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元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~  作者: 流優
地球ってこんな不思議惑星だったっけ
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地球事情《2》


 一旦家に帰り、スーパーで買ったものを冷蔵庫にしまった後、外で待っている女子高生の下へ戻る。


 すぐ傍の路地に黒塗りの車が止まっており、女子高生は慣れた様子で中に入ると、俺を手招きした。


 俺達が乗り込むと、すぐに車は走り出し、夜景が窓の外を流れていく。


「今更だが、名前聞いてもいいか? そっちは知ってるみたいだが」


「あたしは清水 杏だ」


「そうか。よろしく、キョウ。とりあえずこっちもちゃんと名乗っとくが、ユウゴ――いや、海凪 優護だ」


「……きょ、杏?」


「? ……あ、悪い。よろしく、清水さんに訂正で」


 しまったな、向こうの世界だと名前で呼ぶのが普通でそれが染み付いてしまってたんだが、ちょっと馴れ馴れしい奴みたいに思われただろうか。


 まあ、別にどう思われてもいいんだが。


 ただ、女子高生はジッと俺を見たかと思うと、言った。


「……いや、杏のままでいい。その代わりあたしも優護って呼ぶが、いいな?」


「おー、好きに呼べ。――ところで、ちょっと前みたいなことは結構あるのか? 俺、キョウ達が来る前にオーガを斬ったんだが」


「オーガ? ……あぁ、大鬼か。あそこに出現してたのは、大鬼だったか」


 なるほど、こっちだとオーガは大鬼って呼ばれてるんだな。


 確かに角あるし、鬼っぽい。オーガ。


 いや、そもそも別種だと考えるべきか? 姿形が似ているだけで。


「雑魚なら割と、月数回現れやがるが、大鬼クラスだと年一回あるか無いかってところだな。……ただ、年々出現する『特殊害獣』――通称、『魔物』の数は増えていて、それに比例して強さも上がってるって報告はあるみたいだ。実際、あたしらの出動件数もだんだん増えてる」


 特殊害獣か……政府っぽい名称だな。


「魔物の出現がわかんのか?」


「ある程度は。アンタだってわかるんだろ? あたしらよりも先にあの現場に着いてたくらいだし」


「経験上、ちょっとな」


「経験上、ね?」


 意味ありげにこちらを見上げてくるキョウをスルーし、俺は言葉を続ける。


「あと、魔力について聞いてもいいか? 地球にも、昔からそれがあったのか?」


「……質問の意図がわかんねぇが、まあそうだ。陰陽師、シャーマン、魔女、聖騎士、それらの技術が今も世界各国に残ってる。ウチの組織も、『陰陽寮』の流れを汲んでるとこだ。表向きは明治維新後に解体されてるが、実際にゃあ現代まで維持されてて、今は防衛省に組み込まれてる。つっても、防衛省内部でもウチを知ってんのは高官くらいだし、組織としてはほぼ独立してんだが」


 陰陽寮と言うと……確か、占いとか天文学とかをやってた昔の組織だったか?


「そうか。陰陽寮か。ウチの近所にも昔あったな、陰陽寮。名物の建物としてどこそこで有名だったとか、そうでもないとか」


「……陰陽寮は組織名だ。そういう国の機関が――あぁもう、あたしだってそんな詳しかねぇんだよ! てか、何であたしがこんなことを、よく知らんアンタなんかに教えなきゃならねぇんだ!?」


「勉強は大事だぞ、キョウ。学生ならちゃんと学ばないとな」


「ア、ン、タ、に、言われたかねぇんだよっ!」


 がーっ、と吠えるキョウに、俺は笑った。


 何だかこの女子高生とは仲良くなれそうだ。



   ◇   ◇   ◇



 その後も、色々と地球事情を聞いている内に、車は停止した。


 連れて来られたのは、一見すると何の変哲もないただのビル。


 名称は、『第二防衛支部』と言うらしい。


 ――おぉ、すげぇ。しっかりした結界(・・)が張ってあんな。


 ビルを覆うようにして形成されている、結界。


 かなりの強度があるのがわかり、俺が本気で攻撃しても一撃ならば耐えることが可能かもしれない。緋月使ったら確実に無理だけど。


 そして、そんな強度がありながら、結界の隠蔽技術も一流だ。並の者だと、そもそもそれがあることすら気付けないだろうな、これ。


 同時に展開されているのは、人除けの魔法だろう。多分、目的を持ってここに訪れた者以外は、『ビルがある』という情報以外何も頭に残らないはずだ。


 へぇ、こっちの魔法も面白いな。魔法式がどうなってるのか、ちょっと興味が湧いてきた。


 まさか日本にもこのレベルの結界が張れる技術があるとは。正直普通に感心した。


「……こんな仕事、やるだなんて言わなきゃ良かったわ……」


「何だ、疲れてるのか? 子供なんだから、そんなになるまで働くのは良くないぜ」


「誰のせいだと思ってやがんだ、このすっとこどっこい!」


 すっとこどっこい。


「ハァ……まあいい、こっちだ。付いて来い」


 ため息を吐きながら、キョウは慣れた様子で中を歩き、どこからともなく取り出した社員証らしきものを機械に読み込ませると、そのまま俺をエレベーターまで連れて行く。


 彼女がボタンを押した先は、地下。


 数秒して辿り着き、その先にあったのは――訓練場だった。


 だだっ広い体育館のような空間がまず一つあり、そこにトレーニングルームやら、何らかの機械が置かれた部屋やらが隣接していて、結構な面積だ。


 ちなみに、ここまででキョウ以外の人員は誰も見ていない。一階に受付すら無かったし、やはり秘匿されている建物なのだろう。


「ここの設備は、ウチの関係者ならいつでも使っていい。――こっちだ。ここで計測する」


 そのまま連れていかれたのは、先程から見えていた機械が置かれている部屋。


「測定もキョウがやってくれんのか?」


「仕事だっつったろ。それに、アンタみたいな素性の怪しい奴の相手、他の奴に任せらんないだろ」


 ……なるほど、仮に俺が暴れた場合のことを想定してんのか。


 他の人員が誰もいないところから考えるに、最悪の場合でもキョウのみの犠牲(・・・・・・・・)で済むように、ってことだろう。地下なら閉じ込めることも出来そうだしな。


 非情と言うべきか、それとも合理的と言うべきか。


 ただ――俺は、好きじゃない。そのやり方は。


 危険な事柄は子供に任せて、自分らは安全圏から(・・・・・・・・・)高みの見物か(・・・・・・)


 チラと、さっきから俺の動きを追っている監視カメラの方を見る。


 ……まあいい、あんまり深く関わるつもりも無いのだ。さっさと終わらせて帰るとしよう。


「そんじゃ、そこの目印んところに立ってくれ」


「了解」


 言われた通り、俺はなんかよくわからん球体の、SFっぽいフォルムの機械の中心に立つ。


 すると、ウィーンと動き出して俺の全身をスキャンし始め、数十秒程で停止。


 キョウは、言った。


「……おい」


「何だ」


「……測定結果が一般人と変わらねぇんだが?」


「お、つまり俺が一般人だということが証明――」


「次、それを言ったらぶん殴る」


 食い気味でそう言ってくる少女に、俺は降参と両手を挙げた。


「あのな、優護。これはな、ソイツが持つ魔力量を正確に測るためのものなんだわ。というか、本来は誤魔化せるシロモノじゃねぇんだが……」


 と言われてもな。流石に全力なんて出せないし。


 俺の魔力量は異常だ。さっきキョウが冗談で言っていたが、化け物と言われても全くその通りで、俺以上の化け物である魔王が向こうの世界にはいたが、ぶっちゃけ俺もその枠組みには入れられていた。


 恐れられるくらいならいいんだがな。変に騒ぎになるのは勘弁だ。


「……ハァ、まあいい。いや、本当は全然良くねぇが、己の手札を隠したいって奴は一定数いるからな。ただ、これで登録するとなると、アンタの能力は最低相当になる。それでいいんだな?」


「おー、じゃあそれで」


 頭の痛いような表情で、手元のタブレットに何かを打ち込んでいくキョウ。


「ったく……アンタのランクは『F』だ」


「ほう、ランクとな」


「能力の等級だ。魔力量だけでそれが決まるモンじゃねぇんだが、アンタは本当に興味ねぇらしいかんな。それでいいだろ」


 話を聞くと、どうやら魔力を扱える者は、便宜上『S~F』まででランク分けされているらしい。ちょっとゲームっぽいと思ったが、実際こういう感じにした方がわかりやすいのだろう。


「よし、じゃあこれで――」


「帰らせねぇよ? 今からあたしの上司に会ってもらう。安心しろ、遅くなってもちゃんと家までは送らせる」


「いや遅くなるなら別の日にしてほしかったんだが? 俺バイト上がりだぞ」


「それを言ったらあたしは学校上がりだ」


「流石にキョウは別の人員に仕事頼めよ」


「――君と実際に顔を合わせたのが彼女だけだったのでね。我々としても当然思うところはあったが、本人も『やる』と言うので、任せることにしたのだ」


 その声は、出入り口の自動ドアが開く音と共に聞こえてきた。


「……隊長(・・)、結局下りてきたんですね」


「先程、少々睨まれてしまったのでね。ああいう顔で見られてしまった以上は、今後の信頼関係を築くために直接私の方から出向くべきだろう」


 そこにいたのは、細身の男だった。


 歳は恐らく、四十代前半。


 細身だが、しかしその身体付きからして、よく鍛えているのがわかる。重くなるため、余計な筋肉は付けないようにしているのだろう。


 スーツを着ており、一見すると高級官僚といった雰囲気であるが、その身に纏っているこの魔力の量。間違いなく本人も前線に出て戦うタイプだ。軍人か?


 どうやら、俺の視線の意味には気付いていたようだ。


「……いいんですか。隊長が直接出て来て。話も、代わりの者を立ててやるってことになってたでしょう」


「当然良くはない。だが、彼の対応は慎重にやらねばならない。まあ、君とのやり取りを見る限り、問題はなかろう。――お初にお目にかかる、海凪君。清水君の上司の田中だ。この支部の支部長をやっている。我々の組織に関する話は?」


 ……田中、か。


 偽名っぽいな。


「……軽くなら。魔物を退治する国の組織、ってことですよね」


「その通りだ。正式名称は『特殊事象対策課』。その名の通り、発生する特殊事象を調査し、必要ならば対処する仕事をしている。近年、理由は定かでないが、特殊害獣、通称『魔物』の出現件数が増加している。だが、それに対処可能な人員は、一朝一夕で増やすことなど出来ず、常に不足し続けている。それこそ、学生である清水君を動員せねばならん程に」


 …………。


「どうかね、海凪君。君には実力があると聞いた。ウチの職場はかなり危険だが、その分給料もまた相応の額が出る。実力次第で、どれだけでも稼ぐことが可能となるだろう。ウチで働かないかね?」


「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」


 そう断ると、田中のおっさんは考える素振りを見せる。


「ふむ、理由を伺っても?」


「経歴を調べていただいたのならわかっていると思いますが、俺は大学卒業後も特に職に就いていないちゃらんぽらんですよ。組織に所属するとか、上手くやれる気がしません」


「だが、君は出現した魔物を退治してくれたそうではないか。他者を助けようという思いはあるのだろう? 不得手なことがあっても、戦う力があるのならば、細かいところは我々でサポート可能だが」


「買い被りです。自分の庭に害虫(・・)が出れば駆除もしますが、それだけです。積極的にそれを生業にするつもりはありません。時折手伝うくらいなら構いませんがね」


 もう、国に縛られてどうこうするのは嫌なのだ。


 俺は、俺の思いで生きる。この力を振るうのは、俺の意思でだけだ。


 何を斬り、何を殺す(・・)のかも、全ては俺の意思だけで行うべきもの。そこに、他者の意思を介在させる訳にはいかない。


 全ての責任は、己のみで背負わなければならない。


 そう、誓っている。


 ……そもそも、俺には人にそうそう見せられん手札が盛りだくさんだからな。


「……ふむ、理解した。では、どうかね。正隊員としてではなく、バイト(・・・)という形では」


「バイト?」


「そうだ。派遣の仕事とほぼ同じだ。我々では手が足りない、あるいは戦力不足という場合にのみ、君に仕事をお願いしたい。無論、君の都合で断ってくれても構わん」


 ……バイトか。


 どうやら、どうあっても俺に首輪をつけておきたいらしい。


 俺は、少し考える。


 向こうの気持ちも、まあわかるのだ。俺みたいな素性の知れない奴を野放しにするのは、彼の立場からすれば懸念が残るのだろう。


 自分で言うのもアレだが、俺はそういう存在なのだ。


 ……まあ、最終的な決定権がこっちにあるならいい、か?


 元々、俺の感知圏内に現れる敵は全て排除しようと思っていたのだ。ウザいから。


 その過程で協力する程度なら、そこまで面倒もない、だろうか。


「……わかりました。その条件なら」


「よし。では頼む。まだ時間はあるかね、詳しいところを説明させてもらいたいのだが」


「わかりました。早めに終わらせてもらえると助かりますが」


「善処しよう。――あぁ、そうそう、清水君に武器をくれたそうだが、いいのかね? 随分な刀だと聞いたが」


「俺が折った彼女の刀の代わりなので。取り上げたりしたら怒りますよ」


「肝に銘じよう」


 ……このおっさんもこのおっさんで、食えない人だな。

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― 新着の感想 ―
もったいねぇな。ようは公務員だろ。公務手当、公務員年金、税金免除、ボーナス。 現代にきてしまった以上、資本主義においてお金はパワー
ファイナルのFランクですね、分かります
バイトとはいい妥協点だね、結局は取り込まれるだろうけどwww
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