第33話 決行の勅
「申せ。火よ。まがい物で無いとして、謀の根幹を揺るがすという所以を」
閣下の重厚な言葉には、柔らかいながらも抗し難い力があった。
力に屈した火は答えた。
「は。恐れながら、鍵の複製でございます」
「ほう。アダムとはそういうものか。確かに蟻の一穴になりえるものよ」
一言で本質を見抜く閣下の慧眼に、火の脂汗は濃くなった。
「火よ。よくぞ見抜いた。蟻の一穴が広がる前に、手をうっておけ」
「は」
「閣下、火が申した裏切り者についてはいかがいたしましょう」
黒の男が問うた。
「そちらは、金よ。火、そして月と諮ってうぬが手を打て」
「は」
金と呼ばれた黒の男が応えた。
「では、かねてからの取り決めに従い、決行ということになりましょうか」
金が恭しく意向を伺った。
「是なり。決行ぞ」
閣下が決行の勅を奉じた。
「決行なり」
「決行なり」
「決行なり」
「決行なり」
場が、静かに、満ちていく。
この先、どうなるのか。自分は、知っている。
動き出した歯車は、止まらない。
「決行なり」
「決行なり」
「決行。。。」
「やめろ!」
見覚えのあるサイエンスバーのテーブル席で、vahohoが、いつもの悪夢、いや変えられなかった現実の残照から目覚めた。
近くのテーブルから和田美咲が、呆気にとられた表情で、脂汗に濡れたvahohoを見つめていた。