山を食らう蛇《9》
忌みウィルム正解。
イミテーションのイミ+忌みって感じ。
巨体が爆散するように消えて行くのを見て、思わず俺は、その場にすとんと座り込んでいた。
「はーっ……疲れた!」
とんでもない詐欺魔物め。全く、久しぶりに疲れたぞ。
すごい集中したので、少し頭が痛い。というか、居合のためにちょっと無理な身体強化を行ったので、動けない程じゃないが、肉体も節々が痛い。明日は酷い筋肉痛だろうな。
俺の肉体、向こうの世界程の筋力はまだ全然取り戻してないし。ウタ監修のおかげで、多少マシになってきたけどな。
「お疲れ、緋月。ありがとな」
我が愛刀からゆっくりと刀身の赤が消えて行き、黒一色に戻ったのを見て、鞘に収め直す。
五ツ大蛇の大本を斬り殺したことで――つまり魔力の発生源を斬ったことで、美味しい魔力をたらふく食えただろうし、今日の戦闘は緋月も満足してくれたことだろう。
……まあ、かなり疲れたが、コイツが喜んでくれたのなら、収支的には大幅にプラスだな。
「海凪 優護、お疲れ様です」
「海凪君、お疲れ様だ」
そんな俺の横にやって来る、シロちゃんとアヤさん。
「うっす。シロちゃんとアヤさんも、お疲れ様です」
「……み、海凪君、シロ様のことをちゃん付けで呼んでいるのか!?」
「え? はい。本人がそう呼んでほしいって言うので」
割と呆れた顔で言葉を続けようとするアヤさんに、シロちゃんが口を挟む。
「綾、それは私がお願いしたことで、さらに今は、そんなのはどうでもいいことです」
「う……そうですね、すみません」
いやまあ、反応的にはアヤさんが正しいんだろうがな。
思わず少し苦笑してしまう俺に、シロちゃんは姿勢を正し、綺麗な所作で頭を下げる。
「ありがとうございます、海凪 優護。あなたのおかげで、日ノ本に残る脅威の一つを、消し去ることが出来ました。あなたの行動は、この国を確実に救いました」
俺は笑って、肩を竦める。
「俺はシロちゃんの手伝いをしただけですよ。シロちゃんが動こうとしなければ、俺も動きませんでした。そういう訳なので、あんまり大袈裟にするのはやめてくださいね。あくまでバイトとして、シロちゃん達を手伝っただけなんで」
「……あなたは、それでいいのですか?」
「それが俺の望みです。いや、マジで望んでます。変に伝わって、助力を頼まれるようになるのは嫌なので、主力はちゃんとシロちゃん達だったってことにしてください。俺はあくまでバイトなので」
「海凪君がバイト扱いになってるのは知ってるけど、すると今後バイトに求める能力の下限が凄まじいことになりそうだね」
……まあ、確かにあのワームの相手は、バイトの仕事ではないかもしれないが。
「……わかりました。それがあなたの望みならば」
シロちゃんはコクリと頷いてそう言うと、傍らに落ちていた、俺が切断した剣の残りを拾い上げる。
「それにしても、この魔物はどうやら、私達が思っていたものとは違ったようですね」
恐らく草薙剣を模したのであろう剣。流石に本物ではないと思うが……。
すでに緋月が魔力を吸い尽くした後なので、もう何の反応を示すこともない。
「そうみたいです。五つ頭の蛇じゃなくて、五つ尾のワームだったようです。核はこの剣で――となるとやっぱり、この魔物は誰かが生み出したものだったってことでしょう」
「……ツクモが言っていました。今回の動きには、てろぐるーぷの裏に誰かがいる、と。それが五ツ大蛇発生と関係のある者ならば、少なくとも二百年前から活動していたことになります」
少し険しい表情で、そう言うシロちゃん。
シロちゃんやツクモみたいな長命種がいるのだ、二百年生きている者がいるくらいで今更驚きはしないが……そのレベルの者が敵にいる可能性があるのか。
ハァ、面倒だな……まあいい、これからも俺のすることは変わらない。
俺の生活圏内で手を出してくるのなら、排除するだけだ。
あとは……ま、シロちゃんが手伝ってほしいと言うなら、手伝うとしよう。
日本をずっと守ってきてくれたこの人を手助けしなかったら、普通に罰が当たりそうだしな。
「そういや、そのツクモはどうしたんです?」
「こちらには来ず、別の方向から敵の調査を行っているようです。この近辺にはいるはずですが――」
「――いるぞ、ここに」
そう言って空から降ってくるのは、ツクモ。
その姿を見て、シロちゃんの一歩後ろに控えているアヤさんが少し険しいような表情を浮かべるが、何か口を開くことはなかった。
「いやはや、本当に倒し切るとは……大したものであるな、海凪 優護」
「お前が参戦したらもっと楽になっただろうがな」
「くふふ、ま、そう言うな。妾も別に、遊んでいた訳ではないでな。故に海凪 優護、これ、妾が回収してもよいか?」
ツクモが指差すのは、斬った剣の残り。
「俺に聞くな、シロちゃんに聞いてくれ」
俺バイトだから、そういう決定権は持たないだろうし。
というか、緋月に魔力を吸わせて用済みな以上、折れた剣なんてゴミにしかならないだろうし。
そんな俺の意思を察してくれたらしく、シロちゃんが話に入る。
「む、流石に私も、それをうんとは言えませんよ、ツクモ。貴重な敵の手掛かりです、我々も調査はしたいです」
「しかし、貴様のところでは無駄に時間が掛かろう。妾のところならば、仮に時間を掛けたとしても、その分詳細なデータを用意出来るぞ」
「あなたの調査、半分くらい違法でしょう。……わかりました、では海凪 優護がちょうど真っ二つにしてくれていますから、片方ずつ持ち帰るということでどうでしょうか」
「ふむ、まあ良かろう。じゃあ妾、こっちの上半分な」
「むむ、待ってください。そっちの方が少し長い気がします。調査に有利ではありませんか?」
「いやスイーツを前にした女子か己は。……わかったわかった、ほれ、なら妾が下半分で良いから」
何だか大分仲が良い様子でそんなやり取りをする二人に、思わず俺は少し笑ってしまいながら、予め渡されていた無線を起動する。
「キョウ、無事かー」
『優護!? 無事か!? そっちは大丈夫なのか!?』
俺の問いに、無線越しに返ってくる声。
この声音からすると、結構心配してくれていたのだろうか。
「こっちはもう終わった。そっちはどうだ? 厳しそうなら応援行くぞ」
『え、いや、けど、アンタ一番キツい戦闘をしてくれてたんじゃ……』
「俺の消耗は気にしないでいい。疲れてないと言えば嘘になるが、この程度なら全然許容範囲内だ」
命懸けの戦闘とはいえ、結局俺が奴とやり合っていたのは一時間にも満たない。
まだまだ軽い軽い。
『……わかった。悪い、なら助けてくれるか。田中隊長が頑張ってくれてるんだが、ちょっと数が多い』
「了解。すぐ行く。――うし、そんじゃあ俺は、応援に行ってきます」
「良いのですよ? あなたはもう十分戦ってくれました、休んでいても誰も文句は言いません」
「いえ、知り合いがまだ戦ってるんで。とりあえず、蛇ワームの討伐、お疲れ様でした、シロちゃん。アヤさん。ツクモもな」
「お疲れ様でした、海凪 優護」
「君がいてくれて助かったよ」
「くふ、貴様の底はまだ見えなそうであるな」
「お前には見せねぇ」
そうして俺は、その後も掃討戦に参加し――日が昇り始めた頃に、作戦は終了した。
家に着いた頃には完全に朝となっていたのだが、ウタはどうやら寝ずに待ってくれていたようで、帰ると一瞬だけパッと表情を明るくさせ、だがすぐに平然とした様子で「おかえりー」と言っていた。
どうやら、表には出さずとも、コイツはコイツで俺を心配してくれていたようだ。
が、その後、俺の全身から漂う御神酒のアルコール臭を嗅いで、怪訝そうな表情で「お主、本当に戦ってきたんじゃよな……?」と疑われた。
戦ってきたんです。
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