第3話 仮面の女
黄昏時、西日さすベッドに狐の面を被った女が横になっている。彼女の名はたまごろう。自己紹介の際、必ず聞き返される一風変わった名前だ。名前の由来、および、室内でも仮面を被っている理由に関しては、今後おいおい明らかになっていくであろう。
~仮面の女~
ベッドで横になっていると、音もなく近づいてきたにゃんたろうが、お腹に乗ってきて両前足で”ふみふみ”してくる。猫ちゃんは、甘えたい気分になると、子猫時代を思い出して両前足で交互に柔らかいものを押す習性があるみたい。これを”ふみふみ”と呼んでいる。
人間のお腹に対して、”ふみふみ”をするのは信頼している好きな人に対してだけってネットで読んだときは、自然と顔がにやけてしまった。
にゃんたろう、オス、マンチカン、キジトラ、4.2kg、今年8才。
もう8才かあ。その割に、甘えん坊だなあ。でも、そこがかわいいんだよなあ。
口角が上がって笑った顔に見えるにゃんたろうが一心不乱に私のお腹を”ふみふみ”しているのを見ながら横になるのは、最高の幸せだ。
そんなことを考えながら、にゃんたろうの笑顔を見ていると、突然すぐ近くから声がした。
「たまごろう」
え、今誰か呼んだ? 今家には誰もいないよ。にゃんたろう、お前なの?
なんと、にゃんたろうが、頷いた。
えーー。
ありえないよ。思いながら、次第に意識が遠くなってきた。
「たまごろう」
霞がかかった部屋の中、目の前で、若い男性が話しかけてくる。
「にゃんたろう?」
男性が頷く。
なぜか、私はその男性がにゃんたろうであることがすぐに分かった。
「聞いて、たまごろう。なんでこうなったのか僕にもわからない。これから僕らがどうなるのかも。でも一つ言えるのは、僕はたまごろうのことが大好きってこと。このことを伝えられて嬉しいよ」
「にゃんたろう。私もにゃんたろうが大好きだよ」
暖かいものに包まれて、幸せな気分に満たされていく。
僅かに小さな音が聞こえたのがいつのことか定かではない。ただ、今はその音が当たり前のように聞こえている。音は次第に大きく、はっきりと感じられてきた。音の正体に気づいたとき目を開いた。
音は、スマホの目覚まし音だった。
夢? にゃんたろうは?
周りを見回しても、にゃんたろうはいない。
胸騒ぎがする。
「にゃんたろーーーー」
呼んでも、姿をあらわさない。
たまごろうの狐面の両目部分が涙で濡れている。無意識にたまごろうは、泣いていた。