我が家で遊ぶ《3》
いったい、どれだけゲームを続けていただろうか。
大乱闘なゲームを堪能した次は、全国を電車で回る友情破壊ゲームをやったり、配管工の仲間達による星争奪戦ゲームをやったり、三人で協力して謎解き脱出ゲームをやったり。
マジでゲーム三昧だ。酒を飲みながらの。
基本的にレンカさんはゲームが総じて上手く、そしてウタは下手だが、頭の回転が速い。特に、謎解き脱出をやった時のウタの洞察力と推理力が凄まじく、高難易度のものも簡単にクリアしてしまい、「? 何が難しいんじゃ、これは?」と素で言っていた。それ以外のゲームをやってる時のカモっぷりも凄まじいが。
まあでも、ウタの良いところは、そんだけカモにされても、普通に楽しそうにゲームをしている点だろうな。
やられれば騒ぐし、すごくいい反応をするが、それだけだ。その後に「よし、今の分やり返すぞ! お主らなどボッコボコじゃ!」と自分からフラグを立てていくので、こっちも遠慮なくカモに出来るのだ。
あれだな、今度テレビゲームじゃなくて、ボードゲーム系を買ってみるか。ウタの頭脳が発揮されるのか、ポンコツが発揮されるのか、楽しみだ。
大人になると、ゲーム好きだとしてもだんだん熱が冷めていき、熱中する、ということが少なくなっていくものだが、この二人とやっているとそんなことが一切ない。
時間を忘れて、酒をバカスカ飲みながら本当に熱中してしまい、気付いた時には夜になっていた。
あっという間の数時間である。
酔っ払って赤ら顔になっているレンカさんだったが、「よーし、それじゃあ飲食店の店長として、私が晩ごはんを作ってあげよー!」と張り切って準備を始めてくれ、ウタもまた「儂も手伝うぞ、レンカ!」と、手伝い始めた。
酒と一緒に、晩飯の食材もまた買ってきていたのだ。こういう日くらいは、ぶっちゃけ寿司とかの出来合いのものでもいいんじゃないかと思っていたのだが、飲食店店長としてそれは許せないらしく、「大丈夫、私が作ったげるから!」と、しっかり食材を用意したのだ。
と言っても、作るのはそう手の込んだものではなく、たこ焼きだ。
ウチに、たこ焼き機なんてお洒落なものは存在しないのだが、どうも最初からその気だったらしく、レンカさんが車に積んで持って来てくれていた。いわゆる、たこパがしたかったらしい。
俺も手伝おうとしたのだが、すると「ユウゴは座っておれ! そもそもここ、三人並べんしな!」「そうだよ、優護君。ここはお姉さん達に任せなさい」と言われ、出しゃばるのも良くないかと思って、何だか楽しそうな二人に任せることにした。
まあ確かに、生地作ったり、たこ切ったりするのに、何人もいらないか。
代わりに俺は、空き瓶や空き缶、菓子の袋などを片付けた後、たこ焼き機を座卓にセットして火を入れ、油を引いておく。
「そうそう、そんな感じ。いいじゃん、ウタちゃん。料理苦手って聞いてたけど、普通に出来てるよ」
「ふふん、ユウゴが何を言うたか知らんが、儂とて日々成長するのよ!」
「レンカさん、甘やかしちゃダメですよ。ソイツ、一つ成功すると、一つ失敗するタイプなんで」
「う、うるさいぞ! お主は黙っておれ!」
やがて生地も出来上がり、中にいれるたこの用意も終わり、二人もまたこっちに来てレンカさんが焼き始める。
流石、機器を持っているだけあり、たこ焼き焼くのも手馴れた様子だ。というか、本当に料理全般上手いなこの人。
ちなみに、たこ以外も用意してある。たこ焼きの醍醐味と言ったら、魔改造たこ焼きだろう。
俺は、特にたことチーズの両入れが好きだ。チーズ最高。
「という訳でレンカさん、チーズ欲しいっす、チーズ! 大量に」
「おっと、初っ端から行くねぇ。いいよ、じゃあこの辺りをチーズinたこ焼きにしよう。大量のチーズ入り」
「美味いのか? ちーず入り」
「チーズはもう万能だぜ? どこに入れても美味しい。白米に乗せても美味しい。やっぱ白米は嘘」
「いや嘘ではないか」
「あはは、でも確かに、こういうのにチーズがあって美味しくないっていうのは、あんまりないよね。もんじゃ焼きとかも、チーズあるとすっごい美味しいし。女の子だと、ちょっと苦手って子もいるみたいだけど」
そんなことを話している内に、あっという間に第一陣が焼き上がり、レンカさんが適量のかつお節とソース、マヨネーズを掛けていく。
店で見るような、完璧な掛け方だ。
「おぉ、ほんに手際が良いのぉ、レンカは!」
「な。すごいよな」
「ま、飲食店の店長だから、これくらいはね。――さ、出来たよ! 食べよっか」
「おーし、いただきます!」
「「いただきます」」
アツアツのたこ焼きに、ふーっ、と息を吹きかけ、少し冷ましたところでパクッと食べる。
外はカリカリで、中はトロトロの、絶妙な焼き加減。
最強に美味い。
「レンカさん、最強に美味いっす」
「うむ、レンカ、このたこ焼きは最強じゃ!」
「ふふ、二人が喜んでくれたなら良かったよ! ――いやぁ、それにしても、こんなに楽しいお酒、なかなかないよ。全く君達二人は、人たらしなんだから」
「人たらしなのはウタだけですよ。俺は普通です」
「おっと、己を客観視出来ん奴が何か言っておるな。散々女を引き付けておる女たらしのくせに」
「すっごい悪意ある言い方するな? 俺は平々凡々な一般人の青年だ」
「どの口が言うんじゃ、どの口が。そも、最近知り合った友人で女以外がいるのか、お主」
…………。
「……お、俺のもう一つのバイトの上司は男だ」
「上司を友人枠に入れるのは、それはそれでどうなんじゃ?」
……考えてみれば、物の見事に女性ばっかだ。
本当に、男の知り合いが田中のおっさんしかいない。何故だ。
「あれ、優護君、もう一個バイトやってたんだ?」
「えぇ、まあ。魔法関係の仕事なんで、あんまり表沙汰には出来ないんですけどね」
「あぁ、そっか。それだけ魔力があるなら、それ関係の仕事もしてるか。となると、ウチのバイトも、その内辞めちゃうのかな?」
「え? いや、そんな簡単に辞めませんよ。むしろ、魔法関係の仕事はバイト以上のことをやるつもりありませんし、辞めるならそっちですね。経営状況の悪化でレンカさんに首切られないのならば、続けるつもりではありますよ」
「おっと、言うねぇ、優護君。……ふふ、わかった。それじゃあ優護君、正社員になろうよ! ウチで! 勿論、給料もアップしたげる」
唐突に、レンカさんはそう言った。
「正社員ですか? 俺は別に構いませんが……」
「ウチの経営状況なら心配しなくていいよ。実際のところ、私はお金持ちだからね。正社員給料でも、二百年くらいなら優護君雇えると思う」
「どんだけ働かせるつもりですか」
「そりゃ勿論、優護君がいてくれる間ずっとだよ。大丈夫。お姉さんがしっかり、養ってあげよー!」
ばばーん、とその大きな胸を張るレンカさん。
「む、むむ……レンカ、此奴は儂のじゃぞ! お主にやる分は、ちょっとじゃからな!」
「大丈夫大丈夫。安心して、ウタちゃん! 優護君のあれこれは、ちゃんと逐一全部ウタちゃんに報告するから。というか、ウタちゃんのことも、お姉さん養ってあげるから」
そう言ってレンカさんは、ぎゅーっとウタに抱き着く。
「んん、ウタちゃんすべすべで、すっごく良い匂いで、抱き心地最高だねぇ!」
「わひゃっ、お、おい、引っ付くな! お主、やはり大分酔っ払っておるな!?」
「ウタちゃん、お姉さんの抱き枕に就職しないかい?」
「せんわ!」
「良かったな、ウタ。やっと就職先が出来たぞ」
「いいや、儂はこのままユウゴに寄生し続けて――おっと間違えた。ユウゴの妻として、日々ユウゴを支えていくと決めておるんじゃ!」
「お前、今酔いで本音が出たな?」
「ユウゴに養ってもらって、日々を面白おかしくのんびり過ごすんじゃ!」
「本音を全然隠さなくなったな?」
ウタの言葉に、しかし俺は、少し嬉しくなる。
日々を、面白おかしくのんびり、ね。
黄泉にて国盗りじゃ、とか言ってた奴が、変わったもんだ。
「んふふー、残念、フラれちゃったか。――あ、優護君の就職の話は、勿論本気だよ! バイト君から正社員君になろうよ!」
「魔法関係のバイトが緊急で入るかもしれませんが、それが問題ないなら、いいですよ。今更他のところで働くつもりもありませんし」
「全然いいよ! よーし、じゃあ、けってー! 我が店の初めての正社員!」
「……レンカのところなら、まあ良かろう。おめでとう、ユウゴ」
無駄に偉そうだが、小さく拍手してくれるウタである。
という訳で、こんな軽いノリで、本当に俺の就職が決定した。
実際、特殊事象対策課の方じゃなくて、レンカさんの店なら、全然構わない。給料増えるなら普通に嬉しいし。もう俺、一般的なサラリーマンとか絶対出来ないだろうし。
「それじゃあ改めて、かんぱーい!」
「レンカさん、それ以上飲むと、さらにぐでんぐでんになりますよ」
「んふふー、泊めてくれるんでしょー?」
「泊めますけど」
「なら問題なーし! よーし、お酒の肴としてー……優護君! 魔力ちょーだい!」
「ま、まあ、いいですが……」
「やったぁ、ありがとー!」
そう言って彼女は、後ろから俺に抱き着くようにして、首筋に顔を埋める。
ぎゅむ、と背中に感じる、彼女の豊満な胸の感触と、魔力を吸われていく感触。
「……れ、レンカさん、あんまり男に引っ付くのは良くないと思いますよ?」
「優護君にしかしないから大丈夫~」
全然大丈夫じゃないです。こっちが。
「今日は、午後からタバコ一本も吸ってないからね! だったら代わりに、優護君吸わないと」
「俺はヤニじゃありませんよ」
「美味しいたこ焼きを食べて、美味しいお酒を飲んで、美味しい優護君の魔力を吸う……これ最強コンボでは?」
……あなたが満足してくれているのなら、もうそれでいいです。
「むむぅ……レンカだけずるい! 儂も!」
「お、お前は別に、魔力いらんだろうが」
「いいや、お主の魔力を吸えば、儂も失った魔力を多少取り戻せる! 気がする! ちょっとでも力を取り戻すためじゃ、協力せい!」
言うが早いが、ウタもこちらにやって来て、正面から俺に抱き着き、グリグリと頭を腹の辺りに擦り付けてくる。
猫みたいな動作である。あと、別にウタから魔力は吸われていない。
……肌の赤さから見て、やっぱりコイツ、意外と酔ってきているのだろう。相当飲んでるしな、今日。
前後に感じる、二人の柔らかな肉体。
アルコール臭に混じった、甘い匂い。
「そう、ウタちゃん! いい感じ! こういう朴念仁君には、そうやって直接アタックするんだよ!」
「……そうじゃな! この、朴念仁勇者め! もっとお主も酒を飲め!」
「わかった、わかったからコップを押し付けてくんな! 零れるって! あとレンカさん、流石にそろそろ離れてもらわないと……レンカさん?」
「んん……今日は、本当に、楽しいねぇ……」
「あー、レンカさん。起きてますか」
「……スゥ……スゥ……」
俺に掛かる全体重。
さっきまで元気いっぱいで騒いでいたレンカさんは、まるで電池が切れたように、寝た。
「……前もそうだったし、この人、酔うと寝るタイプか。おいウタ、レンカさん寝かせるから手伝え……ウタ?」
「……んぅ……此奴と共におるのは、儂じゃぞ……」
ウタもまた、俺の膝の上でいつの間にか寝ていた。
俺は、思った。
「……いやこれどうしろと!」
全く、この二人は……無防備過ぎやしないだろうか。
おっぱいくらい揉んでやろうか。
しないけど。
すいません、一週間と少し、割と忙しくなります! その間、更新頻度二日に一度くらいになるかも。




