第27話 魔界の王
【これまでのあらすじ】
真実を探るため、Crystal Tower を登るバイオとグリ。
一階の激闘をくぐり抜け、ついに二階に到着。そこには、三本のエフコムのカセットが用意されていた。三階に上がるには、これらを二十四時間以内にクリアする必要がある。一本目のスーパーキノコを五時間でクリアしたバイオは、余勢をかい、二本目の魔界の一族に挑むのであった。
魔界の一族は、六つの面の六人の大将を倒し、七面の魔王を倒す。この流れを二周するとクリアとなる。二周目は一周目より、難易度が上がっている。
一周目を見ていることで、グリも、二周目で起こることの予測がある程度出来ていた。だが、六面で、予測が外れる事態が起きた…
六面の大将の部屋の手前で、三面と四面の大将ドラゴンと三度目の決戦を行う。その間隙に、魔王を倒せる唯一の武器、退魔の剣をゲットする必要がある。
決まりきったはずのルーティーン。だが、、退魔の剣が出るはずの壺から出たのは、斧であった。その瞬間、それまで一切淀みの無かったバイオの表情と、分身であるアレクサンドルの動きに戸惑いが表れたのをグリは、見逃さなかった!
「HEY、バイオ! そこは、退魔の剣が出るんじゃあないのか!?」
数瞬の沈黙の後、ドラゴンを倒し、六面の大将サターンと戦いながら、バイオは、震える声を絞り出した
「流石だな。気付いたのか、グリさん。。どうやら、まずいことになったようだ」
「What? 何が起こっているんだ!」
「エフコム版の魔界の一族には、あるバグ(英語で「虫」の意であり、転じてコンピューターの誤りや欠陥を表す。)があるんだよ」
「bugだって?!」
「そう、一定の確率で、二周目の六面で、退魔の剣が出ないというバグだ」
「What! 二周目の六面?ジャストナウじゃないか! それが、この状況で起きただって?!
そ、それで、リカバリーは、ポッシブルなのか?」
沈黙のあと、バイオは、声を絞り出した。
「通常、このフラグがたつと、この後何周しても、退魔の剣が出たという報告は聞いたことは、ねえ」
「つまり、リセットして、やり直すしかないと。。」
エフコム通信読者コーナー“自治会“伝説のハガキ職人と呼ばれたバイオでも、二十年のブランクは大きく、ここまで何度もゲームオーバーを繰り返していた。また、魔界の一族は、コンティニュー機能が無いため、ゲームオーバーのたびに、一周目からやり直し、十時間で、どうにか、ここまでたどり着いていた。
グリは、心の中で呻いた。
「インポッシブルだ。今から、やり直すなんて、時間的にも、バイオのハート的にも。。」
青ざめるグリに、バイオは、冷静に力強く言った。
「やり直さねえ。このまま進める!」
「What?! このまま進めるだって? このまま進めても、退魔の剣は出ないのだろう? なら、やり直すしかないじゃあないか」
「確かに、今まで、この状況で、退魔の剣が出たという報告例はねえ。だが、グリさん。知っているか。三十年前のゲーム“ロマンティックヒストリー“の隠し奥義が、先月発見されたことを。つまり、報告例が無いだけで、出ないと確定した訳じゃあねえ」
サターンを倒し、五面に戻されたバイオは、最初のカラスに接触し、裸になり、復活後、すぐに再びカラスに接触し、一機失った。唖然とするグリを尻目に二機めを失い、最後の三機めも裸になっていた。
「バ、バイオ、、どういうことだ。やはり、やり直すつもりなのか」
だが、バイオは、最後の裸のアレクサンドルを、すれすれの見切りで、攻撃をかわし進めていた。
「今まで、おれは、余裕を持ってプレイし過ぎていた。このフラグを終わらせるには、背水の陣をしき、生と死の狭間を進むしかねえ」
グリが時に目を背ける程のきわきわのプレイを続け、再び六面のドラゴンの間に達したバイオ。ドラゴンの火炎を紙一重で交わしつつ、壺を開けた。
が、出てきたのは、ナイフだった。
「オー、マイガッ!!」グリは、天を仰いだ。
「グリさん、諦めるのは、早いぜ」
「What?」
グリは、目を疑った。武器欄に、退魔の剣が表示されていたのだった!!
「バグ状態だ。こういうことは、あり得る!」
ドラゴン、サターン、魔王を倒し、姫を救出するエンディングを横目に頬を伝う脂汗をぬぐいながら、バイオは、言った。
「この塔を登るには人間力が必要だという意味が、分かったよ。ただの腕自慢には、塔の試練は越えられねえ。自分自身を超えようとするもののみを、塔は受け入れるのだな」