表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~  作者: 流優
我が家での日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/156

ウタとレンカ《3》


「それじゃあユウゴ、レンカに存分に魔力を吸わせてやるがよい!」


「いや何がそれじゃあだ、何が」


「お主ならどれだけ吸われても問題なかろう? 儂のがやれれば良かったんじゃが、恐らく儂の魔力は、レンカには適合出来ん。理由はお主もわかるじゃろう」


 む……なるほど?


 ウタの魔力は、異質だ。異世界人故か、ウタ個人の体質かは知らないが、問題がないのならばこんな風に縮んだりなどしない。


 である以上、この世界に適合しているレンカさんに渡すには、不都合か。


「それに、知らん者は生理的に受け付けんでも、その話しぶりならば、ユウゴの魔力であれば問題ないのじゃろうし。のう? レンカ。直接行為をせんでも、サキュバスならば魔力補給のやり方は幾つかあるじゃろうし」


「え、う、うん。まあ、その……あはは、ちょっと恥ずかしいね。確かに優護君ならいいよ。全然。むしろ嬉しい。本当に美味しい魔力だし」


「じゃろうな。此奴程透き通る魔力をした者は、そうはおらん。リンが懐いた一端も、そこにあろうよ」


「……俺の魔力って、透き通ってるのか?」


「うむ。悠久の大山脈から、流れ出でる清水の如くな。あるいは、万人を温かく照らす陽光か」


「とっても綺麗だよ。混じりっ気なんて全くない、本当にお日様みたいな魔力だね」


 ……評価が高過ぎて、微妙にこそばゆいな。


 流石に俺は、魔力の質の差まではわからないし……レンカさんはそれがわかるのか。


 これも種族差だろうか。まあ俺って、魔法の才能全然ないしな。


 俺は、かなり道具に頼っている。刀は勿論のこと、魔法も、人間種が開発してくれた効率の良い魔法式があるおかげで、どうにか使えているようなものである。


 戦場を駆け抜けたおかげで、感知能力だけはバカみたいに優秀だけどな。俺の魔法能力レーダーチャートがあれば、きっと相当に歪な形をしていることだろう。


「あー……わ、わかりました。レンカさんにはお世話になってますし、もう好きなだけ持ってってください。そもそも別に、俺の魔力くらいなら幾らでも吸ってもらって構いませんしね」


「い、いや、それは流石に悪いからしないよ。好きなだけなんて吸ったら、優護君干からびちゃうかもしれないし……」


「それだけは無いの」


「それは気にしないでもらって構いません」


「……薄々そうじゃないかって思ってたけど。優護君ってもしかして、バリバリに魔法使えるの?」


「表沙汰に出来ないくらいには使えます。なので、内緒にしといてください」


「遠慮するな、レンカ。お主のその目元の軽い隈、多少の栄養失調じゃろう? この店で補給出来ておると言っておったが、そのやり方が大分無理を重ねているのは間違いないはずじゃ。ユウゴならば、お主の一か月分の食事量を吸われても、何の問題なくピンピンしておるじゃろうし、その点は本当に心配せんでよいぞ」


 ……流石だな、初対面でそんなことまでわかるのか。


 だからこそ、こんな急に「魔力をやれ」なんて言い始めたのか。やっぱり、人のことをよく見てる。


 すると、レンカさんは驚くような顔をした後、少し悩ましげな表情を見せる。


「そこまでわかるんだ……ん、正直に言うと、多分そうなんだろうね。もうこうなって長いから、あんまり自分じゃわかんないけど。ここのところは、優護君から漏れ出る魔力を貰ってて、それで体調も良くなってたし」


 彼女は、俺を見る。


「わかった、そこまで言ってくれるのなら、お言葉に甘えちゃってもいいかな? 優護君の魔力……いっぱい食べていい?」


「えぇ、勿論です」


「ありがと。――実はずっと、我慢してたんだ」


 そう言ってレンカさんは、カウンターを出てこちらにやって来ると、背伸びをし。


 キュッと、俺の身体に軽く腕を回し。


 首筋に、顔を(うず)める。


 そして――舌を這わせ始めた。


 魔力の吸われていく感触。


 ピチャリ、ピチャリ、と軽い粘膜の音。


 首筋を這う小さな舌の感触に、ゾクリ、としたものが全身を走り抜ける。


 ――あ、これは、ヤバい。


 恐らくは、サキュバスの体質によるものなのだろう。


 レンカさんから甘い匂いがすることは元々知っていたが、こうして直に抱き合ったことでそれを強く感じてしまい、否応なしに身体が反応しそうになる。


 まるで、全身を媚毒に侵されているかのような。


 脳味噌が蕩け、理性が溶かされていくかのような。


 押し付けられ、どうしても感じてしまう、彼女の大きな胸の感触。


 どれだけそうしていたかは、わからない。


 ただ、俺は必死に本能を抑え付け続け、レンカさんにされるがままでいると、ちょっと焦った様子で、横から挟まれる声。


「そ、それくらいでもういいじゃろ、レンカ! じゅ、十分吸ったはずじゃ!」


「んぅ、ん……そうだね。名残惜しいけど、お腹いっぱい。これくらいにしとこっか。私……こんな満たされた気分なの、初めてかも。ほんとにありがと、優護君」


「う、うす……」


「……吸うの、唇からじゃなくて、残念だった?」


 そう言ってレンカさんは、チロリ、と己の唇を少しだけ舐め、いつもの気怠げな様子とは違った、妖艶な微笑みを浮かべた。


 ……勇者には完璧な状態異常耐性があると思っていたが、勘違いだったかもしれない。



   ◇   ◇   ◇



「ごめんごめんウタちゃん。つい夢中になっちゃった」


「そうじゃ! 此奴は儂のじゃぞ! お主にやるのは、ちょっとだけじゃからな!」


「あはは、ちょっとはくれるんだ。嬉しいね」


「色々ツッコみたいところだが……とりあえずウタ、茶ぁくれ……」


「う、うむ、今淹れてやるぞ。ここまで消耗したユウゴを見るのは久方ぶりじゃな……魔王軍の一個旅団で襲い掛からせた時でも、こうはなっておらんかったが。レンカ、やるのう」


 バカ言え、あの時も死ぬ程疲れたわ。


 ただ、肉体的な疲れなら慣れてただけで。


「え、ごめん、やっぱり吸い過ぎちゃった?」


「あ、いや、魔力自体は全然問題ありませんが……精神的な疲れが」


「ふぅん? 優護君、意外と初心だったんだ」


 何だか面白そうな様子で、こちらを見て来るレンカさん。


「……ああなったら、誰だって同じような反応になるでしょうに」


「あはは、そっか。そうかも。ごめんね、ちょっとからかい過ぎちゃったね」


 憮然とした表情の俺に、レンカさんはひとしきり笑い、それから己の身体を見る。


「うん、身体にすっごくエネルギーが満ちてる感じ。今ならフルマラソンも行けそう。……やっぱ嘘。フルマラソンは無理。五百メートルくらい走ったら吐きそう」


 いやそれはもうちょっと頑張りましょうよ。


「あとは、この店の魔法陣の改善じゃな。ちと待っておれ、今解析して、組み直してやる。そうすれば、ユウゴがおらん時でも栄養不足になることは少なくなろう」


 そう言ってウタは、軽く魔力を練り上げると、店にそれを這わせていき、魔法陣の改修作業を始める。


 他人の張った魔法陣を、壊さず後から手直しする。


 これも、ウタじゃないと出来ない芸当だな。


「何と言うか……二人とも、すごいね。仕事は何してるんだっけ?」


「フリーターです」


「居候じゃ」


「お姉さん、何だか二人のことがわかんなくなってきちゃったよ」


 すいませんね、レンカさん。


 我々も我々で、色々事情がありまして。


「――よし、出来た。これで、今までの一.五倍は効率良く吸収出来よう。ま、それも対症療法みたいなもの故、困ったら大人しく優護から魔力を貰うことじゃな」


「ありがと、ウタちゃん。……二人には、おっきな恩が出来ちゃったね」


「恩などと言うな。お主は師匠であり、もう友人じゃ。友が困っておるならば、助けるのは至極当たり前のこと。それも、儂らで十分解決可能な範囲内の事柄であったしな。ただ――」


「ただ?」


「どうしても気になるのならば、儂らに何か、美味いものでも作ってくりゃれ! それで、ちゃらとしようぞ!」


 冗談めかして、フフンと笑みを浮かべながらそう言うウタ。


 ……キョウの時にも思ったことだが。


 コイツは、俺に向かって勇者だのお人好しだのと言うことがあるが、いったいどっちが、って話だ。


 全く、良い女だよ。お前は本当に。


 ウタの言葉に、レンカさんはまじまじとウチの居候を見詰めた後、微笑みを浮かべる。


「……わかった。よーし、任せて! 二人の歓迎のために、腕によりを掛けて料理を作るから! 勿論、私の奢りで! お店も、もう閉めちゃおっと!」


「え、いや、流石に代金は払いますが――」


「野暮だよ、優護君。女がその気になった以上は、黙って受け入れないとね!」


「そうじゃぞ、ユウゴ! 女が甲斐性見せておる時は、男は大人しく受け入れることじゃ! それが悪いと思うたのならば、次の機会にその思いを返すと良い! それが男女の縁というものよ」


「いいこと言った、ウタちゃん!」


 息ピッタリな二人である。


「あー……わかったわかった。それじゃあレンカさん、せめて手伝います。あくまでこっちは、お邪魔させてもらっている身なんですから」


「む……それもそうじゃな、では儂も手伝おう! レンカ、何でも言うがよいぞ!」


「わかった、それじゃあ優護君は、いつもみたいに閉店の作業お願い。ウタちゃんは、じゃあ私と一緒に、料理してみよっか!」


 その後、店を閉めて俺達の貸し切りとなったことで、完全に飲み会となり、レンカさんの最強に美味い料理を食いながら、酒を飲んで夜遅くまで過ごした。


 正直、メチャクチャ楽しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
凛ちゃんは既に嫁メンバー入りしてるな
女がその気になった以上は、黙って受け入れないとね 女が甲斐性見せておる時は、男は大人しく受け入れることじゃ! ハーレムについての話かな?(笑)
嫁を何人作るきなんだい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ