エピローグ
今章終了!
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その後、いつものビルまで連れられ、結構長い事情聴取をされ、ようやく帰ることが出来た。
思った以上に長引いたことで晩飯を買って帰るのが遅れてしまい、ウタが家で死んでおり、「し……死んでる!」「死んどらんわ戯け! 遅いぞー!」と怒られた。ごめんて。
なお、キョウは俺が帰った後も、事が事なので残って報告書の作成をしていたようだ。俺の分のもやってくれていたらしい。
俺自身には何も言われなかったが、バイトだからそういうのがない、というより、多分報告書とかやらせたら逃げられると考えているのだろう。正解だ。
女子高生に書類仕事やらせる社会人。相当アレな気もするが、実際面倒なので、やってくれるなら任せてしまいたいところである。
うむ、立派な社会不適合者だな、俺は。
まあ、勇者なんてそんなもんだろう。我ながら自覚しているが、どこかしらおかしくなければ、あんな戦場を生き残れなかっただろうしな。
そんなこんなで一日が終わり、翌日。
「――全く、お主という男は。儂をこんなに軽く扱う者なぞ、お主の他におらんぞ!」
ウタと共に、近所のスーパーで買い物を行う。
菓子類を除いて、我が家は基本的に食材の買い置きをしない。
俺は一人暮らしの期間が長かったので、そうやって買い置きしておくと、結局使わないで捨てることになり、無駄になることが多かったからだ。一人暮らしの分量って、意外と面倒なんだよな。
勿論、インスタントのラーメンとかは置いてあるし、あと非常食は五百食分くらいアイテムボックスの中に入っているが、そのラーメンとかに入れる肉や野菜はほとんど置いてないのだ。
で、それだと昨日みたいな日に困るということで、ある程度食材を買っておこうと、こうして二人で出て来た訳だ。
「悪かったって、昨日は。ダンジョン攻略することになって、ちょっと時間食ったんだ。まあまあデカい敵も出て来たしな」
「戯け。儂以外の相手、お主ならば誰でも瞬殺出来よう。大方、良い機会じゃからと、あのキョウとやらの面倒を見ておったのじゃろう?」
……バレている。
「悪かったよ。ほら、お前の好きなドーナツ買ってやるから」
「お主、菓子さえあればいつでも儂の機嫌が取れると思うておらんか?」
ジト目でこちらを見上げる元魔王様である。
「そうか。じゃあ、いらないか、これは?」
「……いらんとは言うておらんじゃろう! 罰として、こっちのちょっと高そうな奴も買ってもらう!」
「はいはい。買ってもいいけど食い過ぎるなよ」
その程度で機嫌を直してくれるお前のチョロさが俺は好きだぜ。
「ほら、まず野菜買いに行くぞ。――つっても、食材を買い置きしておいたところで、果たして俺がいない時お前が料理出来るのかと言ったら、微妙なところな気がするが」
「何を言う。儂も、包丁の扱いにも慣れてきたし、火の扱いも問題ないぞ」
「けど分量間違えるじゃん、お前」
面倒くさがって目分量で入れやがるので、大分塩辛い野菜炒めとかが出来上がるのだ。
いやまあ、俺も目分量でやるし、昔同じような失敗をしたことがあるので気持ちはわかるのだが、それを食わせられる身になるとな。
「……お、同じ失敗はせぬ! ここからじゃ、ここから」
「意気込むのはいいが、とりあえずお前、何玉レタス買うつもりだ。そんな買ったらしばらくレタスの千切りばっか食うことになるぞ」
「むっ……まあ儂、れたすは好き故、それでも構わぬが。れたすにどれっしんぐを掛けて食べるの、美味いしの」
「そりゃ俺も好きだが、三日で飽きるぞ。それに俺、どちらかと言うとキャベツの方が好きだし」
「ほう、ではきゃべつの千切りにするか?」
「別に千切り固定じゃなくていいだろ。俺、塩キャベツ好きなんだよ、塩キャベツ。サラダってか、酒のつまみみたいな料理ではあるが」
「あー、いいのぉ、塩きゃべつ。では、きゅうりの……浅漬けじゃったか? あれも好きなのではないか?」
「お、よくわかったな」
「よく作るじゃろう、お主。きゃべつもれたすも、シャキシャキした食感に味が染みて美味いでの、気持ちはわかるぞ。……うむ、儂も食いたくなってきた。きゃべつときゅうりも追加じゃ! ユウゴ、今日の飯はそれにしよう。それに合う白米とお味噌汁で!」
「お前割と日本食好きだよな」
「うむ、しんぷるな味わいじゃが、それが美味い。とーふなるあの白いのとかも、あんなしんぷるなのに、ただ薬味を乗せてしょーゆを掛けるだけで美味いじゃろう? 贅を凝らした飯も良いがの、そういうのはだんだん、くどくなる。それよりは、食材そのものの味を引き出しておるようなニホン食の方が、儂の好みではあるな」
「日本人としちゃあ嬉しいお言葉だな。魔王様の口に合ったようで何よりだ」
「王として数多を食うてきた儂の言葉じゃ、ニホン人はありがたがるように! ……ま、お主が作ってくれておるからかもしれんがの」
「? 何だって?」
「何でもない。それよりユウゴ、このらいんなっぷならば、めいんは刺身ではないか? 刺身」
「いい提案だ。……よし、せっかくだから、稲荷寿司も買っておこう。んで、帰り際にリンの神社に寄って、リンも呼ぶか」
「良いの! リン、それがあると大喜びするからの」
「尻尾ぶんぶん振ってて可愛いよな」
そんなことを話しながら、三十分くらいで買い物を終えた俺達は、帰り途中にある、リンの家である神社に向かう。
ちなみにこの神社、やはり本来ここには存在していないらしい。
俺とウタには普通にバッチリ見えているが、どうやら半ばダンジョン化している空間であるらしく、恐らく一般人にはここがただの森の一部に見えていることだろう。
リンは隠密の魔法に長けているが、そもそも住処からして人にはほとんど見えなくなっている訳だ。
ここに神社なんてあったっけ、と前に思ったが、実際に向こうの世界に渡る前の俺には見えてなかったのだろう。
「おーい、リン、いるかー? 今日ウチ来ないかー?」
「共に飯を食おうぞー! リンの耳のような、三角のいなりがあるからのー!」
すると、境内からピョコンとモフモフの耳が覗き、次に可愛らしい顔が覗く。
「……行く!」
そして、とてとてとこちらにやって来て、乏しい表情ながら嬉しそうな顔で俺達を見上げる。
ぶんぶんと元気良く振られている尻尾。
「かか、では帰ろうか、我ら三人の家にの!」
「……凛の、お家?」
「おっと、リンはこちらの方がちゃんとした家かの? まあユウゴの家は、ボロで狭い故な!」
「居候の分際で、何か言ってる奴がいるな。俺一人で住むには十分なんだよ、アレで」
「虚しい奴じゃ。儂とリンで、悲しきユウゴの家を華やかにしてやらねばの。のう、リン!」
「……ん!」
我が家に向かって歩き出したウタとリンは、仲良く手を繋ぎ――そして、リンはこちらにも手を伸ばしてくる。
俺は、少しだけ気恥ずかしくなりながらも、彼女の手を握り返すと、リンはニコリと笑みを浮かべた。
「そうそう、今日はいなりの他に、刺身もあるぞ! 生魚を食うとは、ニホン人はどうなっておるのかと最初は思うたがの、あのしょーゆとかいう調味料で食うたら、これがほんに美味いこと美味いこと」
「……お魚、美味しい。でも、お稲荷さんの方が、強い」
「かか、そうか。強いか。では儂も、いなりが作れるように練習しておくか! 最強のいなりを作れるようにの!」
「……さいきょーのお稲荷さん。それはきっと、強い。さいきょー」
「うむ、最強じゃ! そして、儂の料理を馬鹿にしよるユウゴを見返してやらねば!」
「別にバカにはしてないだろ? ちゃんとお前が作った奴も全部食べるし」
「む……そうじゃったな。苦笑しながらも毎回しかと完食しておるな。では、ユウゴが苦笑しない料理を作れるようになるぞ!」
「おう、頼むわ。切実に」
「……お姉ちゃんの料理も、美味しい、よ? この前の、お味噌汁、美味しかった」
「! 聞いたか、ユウゴ。まっこと、ユウゴと違って、この子は愛いのぉ!」
「リンには今度、ウタが失敗した塩辛い野菜炒めを食わせてやろう」
「し、失敗せぬわ! ……多分」
「そこは断言してほしかったんだが?」
温かな日差し。
何の変哲もない、静かな住宅街に小さく響く、三人分の笑い声。
ただゆっくりと、穏やかに、時が流れて行く――。




