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元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~  作者: 流優
地球ってこんな不思議惑星だったっけ
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バイト開始

 感想ありがとう!


 俺ぁ蘇るぜ、何度でもな!


『先輩、さっきの男は!?』


 女子高生、清水 杏の耳に跳び込んでくるのは、後方支援をしてくれている、よく見知った後輩の声。


「……もうこの場にゃいねぇ。敵もいねぇようだし、バックアップチームは引き上げさせな」


『えっ……追わないんです?』


「あぁ。……ありゃあ、本当に通りすがりだったのかもな」


『あの男の言葉を信じるんですか!?』


 杏の無線は繋がりっぱなしであったため、彼女が交わしていた会話は同僚の後輩にもまた聞こえていた。


「けどお前、サンダル(・・・・)履いてこんな場所に出て来るか、普通?」


『……さ、サンダル?』


「そうだ。それでいて、完璧にあたしの攻撃をいなしてやがった。何か企んでる奴が、わざわざサンダルで出て来たりなんざしねぇだろ。……それに、存在感こそ半端なかったが、最初から最後までこっちに敵意はなかったしな。狙撃された時は、面倒くさそうにしてたが」


 杏は、地面に突き刺さっている、真っ二つになった銃弾の片方を摘まみ上げる。


 7.62×51mm。対人には十分だが、対魔物戦では火力不足が顕著で、更新が切望されている弾。


 狙撃の銃弾を、斬る。


 弾を斬れる者自体は、他にもいる(・・・・・)


 この世界には確かに超人が存在しており、杏に剣術を教えた師匠も、恐らくそれが出来るだろう。


 だが……全くの奇襲の狙撃に、果たして人は対処出来るものなのか?


 こうして目の前に斬られた銃弾が存在している以上、出来る、と言わなければならないのだろうが……あるいは、三百メートルは離れた位置から、己を狙う銃口に、気付いていたのか。


 どちらにしろ、驚異的だ。


 それから杏は、渡された刀を鞘から引き抜く。


「……綺麗」


 銘は……『雅桜』、だったか。


 美しい、波打つ波紋。


 何となく、銘の理由がわかるような美しさをした刀であり――この、刀身に宿ったとてつもない魔力。


 この刀で斬れぬものは、この世に存在しないんじゃないかと思わんばかりの魔力量で、こんなもの他に見たことがない。


 なるほど、国が管理していた程の刀である『鳴獅子』に対し、まるで粗悪品みたいな扱いをする訳である。


 確かにあれは、国宝の中でもグレードは低いのだが、しかしそれでも、一線での使用に耐え得ると判断されている品だ。


 多少のツテがあり、将来性があるとか何とかで目を掛けてくれる人がいたおかげで使うことが出来ていたが、本来ならばまだまだ若輩で実力の乏しい己程度が扱える刀ではないのだ。


 ――ここまで、ありがとな。


 杏は、雅桜を鞘に戻した後、鳴獅子の折れた刀身を拾って、丁寧に片付けながら思考を続ける。


 この雅桜、売れば何千万、いや億の値段がしてもおかしくない逸品だろう。


 こんなものをポンと簡単に他人に渡すなど、普通は信じられないのだが……あの男からすればこの程度、本当に他人に渡しても何とも思わない程度の品なのかもしれない。


 ――あの刀、見ているだけで意識が吸い込まれそうだった。


 思い出すのは、男が持っていた、黒の刀身をした刀。


 あまりにも濃密で、空間が歪んで見える程の凝縮された魔力を纏っており、怖気を覚える程の圧力を放っていた。


 ただの刀が、だ。


 仮に『脅威度』で表すならば……恐らく、『Ⅴ』。少なくとも、己ではあの刀の力を正確に見切ることが出来ない程には、力がある。


 脅威度とは、世界で発生する特殊な現象を、その危険具合で分類した指標だ。数字が大きくなる程、脅威であると見なされる。


 この世には『妖力』、『法力』、『御業』――今では名称が統一され、ただ『魔力』と呼ばれるものが存在し、公にはされていないもののその力を操る者達がいる。


 魔力は人だけではなく自然界等にも影響を及ぼし、それが時折人社会の中にも出現して、害を為すことがあるのである。


 過去に妖怪やら、悪魔やらと呼ばれていたものの正体も、大体がそれだ。


 現代だと、都市伝説だろうか? ただの噂だけではなく、実際には害をもたらす魔力的な事象であったことが判明したことも数度ある。


 そして、そういうものを適切に対処するために、『脅威度:Ⅰ~Ⅴ』という五段階の指標が存在しているのだ。


 当然、ただの刀程度の脅威度が最高レベルの『Ⅴ』など、普通はあり得ず、そもそもそのレベルの脅威など、ここ百数十年では一度も出現していないそうだが……しかし、あの男の姿を思い出せば、ただの刀にそれくらいの力があってもおかしくないと、そう思ってしまった。


 あの男に対する杏の印象は、一つ。


 わからない(・・・・・)、だ。


 強いことだけは、間違いない。


 だが、只人が連なる大山脈を見て、正確な広さを推し量れるか?


 大海原を見て、正確な水の量を推し量れるか?


 杏が抱いたのは、そんな大自然に対するような畏怖であった。


 本人が何かをした後、その気配はフッと消えてしまったが……より一層、得体の知れなさが際立ったと言えるだろう。


 ――『旧家』の怪物達に対しても同じことを感じたが……少なくともあっちは、まだ理解出来た。


 理解出来ない。それがいったい、どれだけ恐ろしいことなのか、杏はわかっていた。銃刀法違反をチラつかせたらダッシュで逃げたが。


 まあ、杏も本当はそんなことを聞きたかった訳じゃなく、咄嗟に「待て」と言ってしまい、それから誤魔化すようにそう言っただけだったが、あの最後の人間味溢れる行動を見て、ようやく少し息を吐けた思いだった。


『……とにかく、先輩。戻ったら詳しい報告をお願いします』


「わかってる。どちらにしろ、放っちゃおけねぇ奴だしな」


 それから杏は、現場の後片付けを行った後、撤収した。



   ◇   ◇   ◇



 地球に帰還して、十日程が経過した。


 あのオーガの一件以来、何かおかしなことが起こることはなく、テレビやネットでニュースを確認しても、それらしいことを報道しているところはなかった。


 やはり、ああいうのは表沙汰にされていないようだ。俺が知らなかっただけで、世界は不思議で溢れてたってことだな。


 そして、現実的な問題として貯金がヤバかったので、この間で俺は一つバイトの面接を受け、無事採用してもらったため、そこで働くことになった。


 バイトなので、当然給料は良くないし、最低限生活出来る程度の金銭しか得られないが、俺にはそれで十分だ。


 この平凡で平和な日常が、ホッとする。……向こうの世界も、これだけ平和になっててくれれば、いいんだが。


 俺も魔王も同時に死んでしまったので、どういうことになってるのか想像も付かないな。まあ、あくまで鉄砲玉である俺とは違って、魔王はしっかり国のトップだったので、魔族達の混乱の方が酷いかもしれないが。


 ……向こうのことは、考えるだけ無駄か。もう、俺には何も出来ないのだから。


 応募したバイト先は、二駅隣にある、個人経営の喫茶店だ。


 店名は、『ユメノサキ』。


 ここに決めた理由は、一つ。勘が働いた。


 俺は、己の勘をかなり信じている。死に物狂いで戦場を駆け抜けたことで身に付けたものなので、これが信じられなくなったら終わりだとも思っている。


 たまたま広く散策していた際に求人の張り紙を見つけ、何となく「ここが良さそうだ」と思ったのだ。賄いもあるようだったしな。


 という訳で俺は今、支給されたエプロンを身に付け、その店で働いているのだが……。


「……レンカさん」


「んー?」


「もう午後も半ばですけど、ここまでで来たお客さん、三組でしたね」


「そだね」


「昨日も、同じくらいでしたよね」


「そだね」


「……あの、失礼を承知で聞くんですが。俺雇った意味あります……?」


「あはは、ないかも」


 俺を雇った店長は女性で、名は西条 漣華(レンカ)


 背中まで伸ばしたロングヘアで、染めているのか淡いピンク色だ。……いや、あんまり染めている感じはないな。もしかして地毛か?


 整った顔立ちはあどけなく、ハーフなのか相貌に日本人らしさと外国人らしさが窺え、美人というより美少女という言葉の方が似合う人だろう。


 身長は百四十あるか無いかくらいの、かなりの低身長なのだが、ある一部分だけは身体の小ささに見合わないサイズであり……ぶっちゃけると、ロリ巨乳である。


 その背丈と顔立ちだけ見ると、俺より年下どころか、中学生に見えてもおかしくないくらいなのだが、ただ醸し出している気怠げな雰囲気と、目元に見える隈、あとはスパー、と吸っているタバコから、意外と歳相応にも見える不思議な人だ。


 いやまあ、出会ってから間もないし、歳相応と言っても実際に何歳なのかは知らないのだが。少なくとも、こっちの世界での俺よりは年上だろう。多分二十七とか、八とか、その辺りだろうな。


 なお、飲食店なのにタバコ吸ってていいのかと思ってちょっと見ていたら、「個人経営だからね」と答えになっているのかいないのか、微妙な回答を貰った。


 この店は彼女の店らしいので、別にいいんだけどさ。俺自身は吸わないが、戦場暮らしだったので、特に煙も気にならないし。


 兵士の安息のためには、タバコと酒は必需品だったからな。


「まあ、安心してよ。給料はちゃんと払うから。安いけど。よく君、ウチみたいな怪しくて時給も低い店、来ようと思ったね」


「自分で言うんですかそれ……まあ、こう、ビビッと来るものがあったんですよ」


 そう言うと、何故か彼女は、少しだけ面白そうな笑みを浮かべる。


「ふふ、ビビッと、か。――それより優護君、お腹空いたし、何か食べる? 私用意するけど」


「い、いや、なら俺用意しますよ。カカシだけしてるのは何か申し訳ないんで」


 向こうの世界じゃあ、必要に駆られて普通に料理とかもしていたので、俺は割と飯が作れる方だ。男料理だが。


 採用してもらった時にも、一通り腕は見てもらい、「お、いい感じ。じゃあ作る方もある程度任せるね」と言ってもらっている。


「そう? じゃあ、よろしく。冷蔵庫にビール入ってるから、それに合うもので」


「あの、仕事中では?」


「個人経営だからいいんだよ」


「それ別に、全ての免罪符にはなりませんからね?」


 ……なかなか、掴みどころのない人だ。初めて会ったタイプだな。


 それに、この人……肉体に巡る魔力の流れを見る限り、魔力制御(・・・・)が出来ている。それも、意図的に。


 つまりは、魔法が使える人(・・・・・・・)、ということだ。


 果たして、俺の勘は何に働いたのか。

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