元魔王との日々《4》
感想ありがとう!!
読んでくれている方もありがとう!!
我が家にて。
「……ユウゴ」
「何だ」
「儂は、この世界の面白きものに、なかなか感動しておる。人の発明は、無限大だとな」
「それつい最近も聞いたな?」
天丼か?
「うるさいうるさい! とにかく、儂は今、色々楽しんでおるのじゃ! この世界は、儂の知らんものがいっぱいあるでな! しかし、ユウゴ!」
「おう」
「お主は鬼畜か!? ほんに手加減をしない奴じゃの!?」
現在遊んでいるのは、配管工のおっさん達が繰り広げる、有名なパーティ用ゲームだ。さっき買った。
細かいコントローラーの操作とかはそこまでいらないし、俺も初めてだから、ウタは意気揚々と「よし、ユウゴをボコボコにしてやるぞ!」と息巻いていたのだが……結果は、推して知るべし、だ。
「まあ、聞け、ウタ」
「何じゃ!」
「俺はな……お前が悔しがる顔を見るのが、好きなんだ!」
「それ前回も聞いたし、割と最悪なこと言っておるからな!?」
いやだって、お前本気で悔しがってくれるんだもん。
「つか、それ以上に単純な話だが……お前、素直過ぎ。初心者云々以前に、見てれば何考えてんのかすぐわかるんだが」
「うぬっ!?」
コイツは、頭の回転は速い。
俺より賢いのは間違いなく、初めてやるゲームに対する理解度も深いのがわかる。
が、如何せん、考えてることが顔にも動きにも簡単に出るのだ。
あんまりわかりやすいので、最初は俺を騙すためにわざとやってんのかと思っていたのだが……。
「お前、王やってたはずだよな? 魔王軍の戦略とか、お前が立ててたんじゃないのか?」
「……儂は王じゃ! 王とは、どっかり座って、部下に任せるものじゃろう!」
「つまり、作戦とか細かいところは全部部下任せだったと?」
「ぜ、全部ではないぞ? 儂とて色々やっておった! 兵站線の構築は大体儂がやっておったし、それに合わせた戦略も考えておったぞ! ……戦略の方はほぼ却下されたが。ま、まあ、お主と戦う時は、全部儂だけの考えで動いておったので、そこは安心して良いからの!」
……ウタと一対一でやり合ったことは数回あるが、そう言えばコイツ、基本戦術がいっつも正々堂々で、小細工など正面から全て力で捻じ伏せるような戦い方をしていた。
それはもう、真っ向勝負一択だ。それで実際に、全てを粉砕してきたのである。
魔王として、その力と威厳を周囲に見せ付けるためのパフォーマンスの一環なのだろうと勝手に俺達は思っていたのだが……もしかしてあれ、全部ただの考えなしに動いてただけってことか?
……つっても、小手先の技なんて必要ない、溢れんばかりの魔力で強化された圧倒的な肉体性能がコイツにはあったので、その戦い方でも正解っちゃ正解なんだろうけどさ。
相手が何をしようが、どんな企みを持とうが、それよりも素早く動けば、意味がない。
仮に罠などあっても、そんなものは力で食い破り、敵が次の手を考えるより先に突っ込み、斬る。
それを出来るのがウータルトという魔王であり、そして世界の誰も彼女に勝つことが出来なかったのだ。
人間では、唯一俺が張り合えていると見られていたが、別に張り合えていない。戦闘のほぼ全てで負け続け、逃げ帰っていたし、最後の最後だって相打ち狙いでようやくだ。
俺達の立てた作戦という作戦は、そんな真っ向勝負しかしないウタに全て打ち砕かれてきた訳だ。
そのせいで絡め手が下手だったのかもしれないが、ウタの武力はそんなものを一切必要としていない高みにあったとも言えるだろう。
で、俺達は、彼女個人が持つ圧倒的過ぎる武力に加えて、魔王軍の緻密で戦略的な動きの全てがウタの采配によるものだと思っていたので、故に『魔王恐るべし』という畏怖があったのだが……驚愕の新事実である。
なるほどな……ウタの人を見る目の確かさは俺も知っており、魔王軍の幹部は凄まじい有能揃いだったのだが、コイツが部下達に指示を出していた訳ではなく、その有能な部下達が全部自分らで考えて動いていたのか。
……もしかすると、『魔王恐るべし』という印象も、その部下連中が意図的に作り出したのかもしれない。
自分達のトップが、割と考えなしである、という事実を隠すために。
それでも、裏切りなど一切なく、魔王軍が強固に結束していたのは……それだけ、ウタのカリスマというものが、凄まじかったのだろう。
コイツを守るためなら、コイツの目指す先のためなら。
命を掛けようという思いが、そこにはあったのだ。
……とにかく言えることは、ウタは割と、野生の勘とでも言うべき本能で動くタイプだった、ということか。
いや、俺が数回戦った時は、流石に戦闘の駆け引きとかもしていたが、素自体はこっち、と。
「……そうか」
「な、何じゃその、微妙に慈愛の感じられる生温かい瞳は」
「いや、お前って本当に、戦闘以外ポンコツだったんだなって思って」
「ぽ、ぽんこつ!? 言うに事欠いて、ぽんこつじゃと!? 魔王軍数百万を率いた、この儂に!」
「神輿としてだろ?」
「あーっ、言うたな!? そ、それだけは言うてはならんのに!! もう我慢ならん、悪逆非道を為す三千世界の敵、勇者!! お主のその悪の手、魔王の名の下に、今ここで叩き斬ってくれるわ!!」
なかなか聞かない悪口である。
「おう、意気込むのは結構だが、お前ただでさえわかりやすいんだから、感情的になるともうどうしようもないぞ」
「う、うぐぅ……よし、では今から儂は、あさしんじゃ! 冷酷で、一切の感情を動かさない、闇夜に紛れる暗殺者……」
「暗殺者(笑)」
「何を笑っておる!?」
「暗殺者さん、一瞬で感情動いてますよ」
ウタは、ちょっと涙目の上目遣いでこっちを睨みながら、「ぐぬぬ」と悔しそうに唸る。
元魔王としての威厳とか、欠片も存在しない姿である。
「この……揚げ足取り勇者!」
「はいはい、悪かったって。ほら、このドーナツやるから」
「……その程度で懐柔されると思うたら、大間違いじゃ! 儂は、そんな甘い女ではないぞ!」
「じゃあ、ほら、こっちのもやる」
「…………」
「こっちのもどうだ?」
「……しっかたがないのぉ! 儂は度量の大きい女故! 小っちゃなお主の言動も、広い心で許してやろうではないか!」
涙目から一転してニコニコ顔になり、ドーナツをあむあむと食べ始めるウタ。
お前は本当に、この世界に来て良かったよ。