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元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~  作者: 流優
我が家での日常

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旧本部《4》

 リサイクル系噛ませ犬……いい名だ。

 これから自分も使っていこう。リサイクル系噛ませ犬。


 背の高い女性だ。


 俺よりも高く、恐らく百八十五はあるだろうというくらいで、艶のある長い黒髪を後ろで一括りにしている。


 肌は、日に焼けたように少し浅黒く、出るところの出た、かなり女性らしい肢体をしているが、相当に鍛えた肉体をしていることが腕の筋肉からだけでも窺える。そもそも魔力の流れ方が、一流の戦士のそれだ。


 そして――額に生えた、二本の角(・・・・)


 オーガとはまた別の鬼族、と言ったところか。向こうの世界にも、魔族に似たような種がいた。


 もう、当たり前のように人間種以外がいるな。


 刀は大小二本を差しており、小刀は腰だが、もう一本は柄が下に来る形で背中に背負っている。


 何故背中なのかと言うと、恐らくはあれが、大太刀(・・・)だからだ。


 カテゴリ的にあれ、大剣なので、只人が使うにはあまりに長過ぎるし重過ぎるのだが……彼女なら、無問題か。多分、身体強化魔法を使わないで、素の筋肉だけでも降り回せることだろう。


 引き締まっているからかパッと見はスリムだし、大和撫子と言っても良いであろう美人ではあるのだが、何と言うかそれ以上に『武士』という言葉が似合うような女性である。


「あ、綾姫様……」


「今日、シロ様の客人が来るという話は知っていたはずだ。貴様、その客人相手に、この無礼は何だ?」


 切れ長の双眸がスッと細められ、彼女の身が戦闘態勢に入ったことがわかる。


 強大な圧力が放たれ、自然と俺の肉体もまた、いつでも動けるような警戒態勢に移る。


 ……向こうの世界でも、上位ひと握りに入るような強者だな。


 狼狽えるような表情を浮かべた次期当主様だが、奴はチラと一瞬こちらを見た後、言った。


「……こ、この者が暴れたためです!」


「はぁ?」


 思わず俺の口からそんな声が漏れるが、次期当主様は気にせず言葉を続ける。


「わ、私の護衛を無力化し、それから私に攻撃を加えようとしておりました! この者は、シロ様に会わせる訳に行かぬ危険人物です!」


 ……まあ、間違ってはないな?


 田中のおっさんが間に入らなかったら、少なくとも生死不明にはなるだろう一撃を入れてやるつもりだったし。


 こういう奴は、生かしておいたら必ず害を為す。放っといたら、いつか必ず背中を刺してくる。


 早めに処理(・・)することが大事なのだ。


 それはもう、嫌という程に経験したからな。同じ陣営に属するバカによる、バカなやらかしは。


 得てしてそういうものは大惨事になり、周りを巻き込んで盛大に爆発するのである。


「……ふむ、そうか」


 すると、綾姫と呼ばれた鬼族の女性はツカツカと次期当主様に近付き――ガッシと奴の頭蓋を五指で掴むと、そのまま片手で持ち上げた。


「ぎィ……ッ!?」


 次期当主様の口から漏れる苦鳴。


「貴様、私に嘘を吐いたな? 私が嘘を嫌いだと知っていながら、愚にも付かぬ世迷言を。つまり、私を舐めているのだな?」


「ち、ち、違――」


「違う? 何が違う、言ってみろ。貴様、もしかして私を馬鹿だと思っているのか? 私が何も知らずこの場所に来たと思っているのか? 送り出したはずの案内の者が、慌てて私の下へ戻ってきたのだ。当然即座に監視の目は飛ばす。見ていたぞ、貴様の所業は」


「……で、ですが、私の言っていたことは間違ってないはずです! この者は実際に非常に危険な武器を持っており、そして私に対し攻撃的な行動に出ました! 飛鳥井家の者として、そんな危険人物をシロ様の御前に出す訳には参りません!」


 鬼族の女性の言葉に、だが次期当主様は、宙吊りにされた状態でも反論する。お前の反骨精神すごいな。


「貴様如きが、シロ様の決定に口を挟むと?」


「その判断が間違っているのならば、否と言うのも忠臣の役目でしょう!」


「……おい、あまり私を怒らせるなよ」


 その瞬間、凄まじい怒気が鬼族の女性から放たれた。


「あガッ、ぐっ、ギッ!?」


「誰が、誰の忠臣だと? 己のことしか頭にない愚物が、言うに事欠いて、忠臣? よくもまあ、私の前でそんな戯れ言が口に出来たものだ。そもそも、シロ様の判断が間違っていると、貴様如きが勝手に決めつけるな。今日ここに至るまで、何も反論していなかったくせに、よくそんなことをぬけぬけと」


 万力の如く指に力を込められているのか、ミシミシと次期当主様の頭蓋が軋む。


 痛みと恐怖に、その表情が歪んでいる。


「そんなに死にたいのなら殺してやる。飛鳥井の現当主には、貴様は自殺したと伝えよう。私に『死にたい』と言ったから、その通りにしたとな」


 もはや、奴は喋らない。


 ブクブクと口から泡を吹き、すでに気絶していた。


「綾姫殿、それ以上やると、本当に飛鳥井殿の頭部が砕けましょう」


「……フン、実際砕いてやりたいところなんだがな」


 田中のおっさんの言葉に、鬼族の女性はハァ、と特大のため息を吐くと、ポイとゴミのように次期当主様を投げ捨て、周りへと指示を出し始める。


「おい、そこで突っ立っている馬鹿者ども。この三人を座敷牢に連れて行け」


 どうやら完全な上下関係が存在するようで、何が何だかわからない様子で俺達を包囲していた他の退魔師達は、やはり何が何だかわからない様子であったが、彼女の言葉に従って気絶した次期当主様と、その護衛二人を連行していった。


 ――そうしてこの場を収めた鬼族の女性は、最後に俺達に向かって、深々と頭を下げた。


「三人とも、大変失礼した。今回の件は、完全に我々の落ち度だ」


「あなたにそう畏まられると、少々やり難いですな。ですが、綾姫殿に来ていただき、大変助かりました。少々収拾の付かない状況になりかけていました故」


「フッ、田中なら、それでもどうにか収めたかもしれんがな。お前胡散くさいし」


「本人に向かって言いますな」


「いないところで言ったら陰口になっちゃうじゃないか」


 田中のおっさんとは知り合いらしく、少しだけ気安い様子で言葉を交わす二人。


 あの次期当主様も田中のおっさんのことは知っていたし、俺が思っているよりも偉い人なのかもしれない。いや、そもそも支部長の時点でかなり偉いか。


「とにかく、今回は本当にすまなかった。あの者には、必ず相応しい罰を与える故、それだけは信じてほしい」


 田中のおっさんとキョウが、俺を見る。


「……そちらでどうにかしていただけるのなら、それで構いません。ただ、ああいう輩は、早めにどうにかしないと後で祟りますよ」


「そうだな、私もそう思うよ」


 ……まあ、どんな事情があるにせよ、そっちで対処してくれるんなら、それでいいわ。もうどうでもいい。


 別に好き好んで人を殺したい訳じゃない。また会ったら殺そうかなとは思ってるが。


「仮に、あの男がこちらに被害を及ぼすことがあったら、怒りますからね、俺」


「胆に銘じよう」


「……海凪君の怒りは怖いな。しっかり私も、起こったことを詳細に上へ報告しておこう」


「隊長、よろしくお願いしますよ、本当に。優護が本気で暴れたら、ウチらの組織なんて簡単に壊滅するんですから」


 二人とも俺のこと何だと思ってるんだ。


 やれるかやれないかで言ったら、やれるけど。


 その後、話が一段落したところで、ようやく自己紹介を交わす。


「私は綾。見ての通り、鬼族だ。趣味は悪い人間を食うことだ」


「そうですか。ども、アヤさん。俺は海凪 優護、人間です。趣味は……最近は料理ですかね。レパートリーを増やそうと頑張ってます」


「……ツッコんでくれないと困るんだが?」


「? まあ悪い人間なら食ってもいいんじゃないですか?」


 さっきの次期当主様くらいなら、全然食ってもいい気がする。いや、勿論冗談なのだろうが。


「君はあれだな、普通の青年のような顔をして、やっぱりちょっとおかしいんだな」


「はい、この人はおかしいです。気を付けてください」


「キョウ、急に刺してくるじゃん」


「いや……これだけはちゃんと教えておかないと、っていう義務感が」


「君は……報告にあった清水 杏ちゃんか。君も、ごめんね。嫌な思いをさせちゃったね」


「いえ、あたし――私は、特には。絡まれていたのは優護ですから。この人がもう何も言わないのなら、私が文句を言う訳にはいきません」


「そっか……海凪君、良い彼女さんがいるね」


「え、いや――」


「ち、違います! 彼女じゃありません!」


 微妙に顔を赤くして否定するキョウ。


「あれ、そうなのかい? それにしては親密な様子だし、名前で呼び合ってるじゃないか。人間は男女の仲になると、名前で呼ぶんだろう?」


「それで言ったら、アヤさんのことも名前で呼んでる訳ですが」


「ふむ? まあそうか。――っと、こんな話をしてる場合じゃなかった。こんなことになってしまったが、案内は私がしよう。さあ、こちらだ。田中、杏ちゃん、君達は手前の応接間で待ってもらうことになるな」


「あれ、キョウも呼ばれたのでは?」


 アヤさんを先頭にして歩きながら、そう問い掛ける。


 ツクモに直接会った者に話を、ってことだったと思うんだが……。


「すまないが、杏ちゃんは無理だ。こうして見てわかったが、恐らくこの子にシロ様がおわす庵は辛い。あのお方がどうこうする訳ではないのだが、あの場所は神域の中でも特別魔力が濃くてな。それに加えて、本人の存在感も感じることになる。害を与えてしまうのはシロ様の本意じゃないから、やめておいた方がいい」


 あぁ……一等濃い魔力の中で、向こうの世界でのウタと対面するようなものか。


 それは確かに、魔力量の低いキョウにはキツいかもな。


 というか、現在時点でいつもより彼女の口数が若干少なめな気がしているのだが、多分この神域に気を持っていかれまいと抵抗しているからなのだろう。


「……というか、田中。ちゃんと伝えたはずだよな? この報告にある、ツクモが興味を持ったらしい男性を連れて来てほしい、と」


「えぇ。ただ、清水君も当事者の一人ですから、念のためです。何かあった時、上手く海凪君をコントロールしてくれないかという思いもありましたし」


「良い判断です、隊長。優護、女子供には極端に甘くなりますし」


「アンタらな」


 ……もう何も言うまい。


「それに、清水君は今後伸びますから。今の内にここを経験させておきたかったという思いもありまして」


「ふむ」


 田中のおっさんの言葉に、アヤさんがキョウの方を見る。


「……うん、わかった。それじゃあ、代わりに君には、私が訓練を付けよう。さっき嫌な思いをさせてしまった謝罪代わりだ」


「! いいんですか?」


「いいよ。ただ、私は手加減が得意じゃない。怪我くらいは覚悟してもらうことになる」


「望むところです」


「よし、いい覚悟だ。――それじゃあ、二人はこの部屋で待っていてくれ。海凪君、君はこっちだ」


 屋敷に入り少ししたところで俺は二人と別れ、さらに奥へ連れて行かれたのだった。

 そろそろ書き溜めが危ないな……頑張らないと。


 投稿時間はこのまま変えず、基本18:10分で投稿していく予定です。なので、投稿されてなかったら、「あ、コイツ今日の分間に合わなかったな」と思っといてください。


 読んでくれてありがとね!!

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― 新着の感想 ―
ああ、田中さんの組織内での印象ってやっぱり胡散臭いなんだ……
チンピラの家の当主がどう対応してくるのか楽しみ こんなのが次期当主として認められてる以上ポンコツだと思うけど
飛鳥井家って超名門なのにな……。蹴鞠のイメージが強くてまあ実際サッカーでも出てきたりしてるけど、和歌とか宗教の別当とか、特に室町辺りの歴史辿ると割とどこでも絡んでたりする名門なのにな……。割とショック…
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