我が家で遊ぶ《4》
その後、どうにかこうにか二人を起こさないよう、座布団を枕に床に寝かせ、掛布団を掛けた後、俺は片付けを行う。
たこ焼き機の火を落とし、プレートと、食べた皿を洗う。
たこは使い切ったものの、生地と、あと魔改造たこ焼き用の具がちょっと残ってしまったが、流石にもうお腹いっぱいで食えないので、明日の朝飯に、またたこ焼きか何か作って食うとしよう。
二人に付き合って本当にかなり飲んだので、流石に多少酔いは感じているが、解毒魔法を使えば一瞬でシラフには戻れる。
まあ、今感じている酔いは結構心地良いので、使わないけどな。
レンカさんも言っていたが……良い酒だった。
美味しい酒の飲み方というのは、こういうことだろう。気心の知れた者達と、ただワイワイ騒ぎながら飲むのだ。
酒の楽しさは、ここにある。酔い難くなった己の身体が、ちょっと残念だけどな。
洗い物等を終えた後、着替えを用意して、風呂に入る。
俺は結構、風呂が好きだ。
ウタに「お主、いつまで入っておるんじゃ! さっさと出んか!」と文句を言われるくらいには好きで、長風呂してしまうので、最近は大体俺の方が後に入る。
実は贅沢品だからな、風呂って。日本で暮らしている限りじゃあ、そんな風には思えないが、これだけ大量のお湯を使って、のんびり好きなだけ温まれるなど、向こうの世界じゃ考えられなかった。
お湯を出す魔法こそあるが、それに使用する魔力もゼロじゃないし、何より戦場でそんな無駄遣いは出来ないのだ。
なお、ウタは王なので普通に毎日風呂に入っていた模様である。ウチの湯舟より、五倍くらい広いらしい湯舟のある風呂に。「かか、なかなか可愛らしい浴槽じゃな?」とか言って前に笑っていた。なんかちょっと悔しくなった。
……引っ越しとか、考えるか? 今なら金もあるし、ちゃんと数部屋あって、デカい風呂のあるとこに住みたいという思いは正直あるが……リンが、ここを気に入ってくれているみたいなんだよなぁ。
というか、前に渡した鍵を、宝物のように持っててくれてるんだよな。風呂入る時と、夜寝る時以外は、必ずと言っていい程ずっと首に掛けているのだ。
仮に引っ越すことになったら、どうにかこの家のドアノブをそのまま持っていって、次の家にも取り付けるか。
ま、ゆっくり考えるとしよう。リンの神社の近所の物件、ちょっと見ておくか。
そんなことをつらつらと考えながら長風呂を終えた俺は、身体を拭いて髪を乾かし、洗面所を出る。
「出たか、ユウゴ。相変わらず長風呂じゃのぉ」
すると、すぐに掛けられる声。
「ウタ? 起きたのか。すまん、もしかしてシャワーの音で起こしちまったか?」
「気にするな、酔っての睡眠故、元々浅い眠りだったんじゃろう」
「そっか……茶、飲むか?」
「ん、くれ。ありがとう」
冷蔵庫からお茶を取り出し、二つのコップに入れ、片方をウタに渡す。
俺は、グイ、と一気に飲み干し、火照った身体に心地の良い冷たさが流れて行くのを感じながら、己のベッドに腰掛けて一息吐く。
――そして、コップを持ったまま、その上に乗っかってくるウタ。
柔らかな、ウタの臀部の感触。
「お、おい、何だよ」
「別にぃ? お主が今日、レンカに言い寄られて、鼻の下を伸ばしおってとか、でれでれしおってとか、思っておらんぞ」
「……べ、別にデレデレはしてないだろ」
「そうか? あとでリンに詳細に話して、判定してもらわなければならんな」
「ごめんなさい」
「よろしい」
いつもとは逆の構図で、謝る俺である。
「お主が誰を妾にしようが構わんがの。しかし、正妻は儂じゃ! それだけは忘れんようにするんじゃぞ!」
「一応言っておくが、日本は一夫一妻制だからな」
「そんなのは言い回し次第でどうとでもなろう。実際、ニホンも一夫一妻とか言いながら、妾がいたり愛人がいたりする例があるようじゃし。というか、ならば尚更、正妻を大事にせんか! 正妻を!」
いつもならば、誰が妻だとか、妾とかそんなものを作るつもりはないとか言うところだったが……俺は、苦笑を溢しながら、言った。
「悪かったよ」
「……うむ! わかったのならば良い」
そう言ってウタは、俺にもたれかかり、全体重を掛けてくる。
ただ、華奢なため、それでも全然軽いものだ。リンより少し重いくらいである。
密着する肌。
体温。
すると、先程まで不機嫌そうな様子だったウタは、小さく笑みを浮かべる。
「罰として、お主はしばらく、儂の椅子になるように!」
「へいへい、元魔王様の仰せのままに」
俺は、若干躊躇するように手のひらを開いたり閉じたりしてから――元魔王様の頭に、手を置いた。
そして、指を絡ませ、髪の毛を梳くように、ゆっくり、丁寧に、撫でる。
何度触れても飽きない、最高の触り心地の、美しい銀髪。
断言出来る。この髪より触り心地の良いものは、この世に存在しない。リンの耳と尻尾はこれに並び立つけどな。
ウタはこちらを少しだけ見上げ、ただ何も言わず、機嫌が良さそうに、撫でられるがまま俺に身体を預け続けていた。
――そんな俺達の様子を、いつの間にか起きていたらしいレンカさんが、ニヤニヤと満面の笑みで見ていた。
「「――――」」
固まる俺とウタ。
「いやぁ、とってもいいものを見させてもらいました! うん、もう、これだけで今日遊びに来させてもらった甲斐があったというものだよ」
「…………」
「…………」
「んふふ、ごめんごめん、邪魔しちゃったね。それじゃあ、お風呂借りちゃってもいいかなぁ」
「……う、うす。タオルはこれどうぞ。シャンプーとかボディソープとかは、ウタのが置いてあるんで、それ使ってください」
「ありがとぉ。私、ゆっくりシャワー浴びるから。そのまま二人で、存分にイチャイチャしててくれていいからね」
「…………」
「…………」
何も言えず固まっている俺達に対し、レンカさんは終始楽しそうに笑い、そして浴室のある洗面所へと入って行った。
レンカさんが泊まった夜は、こうして過ぎて行ったのだった。




