第37話 音声認識
【これまでのあらすじ】
ウミエに遊びに来た際、怪しい二人組を見つけたたまごろうは、二人を追うためクリスタルタワーへ向かう。
激しい追跡戦の末、銃弾に倒れるが、体内のにゃんたろう、そしてアダムの能力で蘇生し二人組が向かった先で施錠された部屋を発見。謎を解き入室すると、部屋には、解釈不能な情報が表示されるディスプレイが据えられていた。
ディスプレイを操作する中で、どうにも腑に落ちない事柄をたまごろうは、思わず口にした。
「この塔は、恐らく今私がいるクリスタルタワー。でも、明らかに私の知るクリスタルタワーとは異なっている。これは一体どういうこと?」
『Crystal Towerは、現在フルボディモードとなっております』
意外なことに、あると期待していなかった回答が、ディスプレイから返ってきた。
「このシステムは、音声認識できるの?」
思わず、驚きの呟きを発するたまごろう。
『正規の手続きでログインされた方の問いかけに対しては、可能な範囲で回答いたします』
淀みのない音声で応える。
会話が成立すると判断したたまごろうは、問いかえる。
「クリスタルタワーのフルボディモードとは何?」
『Crystal Towerは、大部分を地下に残し一部のみを地上に現すハイドモードと、五百階すべてを地上に現すフルボディモードの二つの形態があります。直近の過去七二五年間ハイドモードでしたが、先刻コントロールポータルをフルデプロイされたことにより、フルボディモードに移行いたしました』
ディスプレイの語る途方もない話に、一時呆然とするたまごろう。
「今私がいる場所は?」
『四六〇階のセントラルコントロールルームです。地上1,840mに位置します』
その時気付いたことをたまごろうは、問いかける。
「ビジネスフロアにいた人達、いや、それだけじゃない。元々クリスタルタワーにいた人達はどうなったの?」
『フルボディモード移行直後に、館内案内を流し、四七〇階の隠しエレベーターから外に出るように促しました。大部分退去しましたが、それでも百名以上が残っています』
「なぜ?」
『彼らは、一度外に出ると戻れないことを気にしていたようでした。そのため出る際に持ち出すものの整理をしているようです』
「なるほど。日本人の職業意識の高さということか」
とにかく、残っている人も出られることは分かった。
「先ほど、七二五年という話が出たけれど、クリスタルタワーをいつ誰が建てたの? そして、何のためにこんな仕掛けを作ったの?」
『その回答は、口頭でするには入り組み過ぎています。メニューの2スラッシュ1スラッシュ1の文書を確認ください。』
たまごろうは、ログイン直後のメニューに表示されていた1から8までの数字を思い出した。ディスプレイが言っているのは、メニューにあった2の数字配下のことだろう。
「その資料を出してくれるかしら」
『分かりました』
回答の直後、ディスプレイにそれは表示された。