジッと、こちらを見返すのみである。
何だか深い知性を感じさせる、こちらを試すような色が瞳に宿っている。
……試す?
黒一色の毛並みに、赤の瞳という色合い。
そして、初めて見たはずのこの猫に対する、まるでウタやリンに対する時のような親近感。
その瞳を見ている内に、ふと俺は、思い付くものがあった。
「お前……もしかして緋月か?」
「にゃあ」
黒猫は、さっさと気付けと言いたげにこちらをジト目で見ると、一声鳴いてヒョイと俺の手から離れ、そして毛繕いを始めたのだった。
◇ ◇ ◇
「――いや、一目見ればわかろう。お主のカタナと同じ気配を放っておると。流石に儂も、最初は驚いたがの」
俺より先に起き、朝飯を作り始めてくれていたウタは、料理を続けながらそう言った。
最近朝飯は、ずっとコイツが作ってくれている。気付いたらもう起きて用意してくれているのだ。
料理の腕がメキメキと上昇し続けているウタなので、実は最近朝飯を食べるのが楽しみになっている。時折失敗しているのはご愛敬だ。
ちなみに日朝だけはアニメを観るので、その時の朝食を作るのは俺の役目である。
昼と夜は、まちまちだが大体二人で作ることが多いな。夜はレンカさんの料理なことも多いが。
「いや、緋月と同じ気配って……まあ確かに俺も、似たような気配だって思ったから気付けたんだけどさ」
思わずアイテムボックスから緋月を取り出す。
変わらぬ、黒の刀身。
次に、ベッドで丸くなっている黒猫を見る。
くあ、とあくびをし、我が物顔で俺の枕を占領して、まるでずっと以前から我が家にいたかのような感じで寛いでいる。
……とりあえず、緋月が黒猫に変貌した、という訳ではなく、そこから分身を出しているような状態であるようだ。
分身というか、意識だけが外に出ている、といった感じだろうか?
そして俺には、こういう生物に心当たりがある。
魔力が高じたことで生み出される存在。
――精霊種。
緋月は、向こうの世界で散々っぱら魔力を食いまくり、ついにはウタの持つ大剣、『禍罪』と斬り合える程になった。
冗談ではなく世界最強であったウタのことも斬ってその魔力を食い、そしてついこの前、五ツ大蛇の魔力もたらふく食ったことで、ついに臨界点を迎えたのかもしれない。
そう納得出来るくらいには、緋月が食らった魔力は膨大だからな。
「……お前、随分可愛らしくなっちゃったな」
さわ、と頭を撫でてやると、目を細め、受け入れる緋月。
一応お前、強敵をバッタバッタと斬りまくって、わかる者が見れば震える程の、割とマジで世界最高峰の一振りだと思うんだけど……それが黒猫になるとは。すごい可愛い姿なんだが。
……まあ、お前の選択がその姿なら、それでいいか。
緋月が、猫となることを決めた。
なら俺は、受け入れるのみである。
「とりあえず、このアパートペット禁止だから、あんまり鳴かないどいてくれよ?」
すると緋月は、そんくらいわかっとるわと言いたげな様子で、ぺしっと猫パンチを一発俺にお見舞いする。
……何だか、まんま猫みたいな挙動をしているが、元々こんな感じだったような気もするから不思議である。
敵の魔力を吸うどころか、使い手である俺の魔力すら流し込んだら吸ってしまう、勝手気ままな性質。
考えてみれば、割と猫っぽいかもしれない。
「……あと、聞いときたいんだけど、お前ってオスか?」
「…………」
「いてっ」
不快げな様子で、またぺしっと一発猫パンチされた。さっきより強かった。
この反応からすると、どうやらメスのようだ。
「い、いや、流石にわかんないって。そもそもお前、刀だろう。本来オスもメスもないはずだろ?」
そう言い訳するも、ぷいっとそっぽを向く緋月に、思わず俺は苦笑する。
あー……猫になったんなら、猫用品の一式も用意するべきか。キャットタワーとかも買うか?
また金が消えて行くな。今はいっぱいあるからいいんだけどさ。
餌は……キャットフードとか食うのか? コイツ。
いや、勿論基本的に必要なのが魔力なのはわかってるんだが……。
「ほれ、ユウゴ、朝飯出来たぞ」
「おう、ありがとう。……これ、もしかして緋月の分か?」
「うむ、さっき儂に、同じものを食いたいと言うてきたでな。作った」
朝食は、三人分用意されていた。
するとベッドで寛いでいた緋月は、ヒョイとそこから降りると、座卓の上に行儀良くお座りして待つ。
「さ、ユウゴ、食うぞ」
「あ、あぁ。いただきます」
「いただきます」
「にゃあ」
俺達と同じように、緋月もまた一声鳴き、俺達と同じメニューを食べ始めた。
……ま、まあ、見た目は猫でも、実際は刀な訳だし、俺達と同じものを食っても問題ないか。本人、いや本猫が食べたいって言ったそうだし。
仮に問題があっても、一応回復魔法は使えるので、ちょっと様子は見ておくか。
「……それにしてもウタ、お前、随分と受け入れるのが早いな」
俺が寝てた間にも、当たり前のように会話してたみたいだし。
一応、お前貫いたの、緋月なんだが……いやまあ俺も、別にウタの使っていた『禍罪』に対して思うところは何にもないのだが。
「え? じゃって、ユウゴのカタナじゃし。家族じゃろう。ならば、別に。元々お主と共にあったものじゃし、普通に受け入れるが」
「家族……家族か」
その言葉は、俺の中にすとんと入って来た。
俺にとって緋月は、戦場を共に駆け抜けた相棒だったが……。
「……そうだな。家族だ」
「儂と同じな」
「そうだな――い、いや違うだろ」
「はい、一回頷いたので駄目ですー! お主はもう認めましたー!」
「駄目って何だ、駄目って。子供か」
「朝のお主は、素直でほんに可愛い奴じゃのぉ? 普段もそのままだったら良いのに」
「……うっさい」
からからと笑ってこちらを見てくるウタから、俺は顔を反らした。
そんな俺達の横で、緋月は「何だコイツら」と言いたげなジト目を一度こちらに向けた後、我関せずと言った様子で朝飯を食べていた。
――こうして我が家に、家族が一匹増えたのだった。
人化はしないと言った。
が、獣化しないとは言ってない。
はい、ペット枠です。ペットは必要だからね、ウチの作品にはね。
狼か小型ドラゴンか猫かの三択で迷ってたけど、緋月、なんか猫っぽいから猫にしました。




