第23話 鉄壁の秘密
【前回までのあらすじ】
謎のエージェント大仏に師事し、その才能を開花させる女子高生エージェント 和田美咲。秘技廃人重ね撃ちを習得し、国内屈指のエージェントへと成長した。だが、鉄壁の男と呼ばれるエージェントvahohoによって、秘技は破られた。vahohoは、美咲を獄炎の弟子と呼ぶのであった。
「獄炎? 獄炎って何だよ?」
戸惑う美咲に、vahohoは、静かに応じた。
「お前に、業を教えた男の通り名さ」
「へ、大仏のこと? 大仏ってbotじゃなかったのか。。」
それを聞き、vahohoの表情が動いた。
「なんだと、会ったことがないのか? まさか、グーグルチャットで業を、教えられたのか」
「ああ、てっきりチュートリアルの一つだと思っていたよ」
「何を言っている。お前は、今まで、自分以外に廃人重ね撃ちを使うやつに会ったことがあるか?」
「わかんねえよ。あたしは、リチャ※1とかわんこ※2とかしたことないからさ」
「なんだと。。」
『こいつは、本当に生まれたままのようだ』
vahohoは心の中で苦笑した。
「リチャとわんこって言ったら、おっさんのあれ、どうやってんの? あたしの廃人重ね撃ちは、三人の防御を破ったし、今まで、一対一で負けたことなんかなかったのに」
「あれはな、」
vahohoは、誇らしげにポッケから、スキャナーを取り出した。どこにスペースがあったのか四台あった。それを、でかく無骨な両手に器用に二台づつ持って目にも止まらぬスピードで操作し、叫んだ。
「一人で四台のスキャナーを同時に操作し、それぞれのスキャナーで、リチャ、レゾわんこ、リチャ、イージスわんこを駆使し、防御する。これが、俺の業の秘密よ!」
美咲は、驚愕し、呟いた。
「そ、それって、、、
複あか※3じゃん。。」
「ん」
「かっこつけてっけど、エージェントプロトコル※4違反じゃん。通報※5しちゃる。。」
言うか言わないか、vahohoの鉄拳が、美咲のあごを捉えた!
「バカヤロー!」
吹っ飛ばされた5メートル先で、踞る美咲に、怒鳴った。
「プロトコルに囚われるんじゃねえ!
何をすべきか、すべきじゃないか、守る物はなにかを決める指標は自分で決めるんだ!
教えてやる。俺の判断基準は、情・理・法だ!」
あごを抑え、流れる鉄の風味を味わいつつ、美咲は訊ねた。
「ば、ばかな。つまり、情の部分に触ることや、合理的なことは、法律を犯しても実行するということか。。」
柔らかな笑みを浮かべvahohoは答えた。
「ほう、満更ばかではないということか。そうだ、お前の言う通りだ。これからの戦いに、必要なものをお前は、今理解した」
「理解はいいけどよ、おっさん、そんなことしてて、よく今まで、ばれなかったな」
「それはな、」
vahohoは、誇らしげに四台のスキャナーを美咲の眼前に突き付けた。それぞれのエージェント名が、vahoho、vahoh0、vah0ho、vah0h0 となっていた。
「焦ってるやつには、同じアカウントに見えるだろうさ」
「せこ。。あ、でも、後で見られたら、バレるだろ」
「ふ、俺は、目的がすんだら、反転※6するようにしているのさ」
「あ! あのとき、反転したのは、それでか! てっきり、何か教える的なヤツかと思ったのに。。。 サイテーだな。おっさん」
「大義のためだ」
過去の苦い思いとともに、遠くを見つめ、vahohoは呟いた。
※1.リチャ:リチャージの略。リチャージはレゾネーターのダメージを回復することでポータルの破壊を防ぐ防御方法。
※2.わんこ:攻撃を受けているポータルで、レゾネーターが破壊されたら、即レゾネーターをデプロイし、シールドが破壊されたら、即シールドをデプロイし続けることで、ポータルの破壊を防ぐ防御方法。
食べて食べてもソバが追加される「わんこソバ」が語源とされる。レゾわんこは、レゾネーターのわんこ。イージスわんこは、最高強度のイージスシールドのわんこ。
※3.複あか:一人のエージェントが複数のアカウントを保持すること。
※4.プロトコル:エージェントプロトコル。エージェントとしてのあるべき振る舞い、心構えを規定したルール。複あかは位置偽装と並んで、プロトコルで禁止される二大違反行為である。
※5.通報:イングレスでは、プロトコル違反を疑われるエージェントを通報する仕組みがある。通報する際はエビデンスを添付する必要がある。運営が通報内容が妥当であると判断すれば通報されたエージェントはあかBAN(アカウント停止)される。
※6.反転:レゾネーターを破壊することなくポータルの色を反転するウイルスという武器が存在する。ウイルスには二種類ある。レジスタンスのポータルをエンライテンドのポータルに反転するジャービスウイルスとエンライテンドのポータルをレジスタンスのポータルに反転するエイダリファクターである。反転するとポータルのオーナーは原則、反転したエージェント名となる。ただし、レジスタンスがジャービスウイルスでエンライテンドポータルに反転した場合はオーナー名は”_JRAVIS_”となる。逆に、エンライテンドがエイダリファクターでレジスタンスポータルに反転した場合はオーナー名は”__ADA__”となる。
今回の場合、vahohoは、ジャービスウイルスでエンライテンドポータルに反転したためオーナー名が”_JRAVIS_”となり、誰が反転したか分からなくなる。