第20話 邂逅の夜
【前回までのあらすじ】
空海の再来と呼ばれる空湖、空山、空河のレジスタンス三人衆をたった一人で撃破した和田美咲。エンライテンドのオペレート・デスアイランドは成功した。
かのように見えたのだが、、、、
「こちら、美咲。港公園落としたよー。これで、リンク引けるはずー」
「美咲ちゃん、GJ!
・・ん! いや、ちょっと、待って。ダメだ! 別のリンクが淡路島にさっき引かれて、引っかかる!」
「どっからだよ!」
「すぐ近く。そこから、東に200メートルの港東公園」
「分かった。切ってくる! なめんなっつーの!」
途中の自販機でドクターペッパーを購入し、攻撃性を増した美咲が、港東公園に、着いたのは二分後だった。
CPまで後二十分。
静寂に包まれた公園。だが、美咲は、気配を感じていた。
「いるな。この気配、、、相手は一人か。ふふん、十秒で、終わらしちゃる」
スキャナーを取りだし、構えに入った。
「食らえ! 秘技H・J・K・U(エッチ・ジェー・ケー・ユー)ーーー!!」
絶叫し、教えを受けて以降、実戦の中で磨いてきた廃人重ね撃ちを、繰り出した。
鬼道三人衆の防御技を撃破した必殺技。たった一人の防御など、紙を焼くように突破する。
だが、、、
「なにーー! どうなってんだよ! イージスも、レゾも減ってねー。 タイミング間違ってる? いや、完璧だ!」
寒空の中、滝の汗を流して美咲は、撃ち続けた。
だが、、、
「そんな。。バースターが尽きた。。。※1 たった一人に負けた。。みんな、ごめん」
崩れ落ち、呆然とする美咲の前に、作業着を着た男が、音もなく現れた。
「なぜ、攻撃をやめる?」
バリトンボイスで沈む美咲に問いかける。
消沈の美咲は、消え入るような声で
「バースターが切れた。。。」
言うか言わないか、作業着の男の右手が、美咲の胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「馬鹿野郎ーーー!」
男の容赦の無い拳が美咲の顔面を撃ち抜いた!
飛んだ。5メートルは、吹っ飛ばされた。唖然と男を見つめる美咲に、男は、憤怒の表情で、怒鳴り付ける。
「甘ったれるな! バースターが切れたなら、何故、ハックしない! 何故、石にかじりついてでも破壊しようとしない! 何が、H・J・K・U(エッチ・ジェー・ケー・ユー)だ! そして、」
男はスキャナーを取り出した。
無線から興奮した声が鳴り響く。
「美咲ちゃん、反転※2 GJ ! 作戦成功だ!」
戸惑う美咲
「え、反転? 免疫※3はなかった。。」
男は言った
「そして、何故、あらゆる可能性を考慮しない」
何故か、厳しさの中に僅かな優しさが含まれていた。
「あ、あんたが反転を? 何故。。」
「おれは、お前を見にきた。お前が、あいつの言うほどのエージェントかどうかを。とんだ甘ちゃんだったがな」
男は心の中で続けた
『・・だが、確かに素質はある。この才能を延ばせれば、あるいは。。』
「あいつって? おっさん、あんた誰さ」
「おれの名はvahoho。よろしくな、あいつ、いや、 獄炎の弟子の和田美咲よ」
鉄壁の男vahoho、そして、 獄炎を継ぐ者 和田美咲。運命の歯車が、廻り出したのはこの夜であった。
※1.バースターが尽きた:イングレスにおいて、一人のエージェントが保持できるアイテム数には上限がある。
上限数2,000を超えるアイテムを持つことが出来ないため、エージェントは必要なアイテムを上限数の範囲内で計算して持つ必要がある。アイテムの構成はエージェントの特性によって異なる。
破壊系エージェントの場合は、バースター等武器系のアイテム数が多くなり、構築系エージェントの場合は、キー、レゾネーター等構築系アイテム数が多くなる。
※2.反転:ポータル攻撃の武器は、基本レゾネーターを破壊するバースター、ウルトラストライクである。
例外として、レゾネーターを破壊することなくポータルの色を反転するウイルスという武器が存在する。ウイルスには二種類ある。レジスタンスのポータルをエンライテンドのポータルに反転するジャービスウイルスとエンライテンドのポータルをレジスタンスのポータルに反転するエイダリファクターである。
※3.免疫:ウイルスを使って反転されたポータルは反転後一時間は再反転できない。この性質を利用し、反転されたくないポータルをあらかじめ反転しておくことで一時間再反転されないようにすることを「ポータルに免疫をつける」という。