我が家で遊ぶ《1》
住所を伝え、こちらはいつでも遊びに来てくれていいと伝えると、レンカさんは午後一で我が家に来た。
どうもレンカさん、車を持っているらしく、それでやって来たようだ。
レンカさんペダルに足届くのか? とちょっと疑問に思ってしまったのは内緒だ。
しかも、近くのレンタル駐車場まで迎えに行って見たのは、軽とかではない相当ゴツい奴で、これをレンカさんが運転しているとなると、ギャップがすごくてヤバい。
「こういうのは、おっきければおっきい程いいんだよ。男の子も、おっぱいおっきい方が好きでしょ?」
「いやレンカさん、そういう冗談は俺、何にも言えなくなるんでやめてもらえると嬉しいっす」
「あはは、ごめん」
なお、今のは自分の胸が大きいことをわかっての発言だと思われるので、尚更何も言えない俺である。
「ま、せっかく高いお金出して車買うんならね。カッコいいのに乗りたいでしょ」
「趣味人っすねぇ」
「お金っていうのは、こういうところで使うんだよ。何のために稼ぐのか、見失っちゃダメだね」
「あの喫茶店、利益出てるようには見えませんが?」
「それは禁句というものだよ、優護君」
シー、という動作をするレンカさんに、苦笑を溢す。
いつも通り掴みどころがないが、今日は普段より少しテンションが高めな気がする。
誘ったのを喜んでくれているのなら、何よりだな。
「レンカさん、着きました。このボロアパートが我が家です」
「一人暮らしなら十分じゃない? 二人暮らしだとちょっと狭そうだけど」
「いやホントに」
そんな話をしながらアパートの敷地に入った俺は、レンカさんを伴って我が家の扉を開ける。
すぐに出迎えるのは、ウタ。
「よく来たな、レンカ!」
「ウタちゃん、おはよぉ。お邪魔するね。――おー、ここが二人の愛の巣かぁ」
「うむ!」
「いやうむじゃねぇよ」
即座にそう言う俺だったが、そんなこちらを見てレンカさんはニヤリと笑う。
「前も否定してたけど、女の子と同棲しておきながら、その言い分は無理があるんじゃないかなぁ? 責任っていう言葉はこういう時のためにあるんだと思うよ?」
「おぉ、流石レンカよ! 良いことを言う! ほれ、ユウゴ。お主の雇い主もこう言っておる。いい加減抵抗はやめたらどうじゃ?」
「いいや、仮に全員が諦めても、最後までお前と対峙し続けるのが俺の仕事だ。俺を諦めさせたかったら、お前も相応の覚悟をすることだな」
「ぐぬっ……やはりまずは、お主の意思を完膚なきまでに折り、儂に服従させるのが先か。いいじゃろう、元魔王の全身全霊をもって、お主の鋼の意思を挫き、籠絡してみせよう!」
「やってみろ、元勇者の頑固さは、平和になっても変わらんぜ?」
「まあ言う程頑固ではないがな、ユウゴ。相当柔軟な方ではあるじゃろ。お主が真に頑固ならば、まだ儂は敵のままじゃろうし」
「……や、やってみろ。元勇者の柔軟な思考は、状況に応じて最適解を選び、常時変化していく」
「案外簡単に籠絡出来そうじゃの?」
正直なところ……まあ、コイツとこうやって日々を過ごしていくのは……悪くないと。
そう思っている俺がいるのも、確かな事実なのだ。
コイツにはもう、戸籍があるが、だからと言って今更放っぽり出すつもりなど、全くないしな。
「よくわかんないけど、やっぱり仲良いねぇ、君達」
「儂は、お主とも仲良くなりたいぞ? お主と共におると、楽しいからの! のう、ユウゴ」
「え? あぁ、勿論。じゃなかったら家になんて呼ばないし。レンカさんみたいな人と仲良くなれたら、そりゃあ男なら嬉しいもんですから」
そう、ウタに乗っかって言ったのだが。
何故か俺だけにジト目を向けるレンカさんである。
「……んん、知ってたけどね。優護君はこういうところがアレだよね」
「アレじゃな、レンカ」
「ウタちゃんも苦労するねぇ」
「ま、これも女の務めというものよ。ばいとの時はよろしく頼むぞ、レンカ」
「うん、わかった。何かあったらちゃんとウタちゃんに報告するからね」
何故そこですでにラインが出来上がっているのか。
元勇者の勘で、何となく口出しすると痛い目見そうな気がしたので、俺は誤魔化すように一つ咳払いする。
「オホン、それより、せっかくレンカさん来たんだから、なんかしようや」
「私はこのまま、二人の関係について根掘り葉掘り聞いてもいいんだけど」
「ダメです」
「安心せい、レンカ。儂らにもちと事情があるが、此奴がいない時、しかとお主に話してやるからの! 色々!」
「おいウタ、余計なことを言うなよ?」
「問題ない、お主の武勇伝を幾つか語ってやるだけじゃ!」
「一番ダメな奴じゃねぇか!」
キョウといる時も軽く話題に出たが、俺の武勇伝って、つまりバチバチに殺し合いしてる時のものだろ。
昔はヤンチャしてただとか、こんな悪いことをした経験があるだとかのワル自慢みたいな奴ではなく、誰それの首を取っただとか、何人ぶっ殺しただとかの、ガチな奴である。
何一つ一般人に聞かせていい内容じゃない。
「えー、何それ、聞きたいんだけどなぁ」
「ダメです。ウタ、絶対に話すなよ」
「しょうがないのぉ。……レンカ、後でな」
「わかった、後でね」
「お前マジやめろよ!?」
……ま、まあ、仮に話してもホラ話としか思われないだろうがな。
異世界で勇者と魔王やってたなんて、信じられたらそれはそれでヤバい奴だろう。ウタも、そのことはわかってるはずだ。
……わかってるよな? さ、流石に大丈夫だよな。仮にも元魔王様だ、言って良いことと悪いことはわかってるはず。
と、俺がそんなことを思っていると、何か決意したような顔で、レンカさんは言った。
「……よし! お酒! 昼間っから飲んじゃおう! 二人とも、お酒買いに行こう、お酒!」
「おぉ、良いのぉ! 酒じゃ、酒!」
「いやレンカさん、今日車で来たのでは?」
「うん。だから、泊めてくれると嬉しいんだけど……ダメかなぁ。二人といっぱい遊びたいし」
にへら、と笑ってそう言うレンカさん。
……そんな顔されたら、断れる訳ないだろ。
さてはわかってやってるな、この人?




