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海の調査《2》


 船がゆっくりと減速したかと思いきや、停止した。


 何かあるのかと思っていたところに、裏で事務作業をやっていたらしいキョウとレイトがこちらに来たのだが……。


「……? どうした? お前ら」


 二人の空気が、少しおかしかった。


 レイトはいつものような感情の見えない笑みを浮かべつつ、何だか本心で楽しそうな様子なのだが、そんな彼に対しキョウが距離を取っているのだ。


 ウチでは全く見せないような、レイトに対するわかりやすい嫌悪を瞳に見せており、俺やウタと一緒に歩いている時などより距離を取って歩いているのがわかる。


 朝に共にいた時は、こんな感じではなかったと思うのだが……。


 俺の疑問に答えたのは、何だか楽しそうなレイト。


「いやぁ、ちょっと話してたんだけど、嫌われちゃったみたいでね」


「そうか。それならお前が悪いな」


「はは、酷いなぁ。まあその通りなんだけど。後のフォローは君に頼むよ」


 肩を竦め、そんなことを言い放つレイトから視線を移し、俺はキョウを見る。


「大丈夫か?」


「……何でもねぇ。仕事には関係の無い話だ。気にしないでくれていい」


「大方、レイトの仮面が気持ち悪かったんじゃろう。キョウ、こういう男をまともに相手する必要は無いぞ。さいこぱすじゃからな。頭が冴える故に他者のことが理解出来んのじゃ。関わろうとするだけ無駄よ」


「うーん、本人の前で言うねぇ」


「キョウをいじめる奴は許さん! ぶろっくじゃ、ぶろっく!」


「い、いや、別にいじめてはないんだけれど……」


 キョウとレイトの間に入り、子供みたいにブロックするポーズを取るウタに、苦笑を溢すレイト。


 キョウも苦笑を溢しているが、庇ってくれるウタを見て、ちょっと嬉しそうである。


 ……この二人はこの二人で、俺の知らないところで仲を深めていたのかもな。


「オホン、それより仕事の話に移ろうか。船を停めたのは気付いてるだろうけれど、二人とも、この付近で何か気になるものはあるかい?」


「いや、特には」


「うむ、今のところは無いの。海が綺麗という程度じゃな」


「そっか。実はここ、三日前に魔力異常が観測された地点なんだ。君達の反応からすると、対象はすでに移動したと考えるべきかな」


 あぁ、なるほど、今回のが急な話だったのは、それが観測されてすぐだったからなのか。


「……わかってたことだが、この広い海で一体の魔物を見付けるなんて、相当難しそうだな」


 俺の言葉に、だがレイトは首を横に振る。


「そうでもない。魔物と言えど、生物だ。ここまでの出没を見るに、どうも完全にランダムな移動という訳ではなく、基本は海流に乗って移動しているようでね。だからここからは、僕らもこの辺りの海流に沿って移動していくよ。三日経っている以上、対象がどこまで移動してるかわからないけれど……何か気付いたら教えてね」


 そうして再び船は動き出し、本格的に調査が開始する。


 と言っても、すぐに何かある訳ではないので、待機の時間がしばらく続く――かと思ったのだが。


 ピク、と隣のウタが反応する。


 少し遅れて、俺もチリ、と来るものを感じ取る。


 ――敵意。


「何かおるな」


「あぁ。向こうもこっちに気付いてるな。――緋月、敵だ」


『にゃあ』


 俺は緋月をアイテムボックスから取り出し、ウタもまた己のアイテムボックスから俺が以前あげた刀、『焔零』を取り出す。


 俺達の様子を見て、キョウとレイトもまた疑問を口にすることなく、即座に刀を抜いて戦闘が出来る態勢に入った。


「僕は何も感じないけれど、いるんだね? どうする、船は動かした方がいい?」


「ウタ、俺は位置が特定出来てない。お前はどうだ?」


「ある程度は絞り込めておる故、もう停めて構わん。まだ遠いが、あまり近付いて船に被害が出ても敵わんでな」


「飛鳥井殿、我々は……」


「大丈夫です、あとはこちらにお任せください」


 レイトが自衛隊員に言葉を返している内に、ウタは刀身に魔力を集めていく。


 焔零は特別魔力の乗りやすい刀だ。込めれば込めるだけ溜まっていき、それを一切ロスすることなく、使用者の望む時に望む量を消費して魔法を発動することが出来る。


 しかし、だからと言って、これだけ無駄無く魔力を込められる者は、ウタ以外にいないだろう。


 大幅に弱体化しているウタは現在、魔力総量で言えば俺よりも下だ。


 だが、そんな状態でも一切変わっていないものがあり、それは魔力制御能力。


 肉体が衰えたとて、技術は衰えない。


 全身から焔零へと魔力を流し込む動作は、感嘆を覚える程にスムーズで、全くの無駄が無く、そして最後に圧縮(・・)していく。


 その凄まじさを、キョウとレイトもまた感じ取ったようで、ウタに対する若干の緊張が窺える。


 怪訝そうにしているのは、同行している自衛隊員のみだ。


「……なるほど、これが彼女の本気か」


「……やっぱウタも、こんくらいはやるんだな」


 ウタは、呟く。


「こう、じゃったな」


 彼女は俺によく似た構えに、魔王流の剣術も見えるような動きで焔零を上段に構えると――振り下ろした。





 海が、斬られる。





 刀身から放たれたのは、不可視の斬撃。


 魔刃。


 それによって、まるでCG映像かのような、冗談のような切れ込みが海に入ったかと思いきや、数キロに亘ってズ、と二つにずれる。


 神話を思わせる光景。


 不定形の海であるため、やがて切れ込みは無くなり、ただの荒い波と化したが……どうやら効果はあったようだ。


「よーし、挑発に乗ってきたの」


「おう、随分派手な挑発だな?」


「魔王は挑発の規模もでかい!」


「それ別に威張れることじゃないが」


 俺達の目の前で、一人でに海が動き出した。


 波ではない。明確に、下から何かが押し上げたかのように海水が持ち上がり――海が現れる(・・・・・)


 いや……海型の魔物(・・・・・)


 名付けるならば――。


「――海坊主」


 海そのものが、俺達を睥睨していた。

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― 新着の感想 ―
弱体化していてコレかwww
海坊主ですか……サングラスかけてバズーカやロケットランチャー等、近代兵器装備してたり……
魔王しゃまかっくいい!
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