第21話 皇帝と呼ばれた男
【前回までのあらすじ】
真実を探るため、Crystal Tower を登るバイオとグリ。
一階の激闘をくぐり抜け、ついに二階に到着。そこには、三本のエフコム※1のカセットが用意されていた。三階に上がるには、これらを二十四時間以内にクリアする必要があるとグリは言うのだが。。。
ー師よ、我らは知る、なんじは眞にして、眞をもて神の道を教へ、
かつ誰をも憚りたまふ事なし、人の外貌を見給はぬ故なり。
されば我らに告げたまへ、貢をカイザルに納むるは可きか、惡しきか、如何に思ひたまふ。ー
[マタイ伝22章16節]
「二十四時間以内にクリアできなければ、どうなるんだ」
最も気になることをバイオは、尋ねた。
「三階に上がるドアを開くために、一度リセットしなけらばならなくなる」
「リセット?」
「二階の入口の開閉だ。つまり。。」
「つまり、もう一度、一階の闘いをくぐり抜けなければならないのか!」
「ザッツライト! あの、ドーベルマンのメンが、てぐすね引いて待っているあの地獄にもう一度戻るのさ」
「じ、冗談じゃねぇ。。なんとしても、クリアしなければ。だが、リュウクエ2※2が。。」
「バイオ!! 思い悩んでいる暇は無いぞ! まずは、ワンステップずつだ。リュウクエのことは、ミーに任せておけ! ユーは残り二本を片づけるんだ」
「何か策があるんだな! わかったぜ。まずは、スーパーキノコ※3からだ! 五時間で片づける!」
バイオは、燃えていた。上を目指すために。そして、かつての自分を超えるために。
テレッテーテレッテー!
懐かしい旋律が、バイオの本気に火をつけた。
「滾るぜ」
バイオの全身を薄蒼い焔が覆っていた。そして、最初のステージが始まる。
グリは、その光景が現実のものとは思えなかった。人間離れした反射神経と先読み能力。それを駆使し、ノーミスで最終ステージに達していた。
そして、、、
「ジ・エンド」
画面には、姫と抱擁を繰り返すひげ男の姿が大写しとなっていた。開始からジャスト五時間。バイオの宣言通りのクリアタイムであった。
「グレート! グレート! グレート! バイオ、ユーがここまでやるとは、、」
珍しく興奮するグリに、バイオは、冷静に呟いた。
「グリさん、まだ、一本終わっただけだ。本当の勝負はこれからだぜ」
「あ、ああ。ザッツライトだ。しかし、ユーは、、本当にたいした奴だ」
「次、魔界の一族※4」
「バイオ、アーユーオーケー? 魔界の一族は、エフコムの中でもとりわけディフィカルトと聞く。勝算は?」
わずかの不安をグリが口にした。
「フッ、誰に言っている。俺は、かつて、エフコム通信※5自治会コーナーで皇帝と呼ばれた男だぜ!」
「ファ、ファット! な、なんだって! エフコム通信の伝説のお化け読者コーナーである、エフコム通信自治会で皇帝と呼ばれていただと! ハッ! マ、マサカ、あの自治会の皇帝と呼ばれた”今夜はさいこう”はユーなのか!」
「フフフ、知っていたのか。昔のことだよ」
バイオの秘められた過去に驚愕するグリであった。
※1.エフコム:1980年代に発売された家庭用ゲーム機。家に居ながらゲームセンターと同じゲームが出来るとの触れ込みで、爆発的売れ行きを記録した。
ハードの制限のため、現代から見るとグラフィックは劣っているように見えるが、限られた性能の中にクリエーターの知恵と技術が詰め込まれたソフトは現代でも根強い人気を誇る。
※2.リュウクエ2:エフコムの代表的なソフト。エフコム初のオリジナルタイトルのロールプレイングゲームであるリュウクエの続編。あまりの人気に予約が出来ず、発売日当日、店の前に徹夜の行列ができたことで社会現象にもなった。
※3.スーパーキノコ:エフコムの代表的なソフト。横スクロール複数面クリア型。主人公のひげ男を操作して、囚われの姫を救い出すアクションゲーム。
※4.魔界の一族:エフコムの代表的なソフト。横スクロール複数面クリア型。主人公の騎士を操作して、囚われの姫を救い出すアクションゲーム。
※5.エフコム通信:日本の家庭用ゲーム雑誌。エフコムに限らず、各種ゲームの紹介、攻略法を掲載。また、読者コーナーである”自治会”はカリスマ的人気を誇り、常連のハガキ職人は、ゲーム業界にとどまらず各界で活躍している。