三人で一緒に
「――おまっ、どんだけ青甲羅投げてくんだよ!?」
「儂、青甲羅生産工場に就職したから。新鮮な甲羅を毎日お届けじゃ!」
「いやお前、致命的に遅れたからって、それは流石にやることが情けなくないか!?」
「ええい、うるさいうるさい! ――うにゃあっ! 負けた! ぐぅ、もう一回勝負じゃ、もう一回!」
「いいけど、さっきからショトカ狙い過ぎなんだよ。そもそも操作自体がまだ覚束ないのに、そんなことまでしてたら、当然NPCにも抜かされるわ。もうちょっと無難にやりゃあ、勝負になるだろうに」
「無難~? 全く、わかっておらんな! 良いか、ユウゴ。生きるとは、挑戦すること! 挑戦を忘れ、前に進むことをやめた時、ヒトとは死ぬのじゃ。故に儂は、この生ある限り挑戦することをやめたりはせん!」
「で、青甲羅生産工場に就職すると」
「うん」
うん、じゃねーんだわ。何頷いてんだ。
なんて、そんな感じでウタとギャアギャア騒いでいると、ピンポンと部屋のチャイムが鳴る。
こちらが出るよりも先に、ゆっくりと鍵が回され、扉からぴょこっと顔を出したのは――リン。
「……こんにち、は」
「お、いらっしゃい、リン」
「よう来たの、リン! 今日も一緒に遊ぶぞ!」
リンはこうして、よく遊びに来てくれるようになった。
この子は良い子なので、迷惑じゃないかと遠慮するような様子を見せる時もあるのだが、こっちがそんなの気にせず歓迎し続けていたら、大分彼女の方も気にせず遊びに来てくれるようになった。
昼過ぎくらいに遊びに来て、夕方になったら一緒に飯を食ってそのまま泊まっていき、翌日の朝に帰るといった感じだ。
今ではしっかり、彼女用の布団とパジャマも用意してある。
で、なんかパジャマに意外と喜んでいて、うちに来るとすぐにそれに着替える。
リンに合いそうな、モコモコの可愛い奴を買ってみたのだが、どうやらそれが気に入ってくれたようだ。
パジャマは別に、部屋着って訳じゃないんだが……まあ似たようなもんだし別にいいか。可愛いし。
「よし、レースでの勝負はここまでな、ウタ」
「む、しょうがあるまい。ユウゴと決着を付けるのは、またの機会としようかの」
良かった、コイツは下手くそなくせに負けず嫌いだからな。
このままだと、無限レース編が開始されるところだった。決着を付けるとか言ってるが、それならもう何度も俺が勝って付いてるから。
「それじゃあ、三人で遊べることするか。何する?」
「とらんぷとかどうじゃ、とらんぷ。確か、こちらの世界のかーどじゃろう?」
「お、いいぞ。リンはトランプ、知ってるか?」
「……知ってる。西洋かるた」
西洋かるた?
昔はそう呼ばれてたのだろうか。
「……やってみたい」
「オーケー。まずは……スタンダードに、ババ抜きからやってみるか」
二人とも、遊ぶのは初めてなようなので、まずは簡単なババ抜きから。
ルールを説明した後、カードをシャッフルして配る。
何年ぶりだろうな、ババ抜きなんてやるのは。
俺は、大分懐かしい気分でやっていたのだが、二人の方は初めての勝負を楽しんでおり、かなり白熱している。
……本当に、こういう時のウタは、向こうの世界での姿とは大違いだ。
冷たい微笑を浮かべ、その身から溢れ出る程の覇気を纏い、王として君臨していた姿。
誰も彼もがウタの存在を無視出来ず、まさにあの世界は、彼女を中心に回っていたと言ってもいい。
だが……本来は、こっちの方が素なのだろう。
この、割とポンコツで、リンにも負けぬ純真さを見せている姿が。
ふとそんなことを思っていると、残り枚数も三枚というところになり、俺がリンからカードを引く番になる。
「さ、どれを選ぼうかな」
「…………!」
まず、彼女の左のカードに手を伸ばす。
ピコン、と耳と尻尾が立ち、表情が心なしか嬉しそうになる。
「やっぱこっちにしようかな」
「…………」
真ん中のカードに手を伸ばす。
しおしおと耳と尻尾が垂れ、表情が心なしか悲しそうになる。
「いや、やっぱこっちかね」
「…………」
右のカードに手を伸ばす。
変わらず悲しそうなままである。
「フェイントを掛けてこっちか?」
「…………!」
もう一度左のカードに手を伸ばす。
垂れた耳と尻尾が元気になり、ちょっとだけリンがそわそわした様子になる。
俺は、笑いを噛み殺しながら、そのまま左のカードを手に取った。
「あー、ジョーカーか。しまったなぁ、リンは勝負が強いわ」
「……んふふ」
嬉しそうに笑みを浮かべながら、小さく胸を張るリン。得意げに尻尾が揺れている。
可愛い。
「くかか、やるのう、リン! それじゃあ次は儂じゃな! ……よし、見えた! これじゃあ!」
ウタは俺からジョーカーを引いた。
「ぬがあ!? 何故じゃあ!?」
「お前は期待を裏切らない奴だな?」
その後、一上がりはリン。
次が俺で、ビリがウタとなった。
元魔王様が「もう一回じゃ!」とうるさいので、今度は順番を逆に変えて第二戦を開始。
だんだんと残り枚数も少なくなっていき、再び残り三枚となったところで、俺がウタからカードを引く番になったのだが……その時、ウタが何か思い付いたような顔になる。
「何だ、その顔は」
「別に何もないぞ? ほれ、さっさと引かんか」
俺は、まず左のカードに手を伸ばす。
大袈裟なくらいの泣き真似をするウタ。
真ん中のカードに手を伸ばす。
今度は一転して、パァ、と華やぐような笑顔になる。
右のカードに手を伸ばす。
再びシクシクといった表情になる。
一瞬、こちらを混乱させるためにデタラメな反応してるんじゃないかと警戒する俺だったが、いや待てそう言えばウタは割と考えなしな奴だったなと思い直し、速攻で右のカードに手を伸ばし――取れない。
ギュッと力を込められ、抵抗される。
「……おい、何抵抗してやがる」
「ユウゴ、今儂の反応を見ておったじゃろう? にもかかわらず、それを取るのか?」
「うん」
「うん、でないわ! 何頷いとるんじゃ!? お主、慈悲は無いのか、慈悲は! リンには見せておったじゃろう!?」
「だってお前はリンじゃないし」
「あー! さいてーじゃ、この男! 勇者がそうやって、差別してよいのか!? いいや、よくないと思います! 勇者ならば、誰に対しても分け隔てなく手を指し伸ばすべきじゃろう!」
「そうだな、世間一般が言う勇者的存在ならそうするかもしれない。が、お前は魔王だからその中でも唯一の対象外だ」
「……そう言えばそうじゃった!」
あと、俺別に、そんな立派な人間じゃないんで。お前と戦ってたら、自然とそんな風に呼ばれるようになっただけで。
「ぐ、ぐぬぬ……リンよ、見たか、この男の度量の小ささ! 日頃の儂の苦労がわかるじゃろう?」
「今のやり取りでわかるのは俺の苦労だと思うが?」
「……ん。二人とも、仲良くて、羨ましい」
ニコニコと、楽しそうにそう言うリン。
俺達は、顔を見合わせる。
「……ま、儂には清く広い心がある故にな! この男の横暴にも、耐えられる訳じゃ」
「今のはツッコミ待ちか? 俺の海のように広い心のおかげで、お前はこの家で過ごすことが出来てるんだが?」
「ありがとー」
「許す」
そんな俺達のやり取りに、リンは楽しそうにくすくすと笑った。
――そんなこんなで遊んでいる内に、時間はあっという間に過ぎてしまい、夕方が近付いてくる。
まだ外は明るいが、そろそろ晩飯の準備を始めないとならないだろう。
「それじゃあ、俺晩飯の買い物行ってくるから、二人はそのまま遊んでてくれ。今日は……よし、リンがいるし、稲荷寿司にしようか」
「……! おいなりさん!」
わかりやすくテンションが上がり、両手で万歳するリン。可愛い。
そうか、やっぱりお狐様はお稲荷さん好きなのか。
「ほう? リンの好物か?」
「リンというか、まあお狐様の好物だな。酢で白米に味付けして、油揚げで包んだ料理だ」
「……とっても、とっても、美味しい!」
「ほほう、それは楽しみじゃの。よしユウゴ、こちらは任せよ! お主が買い物しておる間、たとえ憎き連合軍が攻めてきても返り討ちにし、この家とリンはしかと守り切ってみせよう!」
「いや、仮にそうなったら、俺買い物やめて速攻で家に帰ってくるけどな? あと俺、どちらかと言うと連合軍側だし」
対魔王連合軍な。魔王軍と対峙してた俺達の軍の総称だ。
「そうじゃった! おのれ憎き連合軍! ここで会うたが百年目、お主らは必ず討ち滅ぼしてくれるぞ!」
「ほう、つまりお前の今日の晩飯はなしで良いと」
「勇者は連合軍というより、もう戦力的に独立している存在だと思うので、別かうんととして扱いたいと魔王は思います!」
一瞬で手のひらを返すウタに俺は笑い、今晩の献立を考えながら家を出たのだった。




