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赤いりんごは虫食いりんご 〜りんごが堕ちるのは木のすぐ下〜  作者: くびのほきょう
貴族学園

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「……?どうしてラルフがいるの?」


深夜まで続いた話し合いの後、オリーブはフレイアと共にペネロペが寝ているテントへと戻った。テントではフレイアと話す余裕もなく、ペネロペのエゾリスがテントに戻っていることを確認してすぐに眠りにつき、翌朝、起床後は身支度を整えて学園で用意してくれてた野営用の簡易朝食を取る。

朝食を食べるのに時間がかかったせいで皆より少し遅れて集合場所へ行ったオリーブを待っていたのは、険しい顔つきでマレンゴに餌を与えているラルフだった。


オリーブの班はフレイア、ペネロペ、伯爵令息、子爵令息の5人。

伯爵令息は彼の馬に、ペネロペはエゾリスに餌を与えているが、子爵令息と彼の馬の姿はなく、代わりにラルフとマレンゴがいる。


オリーブの問いかけに対して眉間にしわを寄せ厳しい顔を向けてきたラルフとは対照的に、マレンゴはオリーブに気づいて嬉しそうに目を細めて尻尾を一振りしてくれた。

そんなマレンゴを無視して、ラルフはオリーブの疑問に答えることなくフレイアに話しかける。


「フレイア様、すみません。防音魔道具を起動していただけますか?」


呆れた顔をしたフレイアがラルフとフレイアとオリーブ3人を対象に防音魔道具を起動すると、すぐにラルフからオリーブへの説教が始まってしまった……。


「“どうして”じゃないだろう。昨晩、俺がいなかったらお前は飛熊の最初の一撃で死んでいた。間違いなくマールムはお前を殺そうとしてたんだ。それなのにお前は呑気にもたもたと朝食を食べてるし、集合時間には一人でのんびり遅れて来てくるし。普段は過剰なほど臆病なのに、肝心なところで危機感がなくなるのはなんでなんだ……」


「でも、マールムはカイル先生と相愛になったんだし。もう私へ嫉妬する理由はなくなっ……」


そう反論しかけたオリーブを見るラルフの金色の瞳の鋭さに、オリーブは言葉選びを間違えたと途中で口をつぐんだが遅かった。


「カイル殿下と通じ合ったから過去のことは水に流す、なんてあの女は言ったか?やむを得ない理由もなく半分血が繋がった異母姉を殺そうとした、そんな悪魔のような女の思想を一般論に当てはめて考えるな。カイル殿下のことだって、お前が歌姫かもって疑ってたんじゃなくて、歌姫だって確信していたかもしれない。マールムに乗り換えてお前に興味を無くしたとは断言できないんだ。あんな悪魔のような女より穏やかで優しくてかわいいお前の方が良いってなるに決まってる。……つまり!あの二人がお前を害したり攫ったり狙ってる可能性はまだまだ残っているし、その場合は王都を離れて非日常にいる誤魔化しやすい今が絶好の機会なんだ。俺はお前を怖がらせたいわけじゃないし、怯える必要はない。けど、林間学習中はもっと気を引き締めて……」


ラルフの正論は続く。


途中でオリーブは「そのとおりだね」「ありがとう」「気をつける」などとラルフへ返事をしていたが、その度に昨晩の王妃に怒られているサイラスを思い出し、自分を情けなく思ってしまう。


「『オリーブは俺が守るから大丈夫』って照れて言えないからって、そんな小言で誤魔化してるとオリーブから嫌われちゃうわよ。……ようするにね、ラルフはオリーブが心配で心配でしかたないからって、独断で元々私たちと班員だった令息に交渉して、強引に班を交換したってことよ」


話の途中で割り込んでくれたフレイアのおかげで、強制的にラルフの話は終わった。フレイアの言葉に反論できないのかラルフは黙って明後日の方向を向いているが、オリーブからは真っ赤になった耳が見えている。


「マールムは昨晩、オリーブに呼び出されて夜遅くに裏庭へ来たって皆の認識を変えたでしょう?ラルフはそれを逆手にとって、マールムに『幼馴染の自分がオリーブを監視するから』って言って班員の交換を誤魔化して来たのですって」


それでは元々班員だった子爵令息に急な変更を強いて、迷惑をかけてしまったのではないだろうかと不安になったオリーブへフレイアの説明は続く。


「気にしなくて大丈夫。彼はフェリクスと幼馴染なのよ。……王太子の婚約者の私と同じ班で緊張するよりも、幼馴染のフェリクスと一緒の方が気が楽でしょう。王族のサイラス殿下もいるけど、すでに騎士科では脳筋の戦闘狂だってバレているみたいだし」


ひょろっとした体型にありふれた茶髪で平凡な顔つきの子爵令息と、ピンク色の髪でフレイアが攻略対象一のビジュアルだと説明していた魔法師団長の庶子フェリクス。そんな二人が幼馴染として仲良くしているところを想像してみると、案外気が合いそうだから不思議だ。

子爵令息の彼に負担を掛けた訳じゃなさそうだと安心する。


「そういうことだから。王都に帰るまで俺のそばを離れるんじゃないぞ」


昨晩、マールムにテイムされてしまったラルフを見ただけで泣いてしまったオリーブとしては、ラルフがマールムと離れて、しかもオリーブと同じ班になることはとても嬉しい。

オリーブはラルフの金色の瞳を見返し、珍しく快活に「うん!」と返事をした。


オリーブはマールムやカイルからまだ狙われている危険な状態かもしれない。ラルフの説明で理解し、もちろん恐怖を感じたけれど、それ以上にラルフがそばにいる安心感に満たされる。


……だって私がピンチになると、ラルフはいつも一番早くに駆けつけて、必ず助けてくれるもの。


それはラルフが常にオリーブを気にかけて奔走してくれていたからで、当たり前のことではない。それを否応無く思い知らされることが起こると、この時のオリーブは思いもしてなかった……。


ーーーーー


一泊二日の林間学習、二日目。

今日は一日目とは異なる山道を下り、山麓に近い高原で飯盒炊爨し、下山してそれぞれの馬や馬車で王都へと帰る。


昨日の山道よりも道幅が広く、なだらかな山道をゆっくりと下山する。ラルフとマレンゴと共に歩いていると、パレルモ伯爵家のタウンハウスで遊んでいた幼い頃を思い出してしまう。


ふと、フレイアから肩を叩かれ顔を向けると、フレイアが指差す先にマールム達の姿があった。


「カイル殿下も同行してるみたいね。……あら、エミリアを振り切れず困ってるサイラス殿下がこっちを睨んでるわ。笑顔で煽り返しときましょうか」


マールムとカイル殿下、元オリーブたちの班員の子爵令息とフェリクス、二組が仲良く話しているため、自然と余った侯爵令嬢エミリアとサイラスのペアになっているようだ。

エミリアは入学当初に父親からサイラスかアラスターと仲良くするようにと言われて精神的に追い込まれていた令嬢だが、今は積極的にサイラスに話しかけている。父親からの重圧の件はフレイアのお陰で解決したものの、サイラスと仲良くする絶好の機会を逃さない強かさも貴族令嬢としてちゃんと残っていたようだ。


にっこりと音がしそうなほどのフレイアとラルフの笑顔を見たサイラスは、こちらに向かって口をパクパクと動かしているが、おそらく「覚えておけ」だと思われる。

官吏科の令嬢にはよそ行きの貴公子然とした態度になるラルフだが、サイラスとは素の自分を見せれる関係のようだ。


近い距離で親密そうに話しているマールムとカイルの二人を見てもオリーブの心は凪いでいる。

カイルを見ても頭を撫でて欲しいと思わなくなった自分に、昨日までのカイルへの焦がれるような思いは、真実、作られた偽の感情だったのだと実感する。


ふと、サイラスの近くにいる黒髪に茶色い瞳の護衛騎士と目が合った。髪と瞳の色を変えて平民騎士に扮したアラスターに間違いない。アラスターは目があったオリーブの方へなぜか頷いてくれた。


「あれ?ラルフ?サイラス殿下と同じ班じゃないの?」


ラルフを呼び捨てで呼ぶ、軽く弾むような明るい令嬢の声。


オリーブとアラスターが頷きあっていたその時、令嬢が後ろからラルフに声を掛けてきた。オリーブの胸がどきりと音を立てる。


「あぁ。ちょっとな」


「“ちょっとな”って、もしかしてまたサイラス殿下と喧嘩でもしたんでしょ。前みたいに私が取り持とうか?」


波打つ黒髪を高い位置で一つにまとめた、パッチリとした青い瞳が印象的な美少女。馬を引き連れ帯刀し騎士服を着ている姿から騎士科の令嬢だと分かる。


「サイラス殿下と喧嘩はしてない。大丈夫だ」


ラルフとの気取らないやり取りから、二人は随分と打ち解けているようだ。


突然現れたラルフと同じ騎士科の令嬢。

ただでさえ人見知りのオリーブは、ラルフと親しげかどうか関係なく初めて見る令嬢に話しかけることなどできない。

居心地の悪さに心細くなったオリーブは、思わずマレンゴに手を伸ばした。


「あっダメ!ラルフの馬は決まった人以外に触られるのを嫌がるの」


ラルフと親しく話していた騎士科の令嬢に大声で注意され、オリーブはギクリと空中で手を止めた。騎士科の令嬢は持参金が用意できない下級貴族の次女や三女が殆ど。

言い方は悪いが、将来貴族夫人になる者が多い官吏科の令嬢であるオリーブに対して謙る態度を取らないことに違和感がある。


戸惑い固まってしまったオリーブの手へ、マレンゴの方から擦り寄ってくれた。マレンゴからオリーブへの優しさに心が温かくなり、オリーブは体のこわばりを解いてマレンゴを撫で回す。相変わらずスベスベの芦毛が気持ちよい。


「俺の幼馴染のこいつはマレンゴの“決まった人”に入ってるから問題ない」


騎士科の令嬢は「そうなんだ」と明るく返事をし、自分の班の方へと戻っていった。

戻る直前の一瞬、ラルフから見えない角度から不服そうにこちらを睨んだのはオリーブの見間違いではないだろう。


「あいつ?別に特別仲がいいってわけじゃなくて、騎士科のクラスメイトなんて誰にでもあんな感じなだけだ。騎士科にいる時点で男とか女とか関係なくなるし。なっ?」


思わず「今の令嬢と仲がいいの?」と聞いたオリーブに対して、ラルフはこう返事をして同じ班の伯爵令息と頷きあっている。


貴族令息の殆どが所属している騎士科だが、その中には将来家督を継いで爵位を継承する嫡子と、継ぐ爵位がなく騎士や役人などになる予定の令息も交ざっている。そして、騎士科にいる令嬢は将来漏れなく女騎士になる予定。

将来の身分の差を考えて複雑な人間関係になりそうだと思うのに、意外にざっくばらんとしているようだ。とはいえ、オリーブの所属している官吏科のクラスメイトも、案外みな気さくに仲良くしているから意外でもないのかもしれない。

身分制度などなかった前世の学校とそんなに変わらないように感じるのは、ここが乙女ゲームの世界だからなのか、それとも身分制度があっても案外こんなものなのか、オリーブには分からない。


先ほどの令嬢はデイジー・ターナーという名前だと教えられたが、特段他に話すことはなかったのか、すぐにエゾリスの可愛さへと皆の話題は変わってしまった。


ターナーという家名は確か子爵だったはず。


ラルフからゾグラフ家は政略結婚しない代わりに自分で嫁を探す方針だと聞いている。そして、母親からは釣り合いの取れる官吏科の令嬢から選ぶようにとも言われているそうだ。


「うーん。どうしたものか……」


騎士科で子爵令嬢のデイジーはラルフの婚約者としては対象外なのだと自分に言い聞かせて心を落ち着かせていたオリーブの耳には、隣で悩むフレイアの唸り声は入っていなかった。


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