第11話 追跡、闇へ
「それにしても」
非常階段をかけあがりながら、たまごろうは考えた。
「それにしても、あの二人何者だろう」
足音のたてない歩き方。
階上から人間の頭を蹴り抜く正確性。
そして、それを躊躇なく実行する残虐性、いや、すこし違う。
事務的に実行していたのだ。それが逆に怖い。
そして、自分のことも。
何故、あの蹴りをかわせたのか。
何故、二人を追いかけねばならないと思ったのか。
分かっているが、分からない。私の中のもう一つの意思だ。
あの時以来、もう一つの意思が時折、私自身を押しのける。
「!!」
たまごろうの思考が止まった。
追っていた、匂いが消えたのだ。
正確には、上への匂いが消えた。
目の前の扉の向こうに変わったのだ。
慎重に扉を開けた。
幾人かのスーツ姿の若者があるいている。
ビジネスフロアのようだ。
たまごろうは、赤のホットパンツにボーダーのシャツ、そして狐のお面。
浮きまくっている出で立ちだが、誰も彼も仕事に忙殺されているためか、怪しまれない。たまごろうは、関係者を装いクールに匂いを追った。
匂いは、男子トイレに続いていた。入ったとき、一人の男性が、用を足していた。たまごろうを見て驚愕の表情を見せたが、意に介さず「失礼」と声をかけ個室に入ると、
「お疲れ様です」と言って出ていった。
個室の天井のメンテナンス用の蓋を開け中に入った。20メートルほど進むと、下に向けての階段があった。下は見えず、どこまで降りるのか見当がつかない。
だが、匂いは下からだ。
たまごろうは、漆黒の闇の中をおりた。