ファンノベル:如何屋サイと様
物書きVTuber「如何屋サイと」様のファンノベルです。
はい。ファンノベルです。このお話はフィクションです。きっと、おそらく、メイビー。
ご本人様はVTuberとして読書配信を行われています。
主に応募されて来た小説などを読み上げ、その感想を述べるといった配信内容です。
リスナー参加型配信なので、気になった方は下記URLから配信をご覧ください。
https://www.twitch.tv/sait3110c?sr=a
(URL添付に問題がある場合はこの部分だけ削除させて頂きます)
これはただの都市伝説。
人々の間で語られる、ただの噂話の一つである。
路地裏、袋小路。空が四角く切り開かれた、しかし閉ざされた空間。
当たり前のように人気のない場所に、しかし一組の男女の姿があった。
スキンヘッド、190cmはあろうかと言う巨躯に、筋肉隆々の体つき。
上半身は素肌に黒のレザージャケットを羽織っており、下半身は擦り切れそうなデニム姿。
その男は、両手を路地の壁に着いて、獲物が逃げられないように立ちはだかっている。
対するは、小柄な女性。背中まで伸ばしたストレートの黒髪、整った愛らしい顔立ち。白のワンピースは可憐さを引き立てているが、この場に相応しいかと問われれば、否であろう。
少女が不注意にも男にぶつかってしまい、絡まれた挙句の逃走劇。その終端の場面である。
「ウェッヘヘ。もう逃げらんねぇなぁ?」
男の下卑た笑いに、少女が身を竦める。怯えきった彼女のその瞳に、不意に人影が写った。男の後ろに、誰かがいる。
「すみませーん。何やってんですか?」
現れたのは少年。紫の髪にキャスケット帽を被り、黒のインナーシャツの上から紫のパーカーを羽織っている。膝下までの丈の黒いズボンが少年らしさを現している。
かけられた赤縁の眼鏡の奥に光る目は、男たちをしかと捉えていた。
この状況に相応しくない、呑気な声色。状況を理解出来ていないのだろうか。
「その人、嫌がってますよね? そういうのやめません?」
「アァ!? なんだテメェ! すっこんでろ!!」
「いやー。見かけちゃったからには、声くらいかけないと。人としてって言うか……ね?」
言いながら微笑む。その姿は正しく無邪気な少年のようで、しかし確かな意志の強さを秘めていた。
一瞬たじろぐ男。しかし、相手は自分より小さな少年だ。一瞬とは言え気圧されたことに恥じ、それを隠すように憤る。
「うるせぇぞガキが!!」
大きく右拳を振り上げ、少年に殴り掛かる。
この体格差だ。当たれば一溜りもないだろう。
当たれば、だが。
「……仕方ないな」
小さく呟き、眼鏡を懐にしまう。迫る拳、その光景に、笑う。
『震脚』
凄まじい勢いで踏み込み、路面を踏み抜く。次いで右の掌で男の拳を受け流した。
『頂心肘』
流れるように男の懐に入り、右肘を鳩尾に突き立てる。突然の衝撃に男の体がくの字に曲がった。
『連環腿』
振り上げられた少年の左足が男の顎を捕らえ、留まることなく連続で繰り出された右足の蹴り上げ。男の体が、浮いた。
作り出された隙。深く息を吸い、震脚。
生み出された力は体の中で余すことなく流れ、背中から男に体当たりを放つ。
『鉄山靠』
路地裏に走る衝撃、轟音。少年の外見からは想像も着かないような威力をもって、吹き飛ばされた男は少女の横を抜け袋小路の壁に叩きつけられた。
既に男の意識は途絶え、ずるりと崩れ落ちた。
「……え?」
呆気に取られた顔で男と少年に視線を迷わせる少女。
少年は彼女を意に介さず、赤縁をかけ直し、優しげに微笑んだ。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい! あの、貴方はいったい……?」
「如何屋サイと。通りすがりのただの物書きですよ」
「物書きって……そんなに強いのに!?」
「え? だって」
不意に見せた笑い顔は、先程までの柔らかな物ではなく、まるで獰猛な肉食獣のようで。
「物語に出したモノを物書きが再現できない訳が無い」
そう、言い放った。
ぞくりと、少女の背筋に悪寒が走る
「じゃあ俺は行きますんで。救急車を呼んでやった方がいいですけど、そこはお好きにどうぞ」
再び柔らかな表情で話しかける少年。少女が慌ててスマートフォンを取り出し、119番をタップしていると。
気が付けば、少年の姿は影も形もなく消え去っていた。
路地裏に響くコール音。呆気に取られた少女。崩れ落ちた男。
その場に残されたのは、ただそれだけだった。
これはただの都市伝説。
人々の間で語られる、ただの噂話の一つである。
八極拳なのは作者の趣味です






