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閑話:狩り日和

 最近荒野に出ずっぱりだったからとかは全然関係無いです。全然。



 俺は、言った。


「――さあ、ついに来たぜ! 驚天動地の狩りの時間が!」


「…………」


「…………」


「…………」


「さあ、ついに来たぜ! 驚天動地の狩りの時間が!」


「うわうるさっ、耳元で騒ぐな馬鹿たれ!」


「ぐへっ」


 ぐーで殴られた。


 痛い。

 

「ったく……何じゃ、そんなにそのげーむが出来るようになって、嬉しかったのか?」


「当たり前だ! いいか、日本人と言えば狩り。狩りと言えば日本人。つまり日本人は全員狩り人なんだ! 古事記にもそう書かれてる」


「そうか。お主が心から楽しみにしておったげーむというのはわかった。それは二人で出来るのか?」


「いや一人用」


「一人用ではないか」


 厳密には一人用ではない気もするが、まあウチの機器では一人でしか出来ないので同じことだろう。


「……まあ良い。では、お主のぷれいでも見ておくとするかの」


「おう、見てろ! 途中で交代してやるから、お前を今日から狩り人にしてやろう」


「良い良い。楽しみにしておったんじゃろう? 儂も別に、華月と同じように、見てるのも嫌いではないでな。特にお主のぷれいは」


「そうか? それなら遠慮無く!」


 その後、ゲームを起動してキャラメイクをパパッと終わらせ、さっそく『狩り人:荒野』をスタートさせる。


 今作は、初っ端のムービーからして最高だった。


 すごい力を入れているのがわかり、かなりの迫力だ。ワクワクが止まらない。


「うおぉぉ、いいな、待ってた甲斐があったってもんだ!」


「儂らならあの程度の魔物の群れ、一分くらいで全滅させられるじゃろ」


「……まあ、出来るか出来ないかで言えば、出来るが。いいか、ウタ。このゲームの主人公は魔力なんて使えないんだ。つまり、完全に素の人間が戦ってるんだぞ」


「む? 身体強化もせずに、このさいずの武器を振り回しておるのか? ……無理では?」


「無理じゃないんですー。狩り人ならこの程度、全然余裕なんですー」


 五十キロとかありそうな武器を振り回すことも、バッタみたいに空高くピョンピョン跳び上がることも、マグマで焼かれてるのに「熱い!」くらいの反応で済んでるのも、自分より数十倍のデカさと重量があるだろう相手に突っ込まれて轢かれてるのに、その後余裕で動き回れるのも、狩り人であれば普通のことなのだ。


 多分狩り人(強化人類)だろうな。

 

 最序盤のムービーと軽い操作が終わったところで、まずは武器選択から。


 十四もある武器種の中から自分の好きな武器を選ぶのだが、俺は結構ガチャガチャするものが好きなので、使うなら剣斧とか盾斧とか、あと槍銃とか――。


「にゃあ!」


 その時、急にやって来た緋月が、バシッとテレビ画面を叩く。


「え? 刀?」


「にゃあう!」


「あー、わかったわかった。じゃあ今回は大刀を使ってくことにするか」


 人気武器種、『大刀』。


 その名の通り大太刀くらいのサイズをした刀で、癖が無く火力も出て動きやすいので非常に強いものの、みんなこれ使うので、逆張り精神であんまり使わないというユーザーは多いのではなかろうか。


 というか、古からやっている狩り人なら、絶対一回は使ったことがあると思うので、飽きて他のを使いたがる人は多いんじゃないかと思う。


 まあ、今作はモーションが大分変わってるっぽいし、緋月が「これ以外ダメ!」と言うので、今回は大刀を使っていくとしようか。


 他のが使いたくなったら、こっそりやろう。こっそり。


 そうして武器を選んだ後、ようやく最初の狩りが始まった。


 ――どうやら今作は、かなりストーリーに力を入れているようだ。


 あんまり寄り道をさせられず、一本道のストーリー進行のため、従来の形式とは全然違っているのだが、個人的には普通に評価している。


 力を入れている分、そのストーリーが今のところ超面白いからだ。

 

 ただ、昔と違って、今俺がこのゲームをやると思うことが一つあり……。


「……俺ならコイツ程度、緋月で首落として終わりなのに!」


「にゃあう」


 一乙させられ、思わず魂の叫びが漏れる俺の隣で、全くその通り、と言いたげな様子で頷いている緋月である。


 ちなみにこのゲーム、狩りの相棒の動物を設定することが出来るのだが、それを猫にして、緋月に似せて作ってやったら思いの外喜んでいて可愛かった。


 顔は澄ましているのに、やたら尻尾だけ元気にくねくねしていたので、感情が丸わかりである。


「まあそうよな。あれらの刃が通るならば、緋月の刃が通らぬ道理も無いじゃろうし。仮に儂らの世界の龍種並の強さがあったとて、敵では無いじゃろうな」


 向こうの世界にて、最強の生物と言えば、龍族だった。


 莫大な魔力に強靭な肉体。並の刀剣ではロクに刃が通らず、さらにエンシェントドラゴンクラスになってくると、戦艦の主砲などを、特に防御魔法を使わず素の肉体で普通に防ぐのだ。


 高機動高火力高防御力。


 それが、空を飛ぶのである。言わば、機動力の高い空飛ぶ戦艦、といったところか。


 ウタの配下にも龍族がそこそこいたのだが、コイツはその龍達にしこたま爆弾を持たせ、亜龍を引き連れさせて敵陣地への高高度爆撃を行わせていた。


 爆弾を全て投下した後は、そのままこちらの陣地を襲いつつ逃げて行くので、非常に厄介な存在だった。


 対龍航空魔導部隊が専門で組織されて、戦線の全域で迎撃に当たっていたくらいである。


 俺も幾度か龍族とは戦ったことがあるのだが、如何せん俺は遠距離攻撃手段が乏しく、アイツら知能が非常に高いから危険と判断したら普通に逃げて行くので、対処には苦労させられたものである。


 正面からの一対一なら、緋月があるし負けたことは無かったのだが、向こうもそれがわかっているから、俺の気配を感じると俺がいる地点だけあんまり爆撃が行われなかったんだよな。代わりに後方拠点がよく爆撃された。勿論俺がいても攻撃されることはままあったが。


 強い駒がいるなら、補給を断って孤立させるという魔王軍の作戦に、最強種のはずの龍達は忠実に従っていた訳である。


 まあ、世界最強と謳われた龍族のさらに上に、ウタが君臨してたからな。コイツ、割とマジで突然変異体なので。


「お前ならどうするよ、コイツ」


「この程度の魔物ならば、武器など無くとも勝てるじゃろ。デコピンでも勝てるの」


 実際コイツならデコピンで勝てるから困る。魔力を指に集中させて、『指弾』とかリアルで出来るし。


 逆に、何もせずとも相手が勝手にウタの強さを感じ取って、爆速で逃げて行くか、あるいはその場で腹でも見せて、全力で情けを乞うような素振りを見せることだろう。


 そして出来上がる魔王軍混成魔物部隊である。


「まあ言うても仕方ないじゃろ。己より、圧倒的に軟弱な人間を操作して楽しむげーむじゃと思えば良かろう」


「すっごい上から目線になるが、実際その通りだから困るな……」


 つっても俺、マグマ入ったら普通に溶けるけど。重量級が突っ込んでくるくらいなら返り討ちには出来るが。


 ゲーム性じゃないところでの、そんな不満は若干あったものの、しかし紛うことなき神ゲー。


 特に今回はストーリー重視っぽいため、いつの間にか俺は、そして実際にプレイしている訳ではないウタも物語に没入しており、あっという間に時間が過ぎて行く。


「――そこじゃ、避けろ! あああ、何で避けないんじゃ!」


「そ、そんな簡単に思い通りに動かせたら世話ねぇっての! 目は追い付くんだが、如何せん操作が……」


「何じゃ、古からの狩り人だの何だの、先程まで散々語っておったくせに」


「う、うるさい、このモンスターは初見なんだよ! それに武器モーションも変わってるから、まだ慣れてねぇんだって! そんなに言うなら、一回代わってやるぞ」


「いや、儂は見る専なんで」


「一番良くないタイプの指示厨じゃねえか」


 このゲームは下位クエストを終わらせると上位クエストへと入って行くのだが、多分これ、物語の進み具合的に、もう下位クエの終盤には入ってるんじゃなかろうか。


 ウタが見てるからと思って、素材採取とか武器用素材のための周回とかを一切せず、かなり真っすぐに進めたため、進行度はかなり行っていると思う。


 その証拠に、物語に泣ける場面が幾つか出て来ており……。


「ウタ」


「……何じゃ」


「ほら、ティッシュ」


「……ありがと」


 赤くなった目元を拭い、ずび、と鼻をかむウタ。


 狩り人でまさか泣くとは思わなかったが、しかしそれもしょうがないだろう。それくらい良いストーリーをしてるからな。

 

「どうだ、神ゲーだろ?」


「……まだその認定には早いの! 今は第一関門突破と言ったところか。まだまだ、第二関門、第三関門と残っておる! 甘えるでないわ!」


「誰目線なのかツッコみたいところだが、まあ言いたいことはわかるな。では、ここからさらに、このゲームが神ゲーであることを証明していこうではないか!」


「望むところじゃ!」


 まだまだ狩りは続き、晩飯を食った後もやっていたので、リンとキョウに「……お兄ちゃん達、お風呂入ったら?」「お前らなぁ……」と若干呆れられ、緋月は途中で飽きて華月の方に行ったが、そのおかげで下位のストーリーはもう終わりそうだ。


 そう、現在戦っているのは、恐らく下位のラスボス。


 ボスに相応しいフォルムに、風格。


 攻撃は些か大振りだが、その分威力が凄まじく、当たればHPを三分の二は持っていかれることだろう。


 当たれば、だが。


「ハッ、狩り人がそんな大振りな攻撃に当たるか当たったぁぁ!?」


「思い切り当たっとるではないか!? ほ、ほら、早く回復――っ! ヒヅキ、ようやったぞ!」


「ナイス回復だヒヅキ! そして、俺も危なかったが、お前も瀕死なのはもうわかってんだ!! ここで一気にトドメ刺してやらあああっ!!」


「いけえええっ!!」


 大きく跳び上がり、そして振り下ろした俺の大刀が、敵の弱点たる頭部にヒット。


 それが、ちょうど良くモンスターの体力を削り切ったようで――討伐完了。


 何度聞いてもカッコいい、フィナーレの音楽が鳴り響いた。


「よっしゃぁ!!」


「やったぁ!!」


 思わずガッツポーズする俺に、片腕で軽く抱き着いてきながら喜ぶウタ。


 慎ましやかだが、しっかりとある胸を思い切り顔に押し付けられ、ウタの良い匂いに包まれる。


 最高に柔らかな感触。


 ゲームの感動が引っ込んで、思わずドキッとしてしまった俺は、それを誤魔化すように言った。


「ど、どうだ、これが日本人を熱狂させ続けているゲーム、『狩り人』シリーズだ!」


「うむ……認めざるを得んな。神げーであると! まだ続きがあるのじゃろう?」


「あぁ。今終わらせたのは下位だな。ここから上位クエストが始まる。多分、やり込み要素まで合わせれば、まだ半分どころか、三分の一を終わらせた程度ってところだと思うぜ。流石にやり過ぎたから、今日はここでやめにするが、仕事が無い日にまたガッツリやろうか」


「絶対に儂がいる時にやるんじゃぞ! 横で見るからの!」


「はは、わかったわかった。つっても、別で新しいセーブデータ作って、お前がやってもいいんだぞ?」


「一人用なら、お主のぷれいを見ておる方が楽しい!」


「へいへい。じゃあ……明日はレンカさんとこで仕事だから、明後日だな」


「うむ!」


 輝く笑顔。


 コイツの見せる、無邪気な喜怒哀楽。


 その時に浮かぶ、様々な表情。


 今の俺の日常における、宝物だ。

 ローファン設定だとこういうの書けるからいいね。


 ちなみに自分はチャアクが出た時からずっとチャアク使いです。一生チャアク使ってます。ピザカッターがガリガリ削るの気持ち良いんじゃ……。

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― 新着の感想 ―
アメンド!おぉアメンド!哀れな我らに全強化全強化スタマイを授け給え!! えっ?違う狩り人?失礼しました
モンハン…ワールドとアイスボーンしかやったことねぇわ。その時はライトボウガンで色々やってたなぁ
古事記に書かれてるなら間違いない
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