第30話 開錠せよ!
たまごろうは立ち上がり、通路を通って、足音のしない男がいたほうに進んだ。
奥はカーブしていて、暫く進むと扉があり右に見覚えのある暗号入力コンソールがあった。
ディスプレイに「海」と表示されていた。深く考えず、たまごろうは「空」と入力。音もなく扉が開いた。
中央に奇妙なオブジェがおかれた30m四方の正方形の部屋に足を踏み入れた。
オブジェ以外、部屋には何もおかれていない。入ってきた扉のある壁の左手の壁中央にもう一つの扉があった。
たまごろうは、その扉の把手を回して引いてみたが、びくともしない。鍵穴も暗号入力コンソールも見当たらない。
「どうやって開けるのか」
この扉の向こうに何か重要なものがあると、自分の中の何かが訴える。その訴えに従い、扉の開錠に全神経を集中した。
やはり、怪しいのはあのオブジェ。近くから観察した。
細長い高さ2mほどの円錐があり、その周りに小さな精巧な機械のようなものが8個等間隔に円状に配置されていた。
初見から、既視感を覚えていたたまごろうは、近くで見て何かに気付き、小さく呟いた。
「イングレスのポータル?」
たまごろうは、ポケットからスキャナーを取り出し、イングレスを起動した。
予想通り、目の前のオブジェはポータルで、青のP8であった。
「あの二人がキャプチャした? でもそれだと、P7にしかならないはず※1」
首をかしげながらも、ポータルのオーナー名とレゾネーターのオーナー名を記憶した。
MODは、見たことが無いシールド※2とリンクアンプ※3であった。
何本かリンクが張られ、CF※4が作られ、辺りは青で沈んでいた。
確信があったわけではなかったが、たまごろうは、ジャービス※5で青ポータルを緑に反転した。
反転後たまごろうは、鍵のかかった扉に歩みを進める。1mの距離まで近づくと、戸惑うくらいあっけなく扉が開いた。
※1.P7にしかならないはず:一人のエージェントが一つのポータルにデプロイできるレゾネーターのレベル別上限数は、レベル8:1本、レベル7~5:2本、レベル4~2:4本、レベル1:8本である。
このため、一人のエージェントが一つのポータルにフルデプロイする場合の最高レベルはレベル8:1本、レベル7:2本、レベル6:2本、レベル5:2本、レベル4:1本の構成でP6である。
二人のエージェントが一つのポータルにフルデプロイする場合の最高レベルはレベル8:2本、レベル7:4本、レベル6:2本の構成でP7である。
P8を作るには、レベル8以上のエージェントが8人必要である。
※2.シールド:ポータルの防御力をを上げるMOD(ポータルを強化するアイテム)。MODは1ポータルにつき、4つまで設置可能。
※3.リンクアンプ:ポータルのリンク距離を延ばすMOD。ポータルのレベルごとにリンク距離は決まっているが、リンクアンプを設置することで伸ばすことができる。
P8のリンク距離は655km。ベリーレアリンクアンプを4つ設置したP8のリンク距離は6,878kmである。
※4.CF:3つのポータルをリンクで結んだ三角形。対象をCFで囲むことを、イングレス用語で「対象を沈める」と表現する。
※5.ジャービス:破壊することなくポータルの色を反転するウイルスの一種。レジスタンス(青)のポータルをエンライテンド(緑)のポータルに反転する。
逆にエンライテンドのポータルをレジスタンスのポータルに反転するウイルスをエイダリファクターと呼ぶ。