第9話 異形 "Crystal Tower"
「オー! 見えて来たぜ。あれだ」
グリの指差す方向に異様な建造物がうっすらと見えてきた。
「あ、あれが、Crystal Tower?! そんな馬鹿な。。」
バイオが驚くのも無理はなかった。単純に高さが常軌を逸していた。前方1キロにあるそれの頂上が雲に隠れてみえないのだ。
「ヒエラルキー五百フロアー、高さ2,000メートル。現在のバブ・イルさ! 神に挑んでいる」
目的をその目にし逸る気持ち抑えつつ、歩みを進め、遂に二人は巨大な門の前にたどり着いた。
「覚悟はいいかい! オープンするぜ」
門を開けて目に飛び込んだ光景は、怒声と悲鳴が入り乱れる混沌であった。
無数のエージェントが、スキャナを手に戦っていた。
ただ初めて見るこの光景にバイオは既視感をかんじていた。
「どうだい、このシーン。見覚えは無いかい?」
「ア、アノマリー※1」
「イエス! ここで行われているのはアノマリーと同じさ。ただし目的は、まるで違うがな」
「目的!?」
グリは人差し指を上に上げ、「オフコース! 上層階さ」
バイオには何がなんだか分からず、混乱した。それを見越してグリ、
「バイオ、ユーはここに来てから緑P8※2のこのCrystal Tower に攻撃※3をしたかい? いや、ハック※4が先か」
「どっちもしたさ! ただ、攻撃してもまるで、ダメージを与えられない。にも関わらず攻撃ポイントは入るんだ。ハックしても常にノーアイテムだ」
「それこそが、Crystal Tower のシークレットの一環さ」
「。。。」
グリは前方の巨大なオブジェを指差した。
「オールが奪いあっているのはあれだ。ポータル"クリスタルタワー一階"さ」
「一階だと。。」
「ルック」グリは手帳を取り出し手早くメモを書いた。
「Crystal Tower には、一階から五百階まで高さ違いで、同じ位置にポータルがある。スキャナに見えているのは、五百階のポータル"クリスタルタワー"なのさ。そいつは、下からはタッチできない! 通常INGRESSでは高低の概念は無いが、ヒアは話が違う。同じ高さの五百階までいかないと、ハックもキャプチャもできない。
そして、キャプチャ※5したときには。。」
「何が起こるんだ?!」
「レジェンドでは、どんな夢でも叶うってことさ」
「どうやって、500階に行く?」
「とにもかくにも、この一階の予選会を抜いて二階に行かなきゃスタートしない」
グリは見えない500階を指差し、呟いた。己に言い聞かせるように。
※1.アノマリー:INGRESSの背景となるストーリーに基づいた大規模イベント。世界各地の都市で発生することもあり、イベントでの両陣営の勝敗はストーリーにも影響を及ぼす。陣営間で、各種ルールで勝敗をつける。過去のアノマリーで実施された主なルールは以下。
・クラスター戦:指定されたポータルを取り合う。
・シャード戦:シャードという破片があるポータルから、この破片をリンクを使用してターゲットポータル(ゴール)へ運ぶ。
※2.緑P8:緑(エンライテンド陣営)のレベル8ポータルの略。
※3.攻撃:バースター、ウルトラストライクを使ってポータル及び、デプロイされているレゾネーター、シールド等MODにダメージを与える。目的は、ポータルを破壊し中立化することである。
※4.ハック:各種アイテムを取得するためにポータルに対して行うアクション。
※5.キャプチャ:中立化された白色のポータルをデプロイすることでポータルを所有すること。