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元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~  作者: 流優
我が家での日常

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33/156

 新章開始!


 朝。


「うおー! 頑張れ、負けるなぷりんせす!」


「……がんばれ!」


 テレビの前で、少女向けアニメを観て声援を送る、少女と幼女。


 ヒロインがピンチに陥ると声援を送り、ヒロインが活躍すると歓声をあげており、微笑ましい光景だ。


 なお、片や別世界で世界征服に王手を掛けていた魔王と、片や恐らく二百年は生きているであろうお狐様である。


 ――ウータルト=ウィゼーリア=アルヴァストと、リン。


 リンはともかく、ウタはお前……なんかどんどん元魔王としての威厳が消えて行くな?


 いや、いいんだけどさ。今の方が俺は好きだし。


 ちなみにリンの歳だが、本人はもう覚えていないらしいものの、言葉の断片や垣間見える知識から、恐らく江戸後期頃には生まれていたんじゃないかと思う。


 ただ、精霊種なので、二百年程度では大して成長しない。やはり見た目通りの幼女である。


「お、この魔法なら儂も出来るぞ」


「……ほんと? お姉ちゃんも、ビーム、出る?」


「出るぞ、びーむ! 儂のびーむならば、あのような小粒の悪党なぞ一撃で粉砕し、そのまま後ろの基地までをも塵芥に変えるじゃろう!」


「……おー」


 パチパチと拍手するリンに、自慢げにえっへんと胸を張るウタ。実際ウタならそれが可能だから困る。


 ……こうやって見ると、本当に姉妹みたいだな。


 二人の会話を聞いていた俺は、番組の終わったタイミングで、彼女らへと声を掛けた。


「ほら、お前ら、朝飯出来たぞ。運ぶの手伝えー」


「うむ!」


「……ん!」


 二人はすぐにこちらにやって来て、俺の手伝いを始めた。


 これが、最近の俺達の、一日の始まり方だ。



   ◇   ◇   ◇



「フゥー……」


 清水 杏。


 優護のアパートの近くまで来た彼女は、緊張を紛らわすために大きく息を吐き出す。


 ――あの、ダンジョン攻略時。


 杏は、ほとんど何も出来なかった。


 優護がもう、飛び抜けておかしい存在であることは理解しているので、終始守られ続けたことに対して、そんなに思うことはない。


 大百足を、子犬にじゃれつかれているかのように軽くあしらい、魔法で圧倒し、さらには一撃で斬り殺す男である。


 大妖怪であるあの九尾の狐からも、明らかに興味を持たれ、そして警戒されていた。


 それがどれだけ凄まじいことなのか、優護は知らないのだ。


 規格外という言葉では決して言い表せないような存在であることは、付き合いが長い訳ではない杏でもとっくに理解していることだが……それでも、彼が「特別だから」と、新しく入ってきた後輩に全てを任せるなど、あまりにも情けない話だろう。


 相手があまりにも高みにいるから、そこに近付くことを諦める。そんな心持ちならば、今すぐこの仕事を辞めるべきだ。


 向上心無くして生き残れる程、この世界は甘くないのだから。


 だから、「魔法ならウタに学べ」という優護のアドバイスに従い、魔法を教わるため彼女は今日、事前に連絡を入れ、この場にやって来ていた。


 ただ、正直杏は、ウタが苦手だった。


 ――隔絶された、目を見張る程の美貌。


 あまりにも凄まじい美とは、人を圧倒するのだということを、杏はウタと出会って初めて知った。


 さらに、その視線だ。


 表面上は、とても愛想良く見える。可愛らしい、それこそお人形のような様相だった。


 敵意がある訳でもないのだろう。特にこちらに対して、含むものは何もないのだ。


 しかし、視線だけはずっとこちらを注視しており、値踏みされるような、魂の奥底まで見抜かれるかのような。


 まるで、強大な怪物(・・・・・)に吟味でもされているかのような、そんな緊張感があったのだ。


 壮絶なまでに美しいその見た目と、そこから放たれる圧力。


 杏は知らぬことだが、それこそが正に、『ウータルト=ウィゼーリア=アルヴァスト』という魔王が持つ、カリスマの一端であった。


「……ここで、まごまごしてても意味はねぇな」


 覚悟を決め、杏は事前の調べで知っていた優護の部屋のチャイムを押した。


 少ししして、ギィ、と扉が開き――。


 ――出て来たのは、狐耳とモフモフの狐尻尾を持った、幼女だった。


「…………」


「…………」


 思わず固まる杏に対して、無言で対峙する、リン。


 狐耳。


 狐尻尾。


 予想外過ぎて、言葉が出て来ない。


「……お兄ちゃんの言ってた、お客さん?」


「え? あ、あぁ。ゆ、優護はいるのか?」


「……ん」


 そう、中を見るよう促すリン。


「バカおまっ、これもう履けなくなったじゃねぇか!?」


「じゃ、じゃって、ごむがびよーんって、なんか面白かったんじゃもん……」


「よしんば面白かったのはいいとしても、布が千切れるまでやる奴があるか!? しかも、人のパンツだぞ!?」


「ち、ちと力の加減を間違えたんじゃ。悪かった、代わりに儂のぱんつをびよーんってやっていいから」


「誰がやるか、誰が! 俺がそれやったらド変態だろうが!」


「う、うむ、まあその……お主がそういう趣味でも、儂は受け入れるから、の」


「何お前が引いてんだ!?」


 洗濯物を干しながら、なんか夫婦漫才を繰り広げる二人がいた。


 緊張していた杏は、一瞬で脱力した。

 本日もう一本投稿!

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― 新着の感想 ―
なんというほのぼの家族w
夫婦漫才、ありがとうございます o(*⌒―⌒*)o
良い点 びょーん 一言 びーっむ びの日だったか
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