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08

それから数日後、オリーブはオリーブ・アルバ伯爵令嬢となった。伯父には二人娘がいる。オリーブと仲がよい従妹たちは5歳と3歳で、10歳のオリーブよりも幼い。オリーブは従妹よりもアルバ伯爵家の継承権が低くなるようにお願いし、そのように契約した。

アルバ伯爵家でちゃんと医者にかかり治療した母は、勝手知ったる実家に戻ったことですっかり元気になった。元々仲の良いオリーブの伯母にあたるアルバ伯爵夫人と共に、伯父のことを尻に敷いている。


グレタを始め、パレルモ伯爵家からは誰も使用人を連れてこなかった。


あの日、走るオリーブとそれを追いかけるジョナの姿を目撃した使用人がいたらしい。ジョナに追い詰められたオリーブが庭に逃げていったのだと、ジョナの計画を知らない使用人からの報告を無視することができなかったのだろう父は、使用人にオリーブを探しに行くように指示を出し、ジョナは父が尋問するという処理した。寮にいたグレタは使用人仲間からそのことを聞き、すぐに母の部屋へ戻って母へ報告し、オリーブのことを案ずる母のそばにいて励まし続けてくれたそうだ。


そんなグレタなら信用できると思ったが、グレタは元々結婚のためにあと数ヶ月で退職する予定だったらしい。そのままパレルモ家に残り、数ヶ月後に寿退職するようだ。


アルバ伯爵家に来ても、いつものように歌を歌いに母の部屋へ通うオリーブは、母と少しだけ父の話をした。


「アルバ家に戻ってお兄様と接して気付いたわ。私はあの人と上辺だけの付き合いしかしてなくて、本来の姿を見せていなかったみたい。話し合いの時、あの人は気の強いのを隠さないジョナにすっかり手綱を握られていたの。今思うと本来の姿を見せていたジョナの方があの人と信頼し合っていたみたい」


そう言い切った母はスッキリした顔をしていた。


祖父と伯父が調査した結果、パレルモ伯爵は市井に家を所有していて、その家にはジョナの娘が住んでいたことが分かった。オリーブと数ヶ月しか誕生日が違わない、父と同じ黒髪に赤い目の女の子らしい。それぞれの母親が遠い親戚で、同じ父親を持つ私と異母妹は、同じ黒髪なこともあって一目見て姉妹だとわかる程度には似ているらしい。


16になる年の貴族の子供は、必ず貴族学園に通わないといけない。その異母妹マールムとは5年後に同じ貴族学園に通うことになる。


知り合いの葬儀のためにアルバ領から王都へ来ていただけの祖父は、来週領地に帰る。もうすぐ社交シーズンも終わるため、少し早いが母とオリーブも領地へ付いて行くことにした。


社交シーズン以外は領地に住む貴族は多い。アルバ伯爵家やゾグラフ辺境伯家も社交シーズン以外は領地に住んでいるため、伯父一家とラルフとはいつも社交シーズンしか会えなかった。パレルモ伯爵家は、伯爵の父が定期的に領地を視察するだけで、1年のほとんどを王都のタウンハウスで過ごしていた。


オリーブは、王都以外に住むのは初めてで漠然と不安になる。この臆病な性質は父に似たのかと思ったが、よく考えると前世のオリーブも臆病だった。臆病な性格なのに歌手としてスカウトされてしまった前世のオリーブは、人前で歌うことに毎回緊張して怯えていたことを思い出す。


いつも歌い出してしまえば、すぐに緊張してたことを忘れてしまってたわ。王都以外に引っ越すことが不安でも、住んでしまえば不安なんて忘れるはず。


そう自分を慰めながら、オリーブは部屋で組紐を編んでいた。


アルバ伯爵家に来た次の日にラルフへお礼の手紙を書いたオリーブは、執事に手紙を託すと同時に、ラルフからの手紙を受け取った。ラルフも同じようにオリーブへ手紙を書いていたらしい。そのラルフからの手紙に、お礼として剣に付ける飾り紐が欲しいと書いてあったのだ。


“紐以外の余計な飾りは無し”、“シンプルで紐色は2色まで”、“7~10センチ”、“解けないようにしっかり編まれたもの”、“予備を付けて2本以上”など欲しい飾り紐について細かく書いてあるのだが、使用する紐の色数だけで肝心な紐色の指定はない。


思い出の宝物以外、身一つでアルバ伯爵家に来たオリーブは、組紐の材料など持っていない。伯母と母に相談したところ、二人は黒、青、金、オリーブ色の4色を用意してくれた。オリーブとラルフの目と髪の色だ。この中から選ばないといけない。


オリーブはオリーブ色一色の組紐を3本作った。2本はラルフ用で飾り紐にし、1本は自分用で長く編み、花の形に成形して髪飾りにした。編んでいる途中でマレンゴの芦毛と真っ黒な瞳を思い出したオリーブは黒い組紐も作った。黒い組紐はマレンゴへのプレゼントだが、これも念のため飾り紐にして予備も用意し2本作った。


飾り紐が出来た次の日、オリーブがパレルモ伯爵家を出てから2週間後、祖父、伯父、母、オリーブの4人はゾグラフ辺境伯家に来た。馬車の窓から見えるパレルモ伯爵家の屋敷を横目に、ゾグラフ辺境伯家の門をくぐる。


出迎えてくれたのはゾグラフ辺境伯と夫人、ラルフ、ラルフの姉と弟の5人で、オリーブを含む子供達は早々に話し合いの席を離れた。ラルフとオリーブは二人で馬小屋へ来ている。オリーブがマレンゴにもお礼を言いたいとラルフに頼んだからだ。


マレンゴには飾り紐だけでなく、アルバ領特産のバナナも持って来た。マレンゴ以外の馬にも行き渡るように、馬車の荷台いっぱいに積んだバナナだ。そのバナナはすでに馬小屋に運び込まれている。


マレンゴにお礼を言っているオリーブに、ラルフがいきなりバナナを渡してきた。受け取ったものの意味もわからずラルフにバナナを返そうとしたその時、マレンゴがオリーブの手から直接バナナを食べた。


「ひゃぁっ」


オリーブが怖がるのを分かってて、ラルフだけでなくマレンゴまでオリーブをからかったのだ。マレンゴと仲良くなったとはいえ、大きな口が近づいてくるのは怖い。オリーブはついさっきまで大人しかったラルフに前みたいに優しいラルフに戻ったのだと油断していたが、大人の前で行儀よくしていただけだったようだ。


オリーブはびっくりして反対の手に持っていた箱を落とした。


「落としたぞ」


ラルフは笑いながらその箱を拾い、オリーブに差し出している。


「それはラルフに持ってきたお礼の飾り紐なの。黒い方はマレンゴの分だから馬小屋に飾ってね」


中にはオリーブが編んだ飾り紐が、オリーブ色が2本黒色が2本入っている。そのままラルフに受け取ってもらった。


「マレンゴにはバナナがあるからいいだろ。全部俺がもらう」


そう言って、飾り紐を見たラルフは、オリーブの髪を見た。


「その髪飾り、これとお揃いか?」


「名前と同じオリーブ色だから同じ紐で自分にも作ったの。私のはお花の形だからお揃いじゃないよ。嫌なら返して」


オリーブは手を差し出したが、ラルフはオリーブ色の飾り紐を手に握ったままびっくりした顔をしている。


「作ったって、これお前が作ったのか?」


そう言ってマジマジと飾り紐を見つめているラルフ。ちゃんと見ると粗が目立つからやめて欲しいとオリーブが思っていると、ラルフは顔を上げて真っ赤な顔をしてオリーブを睨んだ。


「あのな、おい。あれだ。あ、あのな……」


マゴマゴと言葉にならない言葉をつぶやいているラルフ。どんなに待っても続きが出てこないラルフに焦れったくなったオリーブは、前世での経験からラルフは「ありがとう」と言いたいのに恥ずかしくて言えないのだとわかった。


「こちらこそありがとう。寝間着姿で走ってきてくれたラルフは今までで一番カッコよかったよ」


「こちらこそって何だよ!」


ラルフからのありがとうを待たずにそう言ったオリーブに、ラルフは眉間にしわを寄せて怒り出してしまった。


「俺、この社交シーズンが終わったら領地の騎士団に入るから、貴族学園に入学するまでは社交シーズンになっても王都には来ない」


「ゾグラフ家男子の伝統だよね。でも、12歳から3年間じゃなかった?」


「早く強くなりたいって思ったから……」


これから5年間、ラルフには会えないようだ。突然のお別れにオリーブはさみしくなる。


「そっか。私は来週アルバ領に行くから、今日でお別れね。最近はいじわるばっかだったけど5年もラルフに会えないのはさみしいな」


「って、て……」


またもこちらをにらみながらマゴマゴと言葉にならない言葉をつぶやいているラルフ。これは「手紙を書く」だろうか。


「私も手紙を書くね」


「俺は手紙を書くなんて言ってない!」


そう叫んだラルフは、ハッとした顔をした後に、すごい速さで走り去ってしまった。オリーブは一人で馬小屋の前に残され、唖然としてしまう。言葉も出ずラルフの背中を見つめていると、ラルフは足を止めてオリーブの方へ振り向いた。数秒しか走っていないのに、辛うじてラルフとわかるくらいの遠くからオリーブを見ている。


「飾り紐ありがとう!」


顔もわからないその遠くからラルフは叫ぶとまた走り出して行ってしまった。


ラルフとはこんなお別れだったものの、オリーブはアルバ領に着いてすぐにラルフへ手紙を出した。返事は来ないかもしれないと思いつつ手紙を出してみたのだが、すぐに返事が届いた。それからラルフとは、貴族学園への入学までの5年間の間に3ヶ月に1通くらいの頻度で文通していた。ラルフからの手紙はほとんど倒した魔獣の報告なのだが、手紙が届く度に凶暴な魔獣になっていく。オリーブは手紙が届くたびにラルフの成長に驚いていた。


パレルモ伯爵と離婚しアルバ伯爵家に戻った母は、その1年後に前妻を病気で亡くしたホワイト前子爵と再婚した。ホワイト前子爵は祖父の2歳下で、母とは19歳差があり、その息子のホワイト現子爵には4歳の息子がいる。

ホワイト子爵夫妻と母は同級生で、ホワイト子爵夫人と母は貴族学園の頃からの仲良しらしい。そのホワイト子爵夫人がホワイト前子爵を母に紹介したのだとオリーブは聞いた。


15歳の春、オリーブはオリーブ・ホワイト子爵令嬢として貴族学園に入学した。





やっと10歳編が終わりました。次話からは本編の学園編が始まります。

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