乙女
こだわりがあるので気付いてほしいです
乙女の65パーセントは
泣いてる理由をわかってない。
そんなネットの記事をみつけ、
布団の上で1人共感している。
"確かにわかんない"
その言葉と一緒に
私の頬を伝っていった
透明の血は、
いつもよりしょっぱく感じた。
平日より少し遅めに起きた私。
昨夜零した血は、
既に乾いている。
重たい体を起こし、
洗面所へ向かう。
顔をぬるま湯で洗い、
茶色のタオルで拭う。
歯を磨き、
黄色いスマホを布団に取りに行く。
途中で映る
だらしない体を
横目にため息をひとつ。
大きめのTシャツ、
裾が拡がっているズボンを
手に取り着替えてゆく。
恋を批判するような音楽を
鳴らすスマホを置き、
女優ミラーを目の前に
コンシーラー、お粉、アイライン、
アイシャドー、マスカラ、
ビューラー、色付きリップ。
目に見えてわかる
私の変身した姿
昨夜とはまるで別人。
腐っても乙女だ。
誰に貰ったかも忘れた
妖精の黄色いキーホルダーがついた
黒いリュックには
真新しい黄色い財布
使い古された青のペンケース、
使わないのに買わされた
イタイ題名の本、
そして枚数の少なくなってきた
ルーズリーフ。
時計に目をやる
長い針が下を向いている。
今朝二回目のため息をつく。
スマホに青のイヤホンを差しポケットに入れる。
ベージュのアウターを羽織り、
白のベースボールキャップをかぶる。
商店街のセールで見つけた
黒いスニーカーを履いて
家の鍵を閉め、階段を降りてゆく。
駅までの道のり。
毎朝のやけに緑の多い風景。
変わり映えしないからこそ
なにか見つけたくなる、が、
早歩きで進んでゆく。
改札に定期を通し階段を降りる
煩いベルが鳴っている。
私は更に足を早めた。
ギリギリで閉じるドアに
胸を撫で下ろす。
電車に揺られながら
6回開いたドアに気がつく
私は急いで降りる。
改札を潜り、
真っ直ぐに進んでいく。
赤く光る信号に引き留められ、
スマホを取り出す。
5分でつけばいい方だろう。
そしてまた進み出す
色鮮やかな街より少し静かな路地に入ると
見覚えのある顔。
私を待っているのは
出会って2年しか経っていない友人。
私は引き攣った口を
開き、
"よっ、待たせてごめんね"
謝罪を入れ音楽を止め、
イヤホンを外す。
"今日のフラッペ奢りだよ?"
冗談っぽく、愛嬌のある声で
彼女は言い放つ。
彼女の横にある
ちょっと古い見た目の
オシャレなお店のドアを開ける。
"らっしゃいませ、、こちらの席にどうぞ"
怠そうな店員の案内した先へと進む。
私は出されたコップに口をつけながら
メニューを開く。
友人は私の開いたメニューを
前から覗く。
彼女は楽しそうな声色で
"ん〜とりあえず、チョコフラッペ!"
"迷い無しなの"
私は苦笑しながら言う。
店員を呼び注文を伝える。
そして下げられたメニューと
交換に机にリュックの中身を広げる。
彼女もピンク色のリュックから
ノート、プリント、本を出す。
"今回のはんい広すぎ!最初にしたとこなんて
わすれちゃったよ。"
"確かに、けど今年最後だから頑張んないとね"
そんな会話を数回交し、
本を開く。
10分くらい経って
店員が持ってきた
チョコフラッペの
写真を慣れた手つきで
撮り始める彼女。
満足気にそれを飲みながら
進まない課題をする彼女と、
淡々とやり進める私。
途中で彼女は近くに知り合いが来たからと
席を外す。
冷房の音とオシャレなBGMが混じる。
少し寒い。
彼女が出ていったのを確認し
白紙のルーズリーフを取り出す。
そこに私は私の思いを書き留める。
ただひたすらに誰がこの紙を見るのかも
知らないが、書いてゆく。
私は周りに気付かれてしまわれないように
無表情で書いてゆく。
ただ、冷房と音楽と
私の鳴らす黒インクのペンの音だけが響く。
友人がもどってきたのが目に入る。
その紙を急いで折りたたむ。
そして他愛のない会話と、
意味の無い勉強を終え、
いつ持ってこられたかわからない
サンドイッチを食べる。
机の上の物を片付け席を立つ。
私は財布から紙と金属の塊を店員に渡し
お店を出る。
"じゃ!また明日ね!奢りありがと!"
彼女はそう言い手を大きく振る。
私は
"じゃあね"
と一言言い駅へと足を進める。
来た道を戻りいつもより
早く黒くなる空を見つめる。
改札を出て、
朝とは違った帰り道をゆく。
階段を登る。
行きとは違う段数を登るのは
少しキツい。
そして重たく冷たい金属のドアを
音を鳴らしながら開ける。
金属の柵の前に黒のリュックを置き、
スマホに映る時間を確認する。
18:42
ロックを開きスマホのメモ機能に
メモを打ちそのままリュックの上に置く。
ゆっくりと境界線を登り超えてゆく。
黒い空に
白く光るスマホの画面。
下には寂しい灰色のコンクリートの地面。
整列されずに置かれている自転車と
白、黒、赤、、色の着いた車。
このアパートに帰ろうとしている
サラリーマン。
私は1歩前に踏み出し
落ちてゆく。
走馬灯なんてどうでもいいし
気にもならない。自分の辿った道だから。
誰にも気付かれずに落ちてゆく。
理由のわからない、、、、
理由のない透明な血が上に登ってゆく。
この短くも透明の人生に
終止符を打った。
私の体は私の人生とは
比にならないほど鮮やかで綺麗な
赤色をしている。
私の残した黄色いスマホの白く光る画面には
黒い文字が残っている。
最後までご覧頂きありがとうございます
私の描きたいものを描きたいように描いていますので
理解し難い場面もあるかと思いますがよろしくお願いいたします