第34話 二列八行
たまごろうは開錠された扉の中に足を踏み入れた。その空間は、抑えられた照明のためか薄暗く、入った直後は全体の把握ができなかった。
暫く時をおくと、目が慣れ徐々に周囲が見えてきた。
正面に二十インチほどのコンソールが配備された広さ十畳ほどのオペレーションルームのように見える。
コンソールの前に置かれた不思議な形状の椅子に腰掛けたたまごろうは、ディスプレイに触れる。すると、ディスプレイが白く光り、その後七色に光が変化、最後に黒の背景に表のようなものとボタンが配置された画面が表示された。
表は二列八行。その下にボタンが配置されている。
表のほうにどう手をつけて見当がつかないたまごろうは、試しにボタンを押してみた。画面は、なにも変わらなかった。
たまごろうは、気付いた。
「これは、ログイン画面ではないのか。表にはIDとパスワードを入れるのでは? つまり八人分のIDとパスワードを」
もちろん、たまごろうは八人分のIDもパスワードも持っていない。
だが、その時たまごろうは閃いた。
「さっきのポータルのレゾネータのオーナー名では?」
なんの根拠もない。ただの思いつきに過ぎない。だが、それはなぜか確信に近かった。
あの時以来、たまごろうは、一度見たものは一枚の切り絵のように画像として記憶できるようになっていた。スマホで撮った写真を後から見直して確認することと同じことが自分の身一つでできるのだ。
先刻見たポータルのレゾネータの画像を頭の中から取り出し、レゾネータのオーナー名を一つずつテキストボックスの左側、恐らくID入力欄に入力した。
テキストボックスの右側、パスワード欄に何を入力するか? 暫く考えたたまごろうは、左側に入力したIDをそのままパスワード欄に転記して、ボタンを押下した。
画面が白く反転後、1から8までの数字が表示されている画面が現れる。
「ログインできた? これはメニュー画面か」
1を押す。
現れたのは、画像であった。縦長の塔の3D画像が表示されている。
塔の上方付近が赤く点滅しているので、スマホの要領でピンチアウトすると予想通りその部分が拡大された。拡大された画像は、塔の透過画像であった。
見知ったその構造は、今いる部屋、及び、その前にいた部屋と見て取れる。このことから、この塔の画像は、今いる場所であると推測できる。
だが。
「おかしい。クリスタルタワーは地上三十二階建てのはず。この塔の階数は軽くその十倍以上はある」
地下を降りているときにも感じた違和感がさらに大きくなっている。
疑問に思いつつ、現在地の画像をさらに拡大すると、黄色の枠で囲われている箇所がいくつか表示されていることに気付く。そのうちの天井の一つを押すと、スライダーが表示され、右に動かすと部屋の照明が上がっていく。左に動かすと落ちていく。どうやら、このメニューは塔の各設備を操作する機能を持つようだ。
さらによく見ると、椅子に淡い水色の人が座っているのが表示されている。たまごろう自身が表示されていると考えて間違いなさそうだ。
「人間、いや、生物を感知して、表示しているの? この仕組みは一体?」