日本語教室《2》
感想いっぱいありがとね……作者はとっても嬉しくて笑顔です。
「――はい、という訳で来ていただきました、特別ゲストのリン先生です!」
「……ん。来た」
ばばーん、といった感じで俺が紹介すると、胸を張ってえっへんというポーズを取るリン。可愛い。
「いやどういう訳じゃ、どういう」
「お前、日本語普通に話せるようになっただろ? だからこの機会に、日本というものを俺よりもよく知っているであろうリンに、日本語教室でもしてもらおうかと思って」
「……ん。何でも聞いて」
「ほぉ、まあそうか、儂らの中で最もニホン語に精通していると言えるのは、リンか。ユウゴ、勉学に関しては割と阿呆じゃし」
「俺は平均だ、平均。王としての教育を受けてきたお前と一緒にすんな」
この短期間で日本語習得出来る奴と一緒にされても困る。
と、俺の言葉に、ウタは微妙にムカつく顔で、フッと笑う。
「平均、のぉ? 謎解きげーむを共にやった時の様子を見る限り、お主勘は良くても、それだけって感じじゃがなぁ?」
「……俺文系だし、計算とか出来なくとも問題ない!」
「いや、計算は出来た方が良いじゃろ。常識的に考えて」
元魔王に常識を説かれる元勇者だった。
……に、日常で弊害が出ないくらいの計算は出来るから!
ギリ!
「オホン、ではリン先生! ご協力をお願いしますね!」
「……先生に、任せなさい」
俺が渡した伊達メガネを掛け、得意げな様子で、人差し指を立てて先生っぽいポーズをするリン。可愛い。
ちなみにこのメガネ、ウタのファッション用のものである。「ニホンには、眼鏡萌えなるものがあるらしいの。どうじゃ?」とか言って、前に掛けて見せてくれた。
正直、クソ可愛くてぶっ刺さったが、元勇者としての理性を総動員して、どうにか「ふぅん? まあ、似合ってるんじゃないか?」くらいの反応で留めることが出来た。
……その後、何だかニヤニヤして、随分機嫌が良さそうにしていたが、きっと誤魔化すことが出来たはずだ。
「さあ問題です、ウタさん! ででん!」
「お主、今日は随分てんしょんが高いの」
「いやまあ、何となく。――それより、行きますよ! リンの家は神社ですが、実は似たような施設で、寺というものが日本に存在しています! さて、この二つの違いはいったい何でしょう!」
「む、あー……順当に考えるのならば、形式が違う以上、宗教が違うのじゃろう。宗教国家でもなければ、国の中に一つや二つ、有名な宗教があってもおかしくはなかろう。ジンジャというのも、確かそれ関係の施設であったはずじゃし」
「なるほど、つまりウタさんの回答は、宗教が違うのが理由と!」
「まあ、そうじゃ」
「わかりました、では――リン先生! 答えをどうぞ!」
「……さあ?」
首どころか、身体まで傾げ、リンはそう言った。
「……なるほど! リン先生は、つまりこう言いたいのでしょう! ウタさんの解答通り、神社と寺の違いは、神道と仏教という二つの宗教の違いが理由ではありますが、日本においてその二つは切っても切り離せない関係にあり、そのため分けて考えることはナンセンスと! ウタさんの解答は正解ではあるものの、それは一面だけであると!」
「……ん、そんな感じ」
伊達メガネをキランと輝かせて、うむと鷹揚に頷くリン。可愛い。
「そうか。ユウゴ」
「何だ」
「……いや、何でもない」
「そうか。じゃ、次に行くぞ! 日本は、車両等の左側通行が義務付けられていますが、世界ではほとんどの国が右側通行です! これはいったい、何故でしょう!」
「これ、思うたけど、別にニホン語教室ではないな。ニホン知識教室じゃな」
「……確かに。じゃあ日本知識教室に変更で。リンの肩書きもそれに合わせて、日本語マスタースゴイヤッター先生から変更して、日本知識マスタースゴイヤッター先生に変更で」
「……ん。凛は、日本知識ほにゃらら先生」
「ユウゴ」
「何だ」
「……いや、何でもない。今日は何だか楽しそうじゃなと思うて」
「そりゃあ、リンが遊びに来てくれたらハッピーに決まってるだろ。こんなに楽しい日はなかなかないぜ?」
「……んふふ。凛も、二人と一緒で、とっても楽しい」
ニコニコ顔で、ブンブンと尻尾を振ってそう答えるリン。可愛い。
思わず和んで彼女の頭を撫でてしまうが、今日本知識教室の途中だったとハッと我に返り、手を止める。
ちょっと名残惜しそうな顔をするリンが最高に可愛過ぎる。
「危ない危ない、リン先生が可愛いヤッター過ぎてトぶところだった。さあウタさん! 解答をどうぞ」
「……なんか、こう、ニホン人に左利きが多いからとか、そんな理由じゃろ」
「ウタさん、答えがテキトーじゃないですかね」
「いいや? 一生懸命考えて答えたぞ」
「そうか。それにしてはポップコーンポリポリ食いながらの解答だったが」
「お主も食うか」
「食うけど……オホン、さあ、リン可愛いヤッター先生、答えをどうぞ!」
「……うむむ。きっとー……お侍さんが、みんな左利きだったから?」
左利きの侍って存在するのだろうか……?
「……まあ、大体そんな感じだ! 侍っていう、昔の戦士階級の奴らが左腰に刀を差してて、右側通行だと互いの刀がぶつかるトラブルが起きるから、元々左側通行で歩いてたって話だ。あとは、近代国家を作る時、参考にしたイギリスって国が左側通行だったから、それに倣ったって説も有力だそうだが。だから、どっちにしろそれで、日本人は違和感を覚えなかったってことなんだろうな」
「ほう、そう言えばお主も、カタナを外に出しておる時は、左腰に差しておったな。確かに、カタナの長さの剣を右利きの者が扱うならば、左腰に差すのが基本になるか。ということは、ニホンではサムライなる者達が特権階級であったのか? そんな、国の基本に関わってくるのならば」
「お、そうそう。侍は、まあ大体貴族みたいなもんだな。少なくとも、日本の基本を作ったのは侍達で、んで、全員刀装備だった訳だ」
「……おー、お兄ちゃんも、物知り」
「リン先生には負けるさ。――なんか、飽きてきたからこれくらいにするか。リン、ポップコーン食べよう、一緒に」
「……食べる!」
「適当じゃのぉ。まあ良いが。リン、ほれ、あっぷるじゅーすもあるぞ。これも飲め」
「……飲む!」
その後、いつものようにウタとリンと一緒に遊び、一緒に晩飯を食べ、一日を過ごした。
今日も平和で平凡で、良い一日だった。




