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元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~  作者: 流優
我が家での日常

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山を食らう蛇《6》


 ――バンで様子を窺っていたツクモが、ピク、と反応する。


 西条が操作するドローンの映像の中に、違和感を覚える。


「西条、二番ドローンの映像を拡大せよ。ここじゃ」


 すぐに西条は、ツクモの言う通りに操作を行う。


 モニターに映るのは、荒れ始めた森の中を進む、一匹の魔物。


 他の魔物達に紛れており、一見するとただ五ツ大蛇の魔力に惹かれてやって来た雑魚に思えるが……。


見つけたぞ(・・・・・)


 感じられる、異物の気配。


 次の瞬間、ツクモは手元のタブレットの操作を行う。


 ――ドローンは、完全な科学の結晶だ。


 シロにはそれが敵の目を(くら)ますのだと説明したが、そこに魔法的な仕掛けを施していない訳ではないのだ。


 ツクモが操作し、ドローンから放たれた電気信号を受け、その時ぺらり、と機体から剥がれたのは――一枚の形代。


 非活性状態でただの紙であったそれは、突如として魔力が溢れ出したかと思いきや、重力に従って落下。


 紙とは思えない、まるで鋼鉄でも落としたかのような勢いで宙を真っすぐに落ちて行き、途中、分裂(・・)を開始。


 一枚が二枚に、二枚が四枚に、四枚が八枚に。


 倍々に変化していき、やがて無数と言える程の数となった形代は、瞬間全てが氷の槍へと変化する。


 数秒後、フレシェット弾のように、だがそれよりも数十倍の大きさのものが、次々と大地に降り注いだ。


 ズドド、と大木を砕き、大地を砕き、目標に突き刺さる。


 犬のような、狼のような魔物は、周辺にいた魔物達諸共消滅。


 普通の者ならば、それで討伐は完了したと判断するところであっただろうが――。


「逃がさぬわ!」


 ツクモは、少し離れたところにふわりと出現した、別の魔物の気配にちゃんと気付いていた。


 大地に突き刺さった氷槍が変化し、再び一度形代に戻ったかと思いきや、次はそれら全てが鳥と変化して敵へと向かって飛んでいく。


 紙は、何にでもなれる。


 折って、切って、何の形でも表すことが出来る。


 状況に応じて千差万別な変化が可能な、最強の魔法だとツクモは考えていた。


 やがて、無数の鳥が追い付き、そのくちばしが次々に肉体に突き刺さって行く。


 再び消えて行くその魔物であるが、ツクモは同じ真似を敵に許さなかった。


「そこよ!」


 魔物に突き刺さった鳥達は、全体の一部。


 幾つもの群れに分かれ、それらは魔物に送られる魔力の流れを追っていた。


 右手と左手が別々の行動をするどころか、指の一本一本が別の動きをしているような複雑な魔力制御であるため、常人ならば発狂してしまいそうな魔法操作であるが、ツクモはそれを完璧に熟す。


 どこかの元魔王を思わせる程の緻密な操作を可能とし、この一点では優護の技量を遥かに上回っていた。


 周辺に散っていた鳥の全てが、魔物が倒れた位置より五キロ程離れた場所に集合し、攻撃を開始。


 槍のようなくちばしによる突撃は――防がれる(・・・・)


 寸前で減速し、まるでそこだけ重力が数十倍にでもなったかのように、地に落ちて行く。


『――全く、面倒な女狐ですねぇ』


 何もないただの森だった空間に浮かび上がる――仮面(・・)


 いや、仮面をつけた人影。


 だが、まるでその仮面こそが本体であるかのような。


 人と、仮面とで、存在感が逆転しているかのような。


 能面のようなそれが、喋る。


『聞こえているのでしょう? わかりました、わかりました。今回はあなた方の勝ちとしましょう。いやはや、結構な仕込みはしたつもりでしたが、散々ですねぇ。まさかあの蛇が、こんなに役立たずとなるとは。いや、これは敵を天晴と褒めるべきでしょうか? あのような怪物、どこで見つけて来たのやら』


 やれやれと言いたげな様子で、首を振る。


『流石に、どうなっているのか直接様子を見てみたかったのですが……仕方ありませんねぇ。まあ、まだまだ玩具はたくさんあります。種の明かされた手品程、興覚めなものはないというもの。私は退散するとしましょうか』


「いいや、貴様はここで死ぬのよ」


 包囲するように飛んでいた形代の鳥が、また変化する。


 それは、文字。


 単体では意味を成さないそれが、幾つも連なっていき、意味を成す。


 やがて生み出されたのは、数十本の文字の剣。


 一本一本にとてつもない魔力が込められており、それが空中で、陣を形成する。


 相手の動きを阻害する、文字剣による結界。


 大妖怪が本気で張ったそれは、並の術者どころか、仮に『S』ランクの退魔師を相手にしても数秒動けなくなるだろうが――。


『怖い怖い。では、私はこれで』


 するり、と。


 まるで位置する座標が一つ違うかのような様子で、ヒョイと簡単に結界から抜け出すと、宙を走って攻撃を開始した文字剣が殺到する前に、スゥ、とその場で消失した。


 後に残るものは、何もない。


 空振りに終わった文字剣達が、ズガガ、とただ地面に突き刺さる。


 少ししてそれらは、ただの紙へと戻った。


「……フン、逃げられたか。が、尻尾は掴んだぞ」


 鼻を鳴らすツクモであったが……彼女の表情には、壮絶な、気の弱い者ならばそのまま失神させるであろう、大妖怪の笑みが浮かんでいた。


「西条、映像は取れたな?」


「はい」


「解析班に送って、すぐに仕事を始めさせよ。妾は現地に行って、魔力の痕跡を探る」


「シロ様を手伝わないでよろしいので?」


 西条の言葉に、ツクモは肩を竦める。


「わかっておろう? あちらにもう、妾はいらんよ。将来貴様の義息子になるかもしれん男子(おのこ)が今、ちと呆れるくらい活躍しておるでな」


 己の主の言葉に、西条は少しムッとした表情になる。


「……いいえ、認めません。調べたところ、海凪 優護は娘の他にも、懇意にしている女性がいるとか。この世界、強き者が複数人を囲うのはよくあることでありますが、娘の夫になるのならば、一途に愛する者でなければ」


「貴様、サキュバスよな? 娘もそうよな?」


「だからこそです。私も母も、それで苦労しましたから。娘に同じ苦労はさせません」


「くふ、そうか。ま、娘も先行きに困ったら、妾が雇っても良いぞ?」


「お気持ちはありがたいのですが、今しがた言ったように、私は娘に同じ苦労をさせるつもりはありませんので」


「おっと、まるで妾といると、気苦労が絶えんと言いたげであるな」


「はい」


「いや頷くな。もっと誤魔化せ」


 己を相手にしても、変わらず毒舌で正直な部下に、ツクモは思わず苦笑を溢す。


 ただそこには、好き勝手に物を言い合える確かな信頼関係があったのだった。

 文字剣は、アレです。

 エルデンリングの、秘文字のパタです。

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