第15話 十人の侍
「あの十人知り合いなのか?」
「いや、ストレンジャーさ」
「何! 知り合いでもない奴等がどうして、俺達のためにわんこ※1してくれるんだ! 何のメリットもないのに」
「ドンマインド! まあ、まかせておけ」
焦るバイオを安心させるためか、優しく肩を叩いてグリはささやいた。
グリは、おもむろに揃いのユニフォームを着た十人に近づき、リーダーとおぼしき大男に話しかけた。
「HEY! ユーたち、取引しないか!」
ドーベルマンをつれた大男は、怪訝な顔で吐き捨てた。
「取引だと? 胡散臭いな。失せな」
グリは、怯まず
「ヒュー! クールだな。あんた、気に入ったよ。あんたに譲ってやるよ。これを拾いな!」
『ウゥー!』
ドーベルマンが反応した。
その位置にあったキーを拾った大男は、震えながら呟いた。
「こ、こいつは、ま、まさか」
「オフコース! 目の前のあれのキーさ。これがあれば、あんたらもここを突破できるだろうさ」
「ヌウ! 取引と言ったな。見返りはなんだ。俺達は何をすればいい」
「ミー達を先に二階に上げて欲しいんだよ。つまり、ミー達が、キャプチャ※2した後、二階につくまで、わんことリチャ※3で維持してほしい」
「くくくく、あんたバカか。鍵が手に入ったのに、あんたらを先に行かせる訳ないだろーが。これは、俺達が先に上がるために使わせてもらうぜ。鍵を渡す順番を間違えたな!」
大男は、仲間と笑った。
「Oh ! 残念だ。交渉決裂か。なら、キーを全部ばらまくか! これで、オールが同じ条件になるな。フェアってものさ」
「な、何! 全部だと! キーは一本じゃねえのか!」
「ハンドレットはあるぜえ。さて、端から端までドロップするか」
「ま、待て! 分かった。あんたの言うとおりにするから、早まるな!」
「オーケー! 契約成立だ。まず、あんたが、キーでポータルを開いてその状態でキーをドロップして、仲間に回していくんだ。全員が、ポータルを開けたら、スタートとする。オーケー?」
「分かった。おい、お前ら! 聞いてたな。回すぞ」
「分かった、親分!」
「分かったぜ、親父!」
十人の男達は、キーを回しつつポータルを開いた。
バイオとグリ、そして十人のレジスタンス※4の男達は、力を合わせ、バイオにキャプチャさせた。バイオとグリは、階段かけあがり、すんでのところで、扉を開けた。
次の瞬間ポータルは、緑に変わった。
扉が、閉まる寸前グリは、大声で叫んだ。
「サンキュー! ユー達! このポータルのキーは有効に使ってくれ!」
扉が、閉まった後グリは、薄ら笑いを浮かべ、
「これで、ゼムは命懸けのキーの奪い合いに巻き込まれる! くくくく、あーはっはっはっはーー!」
「グ、グリさん、あんた。。」
※1.わんこ:攻撃を受けているポータルで、レゾネーターが破壊されたら、即レゾネーターをデプロイし、シールドが破壊されたら、即シールドをデプロイし続けることで、ポータルの破壊を防ぐ防御方法。食べて食べてもソバが追加される「わんこソバ」が語源とされる。
※2.キャプチャ:中立化された白色のポータルをデプロイすることでポータルを所有すること。
※3.リチャ:リチャージの略。リチャージはレゾネーターのダメージを回復することでポータルの破壊を防ぐ防御方法。原則リチャージはエージェントの40m円内のポータルに対してのみ可能だが、ポータルキーを保有している場合は40m円外のポータルのリチャージも可能。
※4.レジスタンス:イングレスの陣営の一つ。バイオ、グリはともにレジスタンスのエージェントである。なお、レジスタンスがキャプチャしたポータルの色は青、敵陣営であるエンライテンドのポータルの色は緑。