滑稽な人間達
ありがとうありがとう! よっしゃあ、気張って書いてくぞー!
緋月は、お気に入りの窓際の位置で丸くなりながら、見る。
我が家の住人達を。
「ぐあああ!? おい優護! お前初心者イジメて楽しいか!?」
「超楽しい」
「くっ、このっ……! 鬼め……!」
「……鬼はお姉ちゃん、だよ?」
「リン、今じゃから言うが、実際のところ儂、オニ族とは少し違うからの? 確かに角はあるが、『ヴァイゼル・デーモン』という魔族じゃし。ニホンならばオニでも良いのかもしれんが」
「いや、リンが言いたいのはきっと、性格が鬼ってことだろ。慈悲深い俺と違って」
「なるほど。よしくたばれ、ユウゴ」
「甘い甘い! お前が砂糖入れ過ぎたコーヒーより甘いなぁ! その程度、俺が防げないと思ったか!」
「け、結構前の話じゃろうが、それ!」
「ウタ、コイツ滅ぼそう。一緒に。悪は許しておけねぇ」
「うむ、共同戦線じゃ、キョウ! 絶対なる悪、ユウゴ! 今日こそお主を、滅ぼさん!」
「フハハハ、面白いことを言うな! 過去、そう言って俺に挑戦した者は数知れず、だが全てが屍として横たわるのみ! お前達も、俺が築き上げた屍の道の一部としてくれよう……」
「数知れずと言うても、ニホンでは儂らだけじゃろそれ。あとお主、レンカには普通に負けまくっておったし」
「いやまあ、その通りなんだけどさ。あの人マジでゲーム好きだから、大体何でもやってて、何でも強いし」
「漣華さんって、そんなゲーム好きなのか?」
「おう、大好きだな。有名どころは新作含めてマジで全部触ってて、子供向けのからFPS、果てはホラゲーまで幅広くやってるぞ。だから、一緒にやってあげると喜ぶな。つってもあの人、基本的にバチバチに殴り合うゲームが好物だから、にへら、っていうあの笑い顔で、俺以上に容赦無く潰しに来るんだが」
「うむ、それは間違いないの。あんな、だうん系? の見た目と性格をしておって、げーむの時の容赦の無さは凄いぞ。ユウゴは口でこんなこと言いながらも割と躊躇するというか、『これ以上はちょっと可哀想か』と思うたら手加減し始めるが、レンカは絶対にせん。逆に容赦無く攻撃されても喜ぶ。本気でやって良いと判断するからじゃろうな」
「……べ、別に手加減してないが?」
「はいはい。お主はいつも本気じゃものな」
「そ、そうなのか。結構意外だな。漣華さん、すごい大人の女性ってイメージなんだが」
「大人の女性だぞ。一人でいる期間が長かったから、暇潰しに出来るゲームが趣味になっただけで」
「……優護は、そういう大人の女性が、その……好みなのか?」
「? まあ、好きか好きじゃないかで言えば、好きだが」
「つまり、儂みたいな女じゃな!」
「うーん……そう、だな……大人か大人じゃないかで言えば大人か」
「真面目に悩むのやめてくれんか?」
「……やっぱ、そうなのか」
「何だ、その意味深な視線は」
「いや、別に。何でもねぇ」
「かか、キョウは儂を見習うと良いぞ! 色々と儂が教えてやるからの」
「……あぁ。参考にさせてもらうわ。マジで」
がやがやと、飽きもせず喋り続ける我が家の住人達。
「…………」
一歩引いたところから、何となく様子を窺っていた緋月は――その瞬間、ビュンと跳び上がると、優護の顔にダイブした。
「うばぁ!? な、何だ!?」
「おっ、でかした、緋月! ようし、今の内じゃ!」
「良くやった、緋月! ハン、油断したな、優護! あたしらはただの囮、本命は緋月だったのさ!」
いや別に二人の援護をしたつもりは無いのだが。
と、思った緋月であったが、別にわざわざ否定する理由も無いので、特に何も鳴かない。
「ぐ、ぐぬぬ……おい、何だよ、緋月。お前もゲームやりたくなったのか?」
抱え上げられ、そう言われるが、プイ、と無視してその手の中から抜け出すと、再び窓際で丸くなり始める。
別にゲームがしたくなった訳じゃない。あんまり興味も無いし。
ただ、何となく、跳び掛かってやりたい気分になっただけである。
「かか、ユウゴが勝ち誇るのが気に食わなかったようじゃな! 正義の魔王陣営は勝つ、そういうことよ!」
「それ、あたしも魔王陣営に入ってねぇか? 別にいいんだけどさ」
「いいや、勝つのは正義の勇者さ! この程度の逆境、俺は何度も乗り越え――」
そう、優護が何か御託を並べ始めたところで、ふよふよと楽しそうに近くを漂っている華月へ、緋月は視線を向ける。
すると華月は、その意味するところを正確に理解し、やはり楽しそうに突撃を開始。
そのまま、喋っている途中の優護の顔にぺとっと引っ付いた。
「――へぶっ!? 緋月、じゃないこの感触は華月か。な、何だ。華月も一緒に遊びたいのか?」
顔から剝がされた華月は、「ゲームは、いー」と言いたげにニコニコ笑うと、そのままふよんと漂って、ぽふりと優護の頭の上に乗った。
「お、おう、そうか。じゃあそのまま見ててくれ、俺が華麗に勝つ様子を――って、お前ら、今の間に動くのは流石にずるくないか!?」
「勝負の世界は非情なんで」
「勝負の世界は非情なんじゃ。一瞬の隙が命取り! 油断したお主が悪いのぉ!」
「……んふふ。お兄ちゃん、負けそう」
「……あぁ、そうだ。その通りだ。だから助けてくれ、リン!」
「……任せて! お兄ちゃんの危機、凛が助ける!」
「なっ、それは無しじゃろう、ユウゴ!」
「おい、それはずりぃぞ!? 禁じ手じゃねぇか!?」
「フハハハ! バカめ、我が家の勝負は如何にリンを味方に付けるかどうかなんだわ! 二人はそれを怠った! これが、勇者の深謀遠慮というものさ……」
「まあお主の頭脳は並じゃが」
「事実で殴ってくんのやめてくんない?」
「……優護。あたしは別に、バカな奴でも嫌いじゃねぇからな」
「追い打ち掛けてくんのやめてくんない?」
再びわいわいと、一緒の遊びに興じる主人とその伴侶達。
うるさいなぁ、と思う緋月であったが、彼女がその場から離れることは無かった。
ただずっと、我が家の住人達と――家族と共にいた。