第68話 世界を覆う企み
【これまでのあらすじ】
白田と黒崎は、勤務地であるクリスタルタワーが突如隆起する事件に巻き込まれる。
仮面を被った男による事件の説明会の後、仮面の男が拳銃を持った男に脅されるのを見た2人は、協力して仮面の男を助ける。
仮面の男は、ドージェと名乗り、脅された経緯を説明する中で、隆起を仕組んだのは八騎士であると言うのであった。
「人間は何もせずには生きられないか、確かにそうかもな。
で、富の分配の基準とすべき成果には、労働以外の何かを使うってわけだ。」
黒崎は興味深げに、話した。
「ええ。
老若男女、貧富、場所、民族、思想、体力、諸々の違いがあったうえで、平等性を担保でき、かつ、明確に数字として結果がでるものが条件です。
それに、合致したものとして、あるオンラインの位置情報ゲームが採用されます。」
ドージェの言葉を聞いた黒崎が、暫くの沈黙ののち短く叫んだ。
「オンラインの位置情報ゲームだと。まさか。。
イングレスか!?」
意外な口調でドージェが、
「ご存じですか。その通りです。」
「なんと、ほんのこつ。」
白田と黒崎が顔を見合わせた。
2人は、懐からスマホを取り出し、いくつか操作した後の画面をドージェに見せ、
「俺たちは、2人ともイングレスのエージェントでな、
俺のエージェント名は、kurokirby。」
「おいは、shiroでごわ。」
仮面越しに驚きを見せるドージェは、2人のスマホ画面を見つめ、
「なんと!
お2人とも、エンライテンド。しかも、アノマリーメダル※1を持っているガチ勢。
こんな偶然があるとは。」
考え込む、ドージェに黒崎が、問いかける。
「俺たちが、エージェントであることはおいといて、まずは、あんたの話の続きが聞きてえ。
富の分配の基準とすべき成果として、イングレスを採用されるとしてだ、八騎士に何ができるっていうんだ。
あんたが、言った通りイングレスは誰がやっても平等に成果が得られると、俺も思う。
そういうゲームだから、俺も含めて大勢の人間が夢中になっているんだ。
八騎士の組織が如何に大きくても、他の者と同じように人数相応の成果しか得られない。
つまり、こんなことをしても大したメリットなんてねえ。」
「ええ。普通に考えればそうです。
しかし、彼らは、8つの塔を起点に世界を覆うCFを作るつもりなのです。」
白田は目を見開き、首を左右に振り、
「なんを言うかあ。
世界を覆うCFなんぞ、作れるはずがなかろうがあ。
世界中に存在する無数のポータルは、無数のリンクの存在を意味しもうす。
そんすべてのリンクをかい潜らねば※2、世界を覆うCFなど作れもさん。」
「8つの塔のポータルには通常ポータルとは異なる仕様があります。それを使えば、可能です。」
「通常とは異なる仕様だと?」
「高さの概念が適用されているのです。
それにより、既存のリンクと平面上は交差していても、より上方にあるリンクはひけるようになります。」
「つまり、8つの塔は高さの概念が適用されるポータルで、既存のすべてのリンクをかい潜って世界を覆うCFの起点になれるというわけか。
馬鹿げている。
仮に、瞬間的に世界を覆えたとしても、常に維持は出来ねえ。
富の分配は、一瞬のCFの大きさで決まるものじゃあないんだろう?」
「確かに。
富の分配は、チェックポイント時点※3のMUを元に計算されます。
黒崎さん、あなたの仰る通り、チェックポイントまでにCFを破壊すれば、何も手に入れることはできない。
しかし、8つの塔のポータルは破壊できない。」
※1.アノマリーメダル:INGRESSの背景となるストーリーに基づいた大規模イベントであるアノマリーに参加したエージェントに付与されるアプリケーション内メダル。
アノマリーに参加するエージェントは、概して”ガチ勢”と見られる。
※2.すべてのリンクをかい潜らねば:ポータルを結ぶリンクは交差することができないため、作ろうとするCFが大きくなるほどクリアしなければならないリンクが多くなる。
※3.チェックポイント時点:イングレスでは、エージェントが作成したCF(コントロールフィールド)の
中のMU(マインドユニット。フィールド内の人口)の数を、
レジスタンス(青)とエンライテンド(緑)の両陣営で競うが、
計測されるMUは5時間ごとに設定されたチェックポイント時点で存在するCFのMUである。