第8話 変貌
たまごろうは変わった。
ふとした瞬間に、驚くほどクールになる。
あの時からだ。
兄弟のように溺愛していたネコのにゃんたろうが、いなくなったと泣きながら電話してきたあのとき。。
それでも、普段は、それまでと同じたまごろうだ。今は、それでよしとしておこう。
「よんさん、そろそろだよー」
「え、何?」
「何て、今日は、ウミエ※1に行くって言ってたじゃない!」
「あ、そうだった。行こうー」
二人は、神戸駅から、地上ルートでウミエに向かった。そのときだ。たまごろうが、突然立ち止まり、すれ違った二人組の男の方を見た。
「どうした? 知り合い?」
「ちょっと。。」
そのときのたまごろうの雰囲気は、よんがクールたまごろうモードと名付けているときのものだった。
「ごめん、よんさん。先行ってて。私行かなきゃ!」
「ちょっと、たまごろー」
よんが呼び止める間もなく、たまごろうは、風のように二人組の後を追った。
二人組と、たまごろうの向かった先を見たよんは呟いた。
「クリスタルタワー。。」
非常階段のドアを開けて、階段を登った。
入り口付近ですれ違ったネイビーの作業服を着た二人組には、二階の途中で追いついた。
「お待ちなさい。あなたたち」
二人組は一瞬体を硬直させ、それでも平静な態度で、振り返った。
「なんですか?」
作業帽を目深に被った男の一人が答えた。
「あなた方の歩き方。何故足音がしないのかしら?」
そう、二人組の歩き方は一般人のそれとは違い、何か剣呑なものを感じさせた。
「お嬢さん。何を仰っているのですか? ミー、、私たちの歩き方が、どうかしましたか?」
その瞬間、話している男の右足が、たまごろうに向かって疾った。
下の位置にいるたまごろうの頭部への、ローキック。
容赦の無い一撃だ。まともにもらえば、首がもげるであろう威力であった。
たまごろうは、身を沈めてかわしつつ、男の股間に左の肘撃ち。
男は、後方へ飛びずさった。
男の右足が動いてから、ここまで0.2秒。
もう一人の男は、既に上に向かって走っていた。
たまごろうは一瞬上に走る男に目をやった。
そのとき、目の前の男が、ポケットから何かを取りだし、地面に投げつけた。
次の瞬間、辺りは閃光に包まれた。
「スタングレネード! やられた」
たまごろうは視界を確保するため10秒間、目を閉じるしかなかった。
目を開けたとき、当然二人の姿は、無かった。だが、たまごろうは迷うことなく、階段をかけ上がった。たまごろうには、二人を追う算段があった。
男に肘撃ちを放った際、とっさに香水を放ったのだ。今のたまごろうの嗅覚は、人間のそれを越えている。その自覚から、とっさにとった判断だった。
※1.ウミエ:umieは、兵庫県神戸市中央区・神戸ハーバーランドにあるイオンモール株式会社運営のショッピングセンター
[Wikipediaより]