第43話 海底トンネル
【これまでのあらすじ】
鉄壁の男vahohoとともにCrystal Towerがある特区に繋がるという湖を目指し、三宮地下大空洞を進む和田美咲。
vahohoから自身と八騎士の関係を教えられ、共に湖に飛び込み中心の渦に呑み込まれるのであった。
渦の勢いは想像以上で、体の向きを制御することは出来なかった。ただ、教授に打たれた注射の効果か、水中にもかかわらず呼吸は出来ていた。
何度かの、急激な方向転換が繰り返されるうち、水の勢いが弱まり、手足を動かすことで、進む方向を自分で制御できるようになった。そのタイミングで、vahohoに腕を捕まれ、上に連れていかれる。淡い光が満ちている水面に近づき、空気に顔を出した。
vahohoが進む方向に泳ぐと、すぐに目線より少し上に出現した平らな床面に両手を着き、体を引き上げ上陸した。辺りを見回すと、円形に壁に囲まれ水面と床面が一対三くらいの割合のだだっ広い空間であった。壁面には無数の小型艇のようなものが、昆虫の卵のように格納されている。
「ここは?」
「恐らく、Crystal Tower 地下にあるドックだろう」
美咲の問いかけに、vahohoは応える。
「え、もうCrystal Towerに着いたのかよ? 特区のどこかに着くと思ってたよ」
「ああ。俺もそのつもりだったんだが、海底トンネルの分岐が想像以上に複雑で、こっちに着いちまったようだ。まあ、結果オーライだがな」
vahohoの回答に、やや呆れた様子で美咲が毒づいた。
「おいおい、大丈夫かよ。しっかし、あの海底トンネルは何のためにあるんだよ。それと、このドックの壁にある船みたいなの、何なんだ?」
「あれは、戦闘用小型潜水艇だ。ここから出航して海底トンネルを通って様々な場所に神出鬼没に移動できるらしい」
「様々な場所って?」
少し間を置き、vahohoは問いかけた。
「元寇は知っているか?」
「元寇? 日本史は苦手なんだよなあ。確か、ジンギスカンの孫のなんとかカンが、船の大群で二回日本を襲ったけど神風に襲われて逃げ帰っただっけ」
「ああ、大枠であっている。だが、おかしいと思わんか。日本にとって都合のいい”神風”なんてものが吹いて元の水軍を退けるなんてことがあり得るか? しかも、一度ならまだしも二度も。偶然で片づけるには、異常すぎるとは思わんか?」
「確かに、それは思ったけど、運がよかったんじゃねえの。それか、日本には神様が一杯いるから守られているとか」
「神様か。ある意味そうかもしれんな。
だが、実情はこうだ。ここから出航して海底トンネルを通った先の戦場で、元水軍を水中から急襲した小型潜水艇。それが神風の正体だ。予期せぬ水中からの襲撃に、さしもの元の大群も成す術なく、全滅したのさ」
「は? 何言ってんだよ! 元寇って九州が舞台だぞ。ここから九州まで海底トンネルが繋がってるっての? しかも、あの潜水艇がそんな昔からある訳ないじゃん! オーパーツ※1かよ!」
「ああ、信じられんのも無理はないが、海底トンネルも船団も悠久の昔から存在する。こいつを見てみろ」
vahohoは、一隻の潜水艇に近寄り、船体の一部が変色している部分を指さした。
「なんだよ、このへばり付いている白い貝みたいなのは?」
「アンモナイトの化石さ」
「そんなあほな」
到底信じられない話に唖然とする美咲をおいて、vahohoは壁面の奥にある扉に近づきボタンを押す。数十秒後、扉が開いた。
「おい、早く来い。こいつに乗るんだ」
「それは?」
「上階への直通エレベーターさ」
※1.オーパーツ:それらが発見された場所や時代とはまったくそぐわないと考えられる出土品や加工品などを指す。「out-of-place artifacts」を略して「OOPARTS」とした語。