一日目《2》
収穫した野菜を中心にして、ウタとシロちゃん、そしてキョウが協力して昼食を作り始める。
ウチの二人がもう普通に料理出来ることはよく知っていたが、シロちゃんも人に任せることはせず自分で飯を作る人だったらしく、まるで祖母のような手際の良さで調理し、そして優しくキョウにもアドバイスを送っており、ウタが「……やるではないか!」と唸っていた。
いや、料理をし始めてからまだ日の浅いお前と、それこそ百年単位で料理をしてきたのだろうシロちゃんとじゃあ、流石に勝負にならないって。
……それを考えれば、マジでシロちゃんの腕前は、一流の料理人と比べても大差ないと言えるのかもしれない。
ちなみに綾さんは料理出来ないらしい。横でちょっと所在なさげに、リンと華月と緋月と遊んでいる。結構面倒見が良い人であるようだ。
「月並みな言葉ですが、料理は愛情です。つまり、相手に食べてもらおうとする工夫です。相手の好物を把握するのは勿論のこと、嫌いな食べ物があるのなら、どうやってそれを美味しく食べてもらえるのか、考える。例えば、野菜嫌いの子がいるのなら、その子にどうやって食べてもらうのかを考える」
「ほうほう、野菜嫌いの子、のう?」
「……別に、凛はそこまで嫌いじゃないもん。言われたら、ちゃんと食べるもん」
「かか、まあそうじゃな」
「……それに、シロお姉ちゃんのお野菜、美味しそうだったから、きっと美味しい!」
「ふふ、何より嬉しいお言葉です。――そうやって、相手のことを思う料理を作ること。それも、毎日。愛情が無ければ出来ることではありません。だから、細かい味付けはウタさんにお願いしたいです。皆さんのことをよく知っているでしょうから」
「ふむ……よし、まずユウゴは激辛好きじゃから、彼奴の分には七味をたっぷり掛けてやると喜ぶぞ!」
「そうなのですか? ではそうしましょう」
「おいこらちょっと待て」
そこで慌てて、キッチンの方に向かう俺である。
「シロちゃん、俺別に、普通の舌なので。辛いものも好きじゃあありますが、適量をお願いします」
「そうなのですか? 意外とみんな、偏食だったりするので、度を超えていなければ別にいいと思うのです。ツクモなど、新しいもの好きで派手好きなクセに食べ物だけはかなり保守的で、ずっと同じものばかり食べるのです。ここ数年は、はんばーぐが美味しいと言って、はんばーぐばかり食べてます。はんばーぐなんて、いつ食べても美味しいでしょうに」
唐突に明かされる、大妖怪の全然大妖怪じゃない一面だった。
そうか、ツクモ、ハンバーグ好きなのか……俺も好きだけどさ。
「ほぉ、では、お主の好物は?」
「私ですか? 私はー……やっぱり、お稲荷さんでしょうか。美味しいものはいっぱいありますが、何だかんだ、そこに帰ってきてしまう感じですね。ツクモも、お稲荷さんだけはずっと好きだったりしますから」
「……お稲荷さん、さいきょー!」
「ふふ、えぇ。お稲荷さんは最強です」
「ふむふむ。アヤは?」
「え、わ、私ですか? えっと、私はやはり、日本食が好きですので、和を感じさせる味付けが――」
「綾は、結構子供っぽいものが好きです。お子様らんちみたいに色合いの良いものを用意すると、ニコニコするのです。特にぷりんが好物ですね」
「シロ様!?」
「……プリン、美味しいもんね! 凛も好き!」
「……そ、そうだね、凛ちゃん」
「へぇ、結構可愛いものが好きなんですね、綾さん」
ニヤニヤと煽るキョウに、綾さんは少し頬を赤くしながら、視線を逸らす。
「う、うるさいな。いいでしょうが、私がプリン好きでも。そういう杏ちゃんはどうなんだい」
「私は別に、何でも――」
「キョウは実際何でも食べますけど、朝にパンケーキ出すと、眠そうな顔がちょっと嬉しそうになるんで、多分それが好物っすね」
「は? い、いや、そんなことは――」
「あぁ、なるのぉ」
「……なるねぇ!」
「…………」
「私のプリンとどっこいどっこいじゃないか!」
無駄に嬉しそうな綾さんだった。
「……そういう優護は――あー、優護は寿司だったな、好物。甘いモンはあんま食わねぇし」
「正解。俺寿司超好きだ。ウタも寿司と……からあげか?」
「そうじゃな! かか、では、次お主らが儂らの家に遊びに来た際には、それら全てを用意するとしようかの! ツクモの分もな! その頃には、華月用の魔力食材も用意出来るようになっておくからの!」
喜んでふわふわと宙を舞い、お礼を言うようにウタの頭に乗る華月。可愛い。
「ハンバーグとお稲荷さんとプリンとパンケーキと寿司とからあげを全部一緒に?」
「稲荷と寿司はええじゃろ。しなじーあるし。はんばーぐとからあげは、どちらもを用意して、少しずつつまむ感じで。ぷりんとぱんけーきは……よし、ぱんけーきぷりんをでざーとで出そう!」
「お、なんか一気にそれっぽくなったな」
「にゃあ!」
「はいはい、ちゅ〇るもな、ちゅ〇る」
「ふふ、その甘味は今日作っても良いのではないですか? 綾がそわそわしてますし、清水杏もピクってしてましたし」
「そうじゃな、でざーととして、今日作っても良いか! 材料はあるかの?」
「ぷりんはお店のですがありますし、ぱんけーきの材料もあります。作っちゃいましょう」
「……パンケーキプリン! きっとそれも、さいきょー!」
「おっと、リン。あくまででざーとじゃからの? 先にしかと、お昼は食うんじゃぞ?」
「……むぅ、わかってるもん」
少し唇を尖らせる凛に、俺達は笑った。
ちなみに、その後食べた昼食は、メチャクチャ美味かった。