庭キャンプ
焼きお稲荷さん……意外と可能性があるのか……?
「いやぁ、今日は本当にお酒が美味しいねぇ!」
「あなたいっつも美味しそうにお酒飲んでるでしょ」
「勿論いつも美味しいけれど、やっぱりこういう時のお酒は格別だよ」
「信じられるか、キョウ。この人、仕事中も普通に酒飲んでんだぜ」
「そ、そうなのか」
タバコも吸うしゲームもするし。
まあ、タバコに関しては、ヘビースモーカーという訳ではなく、口が寂しくなったら吸うくらいの感じみたいなので、こういう時には吸わないみたいだがな。
気を遣ってくれている部分もあるのだろうが、そもそもそんなに吸う方でもないのだろう。
「ウチ、全然お客さんいないからね」
「……今度、食べに行ってもいいでしょうか、漣華さんのお店」
「いいよぉ。優護君かウタちゃんに連れて来てもらいな」
「……リンも行きたい!」
「あはは、おいでおいで。その日はじゃあ、貸し切りにしたげる」
「……やったぁ!」
「かか、良かったの、リン。しっかりお礼せねばな」
「……ん! ありがと、漣華お姉ちゃん!」
「ふふ、どういたしまして」
バーベキューを楽しんでいる内に、辺りはすっかり夜になっていた。
夜の庭は、設置されたライトが淡く辺りを照らし出し、昼とは違って非常に幻想的な雰囲気を放っている。
昼と夜とで、全く風景が違うのだ。それこそ、まるで異世界にでも来たかのような。
改めて、建築士さんの力量を垣間見た思いである。
用意した食材もほとんど消費し、大人組は酒もかなり進んでいる。お酒大好きなレンカさんなどは、べろんべろんという程ではないが、言動が若干怪しくなってきており、ぶっちゃけ大分可愛い。この人、酔うと絡み酒になってくるんだよな。
まあ、明日は店を開けない日なので、ぐでんぐでんに潰れても問題ないだろう。ヤバそうだったら回復魔法掛けてあげりゃあいいだろうし。
そういう訳で、食も酒も進み、そろそろバーベキューも終わりに差し掛かってくるのだが……今日に関しては、もう一つイベントが残っている。
――そう、庭キャンプである。
「よーし、完成!」
庭の芝生部分に、ででーんと置いたのは、巨大テント。
最大で八人寝られるので、かなりデカい。中で俺が普通に立てるくらいだ。
天井には新品のランプが吊るされており、キャンプの雰囲気を高めているのだが、ただ寝床に関しては寝袋ではなく、普通に布団を敷くことにした。
寝袋、テントと一緒に一応買いはしたんだけどな。庭キャンプだし、そこまで本格的じゃなくていいかなと思い、布団を持って来て寝ることにした。寝袋、普通に寝にくそうで、翌朝が辛そうだったので。
あと、今日はみんなでテントで寝ると言っても、俺以外全員女性だし、特にレンカさんとキョウがいるから、俺は普通に家の方で一人で寝るかと思っていたのだが……。
「? 別に、優護が一緒でもいいけど。キャンプだぞ、そんくらいは気にしねぇよ」
「はい! 私も一緒でいいよぉ!」
と、流石に気を回し過ぎたようだったので、気にせず一緒に寝ることにした。
まあ、この二人相手でそこまで遠慮するのは、逆に失礼だったか。
「……! おっきい!」
ブンブンと尻尾を振り、全身を使ってテントの大きさを表すリン。隣で華月も同じ動作をしている。可愛い。
「なんかすげー手馴れてたな……大分デカいのに。こういうの、組み立てた経験があんのか?」
「あぁ、それはもう。テントくらい建てらんないと、野営出来ないしな。まあ、テントで寝られんなら全然マシな部類で、基本地面に雑魚寝――」
「それで?」
「……何でもない」
「そうか」
意味ありげな笑みを浮かべながらも、それ以上を聞いては来ないキョウである。
……ぶっちゃけそろそろ、キョウには話してもいいかもしれないけどな。異世界行ってたなんて言っても、能力の出所を誤魔化してると思われるだけだろうが。
「オホン、とにかく、じゃあそろそろ、飲み物だけ残して他は片付けるか!」
「……ん! お片付け!」
「残った食材、ラップ掛けちゃうねぇ」
「ごみはこれに入れるんじゃぞー。缶とビンはこっちじゃ」
そうして、手分けしてバーベキューの後片付けを行う。
と言っても、今日は洗い物などが絶対に面倒くさくなるとわかっていたので、大皿以外の皿類は全部紙皿だ。コップ類も然り、箸も割り箸である。
フフフ、大人の知恵とはこういうところで発揮されるのである。
コンロは……火だけちゃんと消したら、後片付けは明日でいいな。椅子やテーブルもそうするか。
大人組は、まだ寝ないだろうしな。
全員で行ったことで、後片付けはすぐに終わり、その後は順番に風呂に入っていくことにする。
ウチの風呂は広く、数人は一緒に入れるので、ウタとリン、キョウの三人は一緒に入ることになり、俺とレンカさんの二人が残る。
「優護君」
ちびりちびりと酒を飲んでいたレンカさんが、ふと口を開く。
「何です? レンカさん」
「何だかね。私、今日で君が何を大事にしてるのか、ちょっとわかった気がするよ」
「? 俺が大事にするもの、ですか?」
「うん。ウタちゃんや、凛ちゃんなんかと話している様子を見ててね。君は、本当にみんなが好きなんだねぇ」
ニヤリと笑みを浮かべ、そんなことを言うレンカさん。
「……ま、まあ、ウタはともかく、他の面々は被保護者ですから。しっかり守ってやらないといけないでしょう」
「杏ちゃんも?」
「キョウは特に、ですね。アイツは……一人にすべきじゃない。今まではそうして生きてきたようですが、出来るなら、誰かが側にいてやるべきなんですよ」
「ふぅん。で、女子高生を家に住まわせたと」
「なんか言い方にトゲありません? ……ウチは部屋余ってますから。経済的にも余裕ありますし。アイツん家が焼けて、今住むところが無いってなったなら……そりゃ、知らない仲じゃないし。誘いもしますよ」
「ふふ……そっか。そこが君のとっても良いところだね。果たしてそこで、手を差し伸べられる人が、世の中にいったいどれだけいるのかって話だよ」
からかっている訳ではない、本心からだろう誉め言葉と笑みに、微妙に照れ臭くなった俺は、視線を逸らして酒を呷る。
「よーし、お姉さんも頑張るかぁ! 優護君、この後一緒にお風呂入る?」
「ブッ」
俺は酒を吹き出した。
「……からかわないでください、レンカさん。それで俺が頷いたらどうするんです」
「その時は一緒に入るだけだね」
ニヤリと笑みを浮かべて、こちらに身体を寄せてくるレンカさん。
本能に訴えかけてくるかのような、甘い匂い。
……多分これは、彼女の種族特性の一つなのだろう。
「お姉さんは、全然構わないよ? 優護君には、普段からお世話になってるし。しっかり、色々、洗ってあげる。――身も心も」
耳元で囁かれる、脳髄を溶かされてしまいそうな声音。
理性を、ドロドロにされるかのような。
ドキリと心臓が跳ねる。
思わず固まり、何も言えず、動けなくなっていると――足に走る痛み。
「いてっ」
見ると、俺の足に緋月が噛み付いていた。
「……何だよ、緋月」
そう問うも、我が刀はぷいっと俺から顔を逸らし、テントで遊んでいる華月の方へ、ててて、と駆けて行った。
同時、身体をこちらに寄せていたレンカさんが、ふいっと離れる。
「あはは、ごめんごめん。冗談だよ。ウタちゃんがいない時にこういうことするのは、フェアじゃないからね」
「……ウタがいる時は?」
「その時は……じゃあ、三人でお風呂入ろっか」
「頑なにお風呂入ろうとするじゃないですか」
「サキュバスってそういうものだからね」
妖艶な笑みを浮かべ、こちらを見上げるレンカさん。
……やっぱり俺は、この人には敵わないらしい。
――その後、三人が風呂から出て来たが、いっぱい騒いで、良い時間になったためかリンがウトウトし始めており、彼女をテントで寝かせた後、俺とレンカさんもそれぞれ交代で風呂に入る。
就寝準備を終えた後もしばらく雑談を続けていたのだが、流石に眠くなってきたため、全員で寝た。
本当に楽しい夜だった。
せっかく買ったバーベキューセットにキャンプセットだ、またその内、こういうイベントをやるとしよう。
この面々ならば……きっと、何をやっても楽しいだろうからな。