山を食らう蛇《4》
「よーし、流しそうめんごっこしようぜッ! お前そうめん役なッ!」
緋月で食う――いや、斬る。
どうも五ツ大蛇は、よほど俺がウザいらしい。まあ、人間だってハエとか蚊とかに纏わり付かれたらイライラするだろうから、気持ちはわかるがな。
さっきからコイツ、範囲攻撃のオンパレードなのだ。
人間相手なら、とにかくデカい攻撃をすれば死ぬと思っているらしく、ぶっ放しまくっており、で、ありがたいことにそれでこちらを見失うことが多いので、俺は最小限の範囲だけを斬って抜けて、緋月におやつを食わせ続けている。
もうすでに、首の三十本分は食わせてやれただろうか? 全部美味しくいただいているが、まだまだ生え続けるので、緋月にじゃんじゃんおかわりを用意してやれそうだ。
我が愛刀も本当に喜んでいるようで、いつもより刃の滑りが良い感じだ。やはりテンションが上がっているのだろう。
ふふふ、全く、可愛い奴め。
――ただ、実際のところ、どうしたものか。
俺自身はまあ、このまま三日間くらいを緋月のおやつ三昧タイムにしてもいいし、流石にそれだけ魔力を吸えばコイツも死ぬだろう。
が、問題は、今動いているのが俺だけじゃないということだ。
実は先程から、周囲にちょくちょく魔物が湧いて出て来ており、五ツ大蛇の攻撃に巻き込まれて勝手に死んでいるのだが、この様子なら多分他の地域でも出現しているはずだ。
いや、はずというか、実際にその気配を感じている。こちらに来ていないのは、他の人員が作戦を始めたのだろう。
キョウも戦っているのだろうし、あまり時間を掛け過ぎると、他の人員に死者が出る可能性がある。
お楽しみ中の緋月には悪いのだが、そろそろ切り上げて、ちゃんと倒すために動いた方が良いだろう。
と言っても、実際問題今すぐに倒すとなると、どうすればいいのかちょっと思い付かない。結局このまま弱体化させ続けるのが最善策じゃないかとも思うのだが……いや、わからないなら、聞けばいいか。
ウチの居候に。
俺は、片手でアイテムボックスからスマホを取り出すと、電話を掛ける。
『――はい、もしもし。どうした、ユウゴ? 大分うるさいが、戦闘中か?』
「おー、そんなとこ。なあ、斬っても斬っても再生しまくる敵って、どうしたらいいと思う?」
『お主のヒヅキならば、魔力を吸い続ければいずれ再生しなくなるじゃろう?』
「まあそうなんだが、相手の魔力量からして、このままだと結構時間が掛かりそうなんだよな。どうしたらいいと思う?」
『ふむ……ではまず、お主は敵のどこを斬っておる?』
「首」
『首を斬った際、どこから再生しておる?』
「え?」
『斬り飛ばした首から身体が生えてくるのか、それとも身体から首が生えてくるのか、どっちじゃ?』
「あ、そういうことか。身体から首が生えてるな。飛んでった首は消えてる。……つまり、コイツの核は胴体側ってことか?」
『一概にそうと言える訳ではないがの。ただ、そこに魔力が集中しておるのは間違いないな。緋月で最も魔力が集中しておる部位を斬り裂けば、大きく弱体化出来るのではないか?』
「……わかった、ありがとう。助かったわ。試してみる」
『辛そうなら助太刀してやるぞ?』
「バカ言え、お前相手ならともかく、それ以外の相手程度に弱音なんて吐けるか」
かか、という笑い声が最後に聞こえ、電話は切れた。
――外見からでは、俺は五ツ大蛇のひと際魔力の濃い部分を感じ取ることが出来ていない。
それは、大海を見て、海水の濃度がより濃い部分を見つけろ、なんて言われているのと同じだ。
まあ、多分ウタならそれが出来るのだろうが、俺には出来ない以上、やることは一つ。
つまり――。
「解体作業だッ!」
スマホをしまった俺は、再び突っ込んで、緋月で斬り刻み始める。
が、今までとは狙いが明確に違う。
緋月が喜ぶままに斬りまくっていた時は、まあ本当にテキトーに、急所っぽい首ばっか斬っていたが、今度は全身を満遍なくだ。
首の斬る位置を変えてみたり、奴の身体を走って移動して、順に場所を変えて斬ってみたり。
すると、再生の仕方に、違いがあるのがだんだんわかってきた。
まず単純に、頭部だけを斬った場合、意外なことに首の中程を斬った時と比べて再生が遅かった。
そこから、斬る部位を胴体に近付けていくと、若干だが再生の速度が速くなっていっている。
特に面白い結果になったのは、五本首が繋がり、一本となっている胴体部分を斬った時だ。
まず、再生は胴体の方から始まった。
首が全部無くなったというのに、問題なく新たに五本が生え、そして胴と切断された方の首五本も少しの間だけ残り――つまり、十本首となって俺に襲い掛かり、ちょっと危なかった。胴と切断された方は、やがて消えたが。
それからは、五ツ大蛇も死に物狂いになり、自傷ダメージを受ける覚悟で抵抗し始めたため、一旦回避を優先したのだが……これは、決定的かもな。
コイツは、五つ首が繋がって、一本となっている胴体部分のどこかに核があるのだろう。
もっと言うならば、尻尾辺りに核があるような気がしている。
コイツ、俺から尻尾を逃がすような動きを、さっきからしているのだ。
俺が胴の奥の方に行こうとすると、必ず身体を捩らせて一番遠い位置に置いている。
そこまでを気付いた俺は、そこからさらに考える。
思い出す。
神話にて、八岐大蛇は尻尾から草薙剣を出していた。
だが、コイツは言わば精霊種。魔力によって肉体が構成されており、死ねばそれが拡散するだけ。もしかしたら魔石が出ることもあるかもしれないが、それだけ。
だから、剣が出るとはどういうことなのかと、シロちゃんとの話でも思ったことだったが――。
「――コイツ、もしかして人為的に発生させられた魔物か?」
少し前、ツクモが俺に見せたように、何か核を用意されて生み出された魔物である可能性。
コイツの尾には、もしかすると本当に剣があるのかもしれない。
コイツを生み出すことを可能とするだけの、呪物が。
ツクモは、言った。
『ちと、ちょっかいを出されそうでの。妾にとってもそれは面倒になる故、適切な対処を、な』
単純にそれは、封印を解いたテロリストグループのことだと思っていたが、その者達は全員人間であり、強い魔法使いの情報も確認されていないと事前の情報共有で教えられている。
果たしてその程度の者達を、ツクモ程の大妖怪が、面倒だなどと言うだろうか。
アイツ程の者が警戒する敵とは、いったい何なのか。
そして、当初の想定とは異なりまくっている現在の作戦状況。
何らかのトラブルが起きたことは明らかで、これもまた外的要因によるものなのではないだろうか。
――ま、そっちを考えるのは後にするか。
まずは、コイツを斬り殺すのが先だ。
本当に急ぐ必要が出て来た。あんまりのんびりやっていると、外から余計な手出しをされる可能性がある。
「緋月、悪いな。おやつタイムはそろそろ終了だ。こっからは、コイツを殺すために動くぞ」
まるで返事でもするかのように、キィン、と刀身が反応する。
意識を切り替え、俺はもう一度緋月を構え直し――と、動き出す前に、強大な気配が遠くから急速に近付いてくる。
一瞬警戒する俺だったが、それが覚えのあるものだったため、すぐに警戒を解く。
やがて俺の隣にやって来たのは、シロちゃんだった。
「遅くなってしまってすみません、海凪 優護」
「シロちゃん。そっちは大丈夫そうですか? 多分、トラブルか何かあったんですよね?」
「問題ありません、ちょっとツクモと情報共有を行っていました。あなたの方こそ、怪我はありませんか?」
「はい、大丈夫です。――シロちゃん、コイツって、もしかして人為的に生み出された魔物だったりしますか?」
俺の言葉に、彼女は難しいような顔をする。
「人為的に……わかりません。ただ、そう言われると、その可能性もあるかもしれません。確かにこの魔物が発生した当時、随分急に現れたとは思いました。その時は、世の荒れによるものだと思っていましたが。また、現在ツクモが、裏で暗躍している者の対処を行っています。彼女に聞いたら、何かわかるかもしれません」
少し考えてから、俺は彼女に言葉を返す。
「となると、どっちみち今は、コイツをぶっ殺すのが先ですね。俺は、恐らくコイツの核は、神話から考えても尾にあると思っています。けど、身体がデカ過ぎて、尻尾まで辿り着くのが面倒そうなので、まず首を斬って、抵抗出来ないようにさせてから尻尾も斬ろうかなと考えてます」
この、凄まじい再生能力を持つコイツが、再生する前に一息に全てを斬ってトドメを刺す。
一人ならば、なかなか至難の業であろうが……シロちゃんがいるならば、やりようは幾らでもあるはずだ。
「わかりました。では、少し考えがあります。聞いてくれますか」
「聞きましょう」
俺とシロちゃんは、軽く作戦会議を行う。




