第77話 ドージェの正体
【これまでのあらすじ】
鉄壁の男vahohoとともに、三宮地下大空洞、地下湖、海底トンネルを通ってCrystal Towerに辿り着いた和田美咲。
目的階へのエレベーターの扉を開く条件を満たすため、武装ドローンとポータルを取り合う美咲とvahoho。
その最中、自分を守るため斃れたvahohoの姿に、自分を見失う美咲。
微かな金属音を無意識に追い求めるうちに、仮面の男ドージェと出会う。
ドージェとの出会いがきっかけに、vahohoから託された言葉、想い、役割を思い出し、美咲は自分を取り戻すのであった。
美咲は、鉄仮面を被り、白い上着を羽織ったドージェに問いかける。
「なあ、確認したいんだけどさ。」
「なんです?」
「さっき、あんたにハグされたとき、なんて言うか、違和感みたいなのを感じたんだけど。
あんたの声は男の声だけど、体つきは華奢で柔らかくって女みたいなんだよな。
あんたって、女の人じゃねえの?」
美咲の問いかけに、ドージェは低い声で、
「そうですね。今は鎧は脱いでいるので、分かりますよね。
あなたであれば、正体を隠す必要もない。」
応えながら、仮面の耳の下の突起を両親指で押し、カチッという音で着脱装置を操作し、両手で仮面を上に脱いだ。
仮面の下には、セミロングの髪を上方で括り頭の周りで巻いた女性の顔が現れ、それまでとは異なるメゾソプラノの声で、
「仰る通り、私は男性ではありません。
この仮面のボイスチェンジャー機能で声を変え、男性を演じていました。
私の本当の名はたまごろう。
あなたの師である、大仏とはいささか因縁のあるものです。」
仮面の下の意外な素顔に、困惑する美咲、
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。
混乱してきた。
女なのに、仮面を被って男のふりをしていて、でも名前が”たまごろう”って、わけわかんねえー。」
美咲の言葉に、苦笑いを浮かべるドージェ、いや、たまごろうは静かに答えた。
「ふふふ、そういわれるとそうですね。
しかし、正体を隠して、男性を演じているのには、それなりの理由があります。
一つには、このCrystal Towerに潜む、八騎士の手の者から私のリアルの身内を人質に取られることを避けるため。
そして、八騎士に対抗する組織”百八の魔星”の頭領として振舞うのに、女性であることは都合が悪かったためです。
最も、これはすべて大仏が考えた事ですが。」
「まだ、わかんねえんだけど。あんたが率いる何とかって組織以外の勢力が、このCrystal Towerにいるのかよ。」
「いえ、現時点で我々がCrystal Towerを制圧しています。」
「そこだよ。
それって、つまり、あんたが率いる組織に、八騎士が紛れてるってこと?」
たまごろうは、人差し指で自らの顎を押さえ、頷きながら、
「なるほど。
大仏の言う通り、あなたは頭のいい人ですね。
その通りです。
事実、今現在私は、”百八の魔星”に潜む裏切り者によって最前線から隔離されてしまっています。」