プロローグ
こんにちは、なろう初心者まといけ よしみつ です!
初作品となります、こちらの物語ですが、かなり長くなる(予定)のですが、そのくせに執筆速度はびっくりするほど遅いです…。
また、なろう初心者ですので機能面や文章面など、様々な所で至らない部分があるかと思いますので、皆様からのご指導ご鞭撻を賜りたく存じます。
ずっと温めてきたお話です、少しでも多くの方に読んでいただけたらと思います!
では、よろしくお願いします!
───1990年10月5日 午前0時10分
冷たい夜風が、疾駆する私の体を突き抜けてゆく。普段なら心地よく感じるはずの秋風も、今の私にとってはただの向かい風、煩わしいことこの上ない。
夜風に歌わされ、葉や木の枝がさざめき合う音が響く秋の山の中を1人、ひたすらに駆けてゆく。
「荒神部 遙」。それが私の名だ。こう名付けてくれた父はこの名前の由来をなんと言っていただろう。
空には煌々と光る黄金の月。今は『前だけを向け』と、木々の頭から時折顔を出しては、夜の山を駆け上がる私を照らしてくれている。息をつく暇など必要ない。今はただ、「目標」に向かって足を動かすのみだ。いくら夜闇に目が慣れるといっても、足元の悪い山中では些か不安もあるし、実際今はかなりのスピードを出して木々の合間を縫い走っているので、この秋晴れの夜空ばかりはありがたいとしか言いようがない。
入山しておよそ10分。未だ目標は目には入らないが、確実に近づいている気配は感じる。発せられる「邪気」と「魔力」を辿って闇を進む。……もうじき
。もうじき、目標と相見えることが出来る。
『あの山に悪魔の気配と、魔力を感じます』
そう、彼女から事務的に、淡々と告げられ私はその山に向かう。
ただただ悪魔を狩る。それが、私に出来る唯一の恩返し、親孝行だ。
◇
───「悪魔」。それは人間の心の脆弱な部分、醜く厭らしいとされる「負」の側面から生み出された忌むべき存在。主食、人肉。基本的に自身の魔力を供給、回復する為に人間を襲い喰らう。認知の低いものや実体を持たない、概念としての悪魔は、実体を得て謳歌するために人間の心の隙間に入り込み、幾月がかけて内側から侵食し、やがて誕生する。一般的に悪魔というのは、人間たちが畏怖、または崇拝する非現実的な存在という認識であるが、その常ならざる者という概念自体、人間が悪魔から目を背けようと根付けさせた、間違った認知である。負から誕生し、尋常ならざる力を使う悪魔を、人々は見えないモノ、見えてはいけないモノと考えられるようになった。何百、何千年と時間が経つにつれ、恐れから生まれた集団意識が、真実を虚実へと変容させていき、いつしか悪魔の存在は忘れられ、通常の人には目に映らないモノとして扱われるようになった。そして現在、その見えないだけでそこにいる何者かによって、人々の生活はゆっくりと侵されていっている。見えないところから徐々に、人にとって不可解な「謎」を残していきながら───。
◇
『人間なんぞ所詮その程度の生物だ。己の都合のいい方に真実を捻じ曲げ続け、元の真実に曲がり戻って来た時にはそれはもうそこにはない。その結果がこれだ。人は容易には死なぬが、いとも容易く殺される』
昔から、私の父はそう言い続けてきた。誰に言うでもなく、ただ遠くに生きる誰かに向かって吐き捨てていたようだった。思えば、物心ついた時から言い続けていた気がするし、当然当時の私には意味がわからなかった。
父は、この世ならざるモノを狩り、人知れず影より人を助けることを生業とする名家・「荒神部」の、最後の正統な家長であった。荒神部 冷断──。それが、厳格な父の名だ。
父・冷断は古来、平安時代中期から1000年以上続く、己の身一つと刀一振で魔を討つ「妖殺し」の名を持つ名家・荒神部家の39代目だ。その名の通り「冷たく邪を切り裂き断つ者」として名を轟かせた、名うての狩人であった。仕事に愚直で、まるで悪魔を狩ることが生き甲斐だと言わんばかりの父の生き様は、言いようのない誇りと人格として出来上がっていた。気高き狩人はあの悪魔に敗れ、命散る最期の刻までその誇りを抱いていた。
そんな、人の安全を守るために尽くしてきたような父が、どうして人間が最も悪い、というような言い方をするのか。父の矛盾に塗れた思想を、幼く未熟な私では分かり得なかった。16歳になった今でも、何が悪で何が善か、知れず迷うこともある。悪魔とは狡猾な存在だ。心に迷いが生じれば、即座にその隙間を闇で満たそうとしてくる。故に心は常に鋭く在らねばならないと、父は教えてくれた。己が信じる正義、信念を研ぎ澄ませ闇に立ち向かうのだと。父上のようにひたすらに強く敵と対することは出来ないし、矛盾した信念を持ちながら戦うことなんで出来ないけれど、私にだって信じる正義がある。今はそれに従って、悪魔を狩るだけ。大丈夫。私にはこの肉体がある。磨き上げた剣技がある。一度一度の戦闘すら訓練と捉え、来たるあの悪魔との戦いのための糧にするのみだ。
自らを鼓舞し駆ける脚に闘志を叩き込み、月明かり照らす山道を急いだ。
◇
月は隠れることを知らず、未だ秋の夜長の真ん中に居座っている。入山して約20分、夜の険しい山肌をひたすらに駆け続けていた。体力に自信のあるほうだった私だがついに息が上がり始めていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……ふぅ」
ほかの木々より一回りほど大きい樹木の陰に隠れるようにして一度足を止め、呼吸を整える。躍動し続けた身体は熱を帯び、「動きを止めるな」と急かしてくる。ドクン、ドクンと血液は身体中を駆け巡り、血の流れる速度は上昇し、顔は上気している。
敵はすぐそこ、約50メートル程先か。魔の躍動する気配が夜風に乗って伝わってくる。
「今日も頼むぞ、相棒…」
呟き、腰の辺りに携えている刀の鍔のふちを左親指でなぞる。父が愛用していた清き刀、「無銘 明星」。刃長二尺一寸七分(約65センチメートル)の太刀で、平安時代末期から代々伝わる宝刀らしい。約900年年以上もの間、ただの一度も刃こぼれを知らず、ひたすらに邪なるもの共を滅してきた傑作中の傑作、なのだとか。武器に一切の興味もない私からしてみればどうだっていいことなのだが、素人目から見ても理解できるほどの美しさと厳格さ、そして息が詰まるほどの清らかさを、この刀は纏っている。穢れを知らない純白の鞘は、持つ手のそばから凍てつくような寒々しさをも持ち合わせている。
父が命を落とした一年前のあの日。死を悟ったのだろう、看取り稽古だと一言添えてその戦いに私を連れて臨んだ。非力な私ではあの切羽詰る戦いの一助となることも叶わず、かえって父にとっては足手まといだっただろう。だが、それでも父は戦った。父に今まで会った悪魔の中で最も手強いと言わしめた「狂笑の悪魔」。最後まで戦い抜き、相手に癒えることのない致命傷を与え、力尽きた偉大なる父。己が命を投げ打ってまで、私に何を教え、何を継がせたかったのか。まだ、分からない。……まだ分からないが、あの戦いを見て初めて父をかっこいいと思った。ただ、そうありたいとも思った。
そして私はここにいる。父の残した刀と共に。
「──よし」
夜風に撫でられ、落ち着きを手繰り寄せる。
再度、木の陰から敵のいる闇を見つめる。
「敵は1体、さして大きくもなし、か」
見つめる先は薄暗がり、されど研ぎ澄まされた感覚さえあれば、嫌ほど流れる魔力を感じとれる。その力の流れから、相手の動作、痕跡を辿ることができた。
「───ん?」
───何か、違和感を感じた。悪魔の動きか、その周囲か、ともかく何かがおかしい。
「動物でも、追いかけてるのか…?」
悪魔がか?と、思わず自分でツッコミを入れてしまう。だが、それ程に何かが不可解なのだ。
まるで何かを追いかけている、いや…追い詰めているような───
「ーーヴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
「……!?」
その時、一際大きく、悪魔が歌った。
「…まさかっ!」
何度も聞いたことのある声。腹の底を鷲掴みにされ、揺さぶられるような不愉快な声。これは悪魔が自分の勝利を確信し、獲物をジリジリと追い詰める際に発する、いわば勝利の雄叫び。
風がいっそう強くなる。今度のは涼しく、心地よい風ではなく、闇を乗せた邪なる颶風だった。
「まずいッ!!」
言うが早いか、刀を持つ左手に力を込め木の陰から飛び出した。
周囲は前人未到、獣道とも呼べぬような、苔むした大岩が転がっている未開の地。人が入って来るにはおよそ厳しい、木と岩からなる自然の要害。余程の物好きでなければ、こんな時間に山の深部まで来ないだろう。…だからこそ、だからこそ気付けなかった。
悪魔は、間違いなく人を襲っていた。常識で考えていた。この時間に、こんな場所に人がいるはずがないと。だから気付かなかった。──その人間は、あまりに小さかったから。…おそらくは少年、少女のどちらか、小学生にも満たないであろう、子どもだ。
「くそっ、私のバカッ!」
乱立する岩が行く手を阻む。たかだかあと数十メートルなのに…!事態は急変、今や一刻を争う状況になってしまった。私が悠長に構えていたせいで、今小さな命が貪られようとしている。
もはや一秒すら惜しい。木々生い茂る山の斜面を奔るよりも、上を行った方が早いと、走る右足のつま先に力を集中させ、大きく上に跳んだ。跳躍、左足で着地、着地先は地面ではなく前方の木の枝。止まらず、今度は左足のつま先に注力、更に跳ぶ。樹上を駆け、その距離を縮める。
…見えた。枝の梯子を渡り、少し開けた場所が目に飛び込む。そこにふたつの影があった。開けた場所、と言っても自然に出来た広場などではなく、恐らくヤツが暴れ回ったことによって木々は倒され、無理やり開けさせられた、荒々しい狩場だった。
(とにかく今はあの子どもを助けなければ…!)
見れば、悪魔は少年の頭を右腕で鷲掴みにしていた。子どもはなされるがまま、抵抗するでもなくただ呻き声を上げている。全身に力が入らないのか、あるいは怪我をしているのか、時折腕を痙攣させている。
そして、悪魔が嗤う。何を語るでもなく、ただ自身の欲を満たす為だけに、小さな頭蓋を握り潰そうとしている。───それが、ひどく頭にきた。全身に、血と力が迸る。その熱と怒りをバネに、悪魔に最も近い木の、太い枝を足で弾き、肉薄する。悪魔との距離、約7メートル。間合いは十分、相手に近づくのに2秒もかからなかった。
刹那、抜刀。白銀の鞘から解き放たれた、青白い破邪の刃。深淵の闇でもなお輝く、聖なる一刀が、黒々とした、一般的な人間の3倍はあるその腕を、容易く断った。獲物を屠ることに集中して、私の殺気に気付かなかったのだろう、魔力で強化もしておらず、こちらも力を使わずにたやすく斬ることができた。
「グェッ!?…グゥゥゥ!!」
咄嗟のことに、悪魔は思わず後退する。
「ナンダ、オマエ…グゥゥ」
状況が把握出来ていないのか、月夜に光る爛れた双眸がギョロギョロと蠢く。
「…驚いた。話せるんだな、お前は」
そう言い、相手を観察する。既に目は慣れている。
体長2.5メートル程度、体中をトープ色の外皮に覆われている。羽や角がないことから察するに、かなり低俗な悪魔だ。使い魔、小悪魔よりひとつかふたつ階級が上の、下級悪魔だ。ただ、あの人間離れした腕は、無警戒で食らってしまうとマズい。
悪魔は徐々に冷静を取り戻し、腕を再生させる。どす黒い血肉が覗く断面は、グジュグジュと音を立てながらその形を取り戻していく。
こちらも戦闘態勢に入ろうと、刀を前に構える。
「──グゥっ、ソレ、シッテル。ソレ、オマエ、『剣姫』、ダナ」
「ーん?そんなことを知っているのか。その呼ばれ方は恥ずかしいからやめて欲しいんだが…」
いつからそう呼ばれるようになったのか。悪魔から発せられた小っ恥ずかしい呼称に悪態をつく。
悪魔と対する私の後ろに、悪魔の腕から逃れた子ども…いや、少年が力なく倒れ伏している。チラと、少年を目で見やる。少年は顔を上げずに、うつ伏せの状態のまま、虚ろな目だけをこちらに向けていた。ただ、その目には希望はなく、どうして助けてくれてしまったんだろう、どうして助かってしまったのだろうと、窮地を救われた人間のものとは思えないような絶望の色を帯びていた。ひたすらに冷えきった瞳が、ただこちらを捉えていた。
───その眼に憤りを覚えた。何故か許せなかった。それは、齢十にも満たない少年が、そんな瞳をしていることに対しての怒りなのか、それとも、その少年をそうさせてしまった何かに対する怒りなのか、分からなかった。でもーー。その瞳を見た時、私は堪えきれず声を荒らげていた。
「───もう諦めてしまうのか、少年っ!!!」
深夜の森に響く、自身の発した怒号。一瞬の静寂のが訪れる。ーーその中で。気のせいかもしれないが、少年の瞳が一瞬、瞬いた気がした。
「ー君のことは、私にはまだ何も分からないっ!っでも!」
大きく息を吸う。
「そんな顔をしちゃダメだ!まだ君は終わっていない!!絶望ならここで終わった!私が終わらせる!!ーーだからっ!!」
「グウウウオオオオオ!!!」
悪魔は私の言葉が終わるより少し先に、咆哮を上げこちらに向かってくる。10メートル程だった間合いが一息に縮まる。
「まだ、諦めちゃダメだ!!!」
叫び、構える。───決着が着くのはきっと、終わるよりも早い。
「オマエモクエバ、モットチカラフエルゥゥ!!コロスゥーーー!!!」
耳を塞ぎたくなるような不快な歓声。右の巨腕から繰り出される拳。それを地面を蹴って宙に避け、巨体は私を通過する。悪魔は勢いから止まれず、倒れている少年に目標を移した。
「アアアア!!エサ!エサエサエサエサエサァァァ!!」
とんでもない形相で少年に食いかかろうとする悪魔。
私は宙に舞う体を翻し、そのガラ空きになった首に刃を振るう。首に刃が触れる瞬間、柄を握る両手に力を込め───
「ーーふっ!」
───あっさりと、首が飛んだ。切り口からはドス黒い血が溢れ出し、近くにいた少年に降り注ぐ。残す言葉もなく、支えを失った体は、膝から崩れ落ち、およそ悪魔から発せられるとは思えない程澄んだ光と共に消滅した。
◇
刀を鞘に納め、急いで倒れている少年の傍による。
「少年、大丈夫かい?」
少年は先程は違い、完全に顔を伏せていた。
「うぅ……っ、んぅ…」
どうやら意識は失っていないようだ。仰向けにさせ、上半身を抱えあげる。
「しっかり意識を保つんだ!…っ、頭蓋骨へのダメージが酷いな…」
悪魔はかなりの力で少年の頭蓋を握っていたらしい。このままでは頭蓋骨の線状骨折、または陥没骨折により後遺症が残ってしまう。急いで病院で治療をしなければ、手遅れになってしまう。
「とにかく山を降りなきゃ。少年、持ち上げるぞ」
言いながら少年を横向きに抱え上げる。腕の中の少年を見ると、どうやら気を失っているようだった。
(聞きたいことは山ほどあるんだが……)
立ち上がり、夜空を仰ぐ。かつて私を照らしていた黄金の月は、垂れ込めた分厚い雲に隠れ、時折、空気を求めてもがくように顔を出す。吹き付ける風は、邪気こそ孕んでいないものの心地よさは消え失せ、今は帰路へと足を急がせるただの追い風となっていた。午前1時をまわる、少し前のことであった。
……如何でしたでしょうか!ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。何度も言いますが、小説執筆ど初心者なので読んでいて、???となってしまう場面など多々あるかと思いますが、少しでもいいなぁ~、と思われましたら高評価の方、お願いいたします!!!僕ももっともっと勉強してまいりますので、まずは次回更新をお待ちいただければと思います!!それでは、また逢う日まで───