四『馬鹿かお前は』
「『馬鹿野郎』。出てけ。」
オレガノに任せて黙ってやりとりを聞いていたカルセオラリアだったが、いきなり彼シランへと、そう言った。
当たり前だった。とち狂っても可愛い『妹分』を、男とふたりで泊まらせられるかと。他の皆も同じで在ろう。カルセオラリアはそう思った。
然し、旅人の男はこう言った。
『何が駄目なの?』と。
カルセオラリアは、ゆらりと動いた。テーブルに立て掛けた剣の柄を握り、刀身だけ器用に、鞘から抜いた。それはあっと言う間も無く、抜き身の剣は旅人ーーシランの首元に、突き付けられた。元よりウィアナは『退治』を依頼した。問題も無いだろうとカルセオラリアは思った。
然し止めたのは、そのペルウィアナだった。
「駄目っ、カル兄っ!」
ウィアナの声がした。シランがほっとして、そちらに目線を移したのが、見えた。カルセオラリアは、どうした? 情でも湧いたのか? と、そう思った。
だが違った。
「外でやってーーっ!」
と、ウィアナは叫んだのだった。『成る程』と言ったカルセオラリアは、男を引っ張り出そうと、その手を伸ばしたーー時だった。家の扉を叩く音が、確かに聴こえた。
皆、叩かれた扉を見る事となった。『誰だろうーー?』と。
カルセオラリアは皆の意見は聞かずに、戸口へと向かった。手を掛け開くと、そこに男がひとり、立っていた。一瞬、カルセオラリアは息を飲んだ。相手が美し過ぎたので。
現実味が無かった。見間違いかとも思った。夢かと思う程の美形の男が、其処に在た。
カルセオラリアの背が高いせいで、男の風貌は中の皆には伝わっていないーー皆に『見てみろ』と言いたく為る衝動が走り、カルセオラリアはそれを何とか抑えたのだった。
驚きを口にするよりも前に、その男の綺麗な唇が、ゆっくりと動いた。
「今晩は。突然申し訳ないのだけれど、『探しモノ』を、しているんだ。聞いても構わないかな?」と。
『アンタも洗濯屋を探してんのか?』と、カルセオラリアの直ぐ後ろから、先に、オレガノがそう言ったのだった。
「ヨウセイさん、『在りまし』た?」
今度はその男の後ろの方から、その声がした。どうやらもうひとり居た様だ。カルセオラリアの場所からは、男の連れは見えなかったが、声だけはした。
「ハクシン、焦りすぎだ。少し待ってろよ。」
オレガノの問には答えずに、その男はそう言ったのだ。男はヨウセイと言うらしい。連れの名はハクシンかーーカルセオラリアはそう思った。
「探し物って何探してんの? この村には、なにもないよ?」
いつのまに来たのかーーカルミアが言った。後ろを見ると、晩飯の後片付けを終えたペルウィアナと、ジニアがふたりそこで待っていた。ジニアなどは、立ちもせずに、くつろいで居る。出番は無いと、思っているのだろう。まあ、カルセオラリアにオレガノまで居るのだ。下の三人の『出番』等、無いだろうとーーカルセオラリアもそう思う。
「こんばんは、おにいサン達、ちょっといいかな? この辺に『神像』ーー神の形の『何か』を、飾ったりとか、してないかな? 多分『在る』と、思うんだよね。ーー」
後ろからひょいっと現れた男の方が、やや捲し立てる様な焦った早口の口調でそう言ったーー
えらく普通の男だった。平坦と言うかーー平凡と言うかーーこの美し過ぎる男の連れとしてはーーややがっかりしたく為る様な、印象薄く覚え難い顔立ちの男だった。
特徴的な物としては、服装がやたらと白かった位で…………神官かもしれないとカルセオラリアは思った。やや、独特なデザインでは在るがーーと。
「『神像』なら、此の『先』のやつ? もう外暗く為るよ? 案内する?」
戸口近くまで来た、ペルウィアナが、そう言った。確かに暗くなると、灯り魔法がなければ、少し辛い場所だが。距離的には五分も行かないが、入り口が分りづらい。明るい時間ならば、見付けられるだろうが、然し何故こんな夕暮れも過ぎる頃に、神像等見に行くのだろうか?
「『何しに』行くんだ?」
流石にオレガノがそう言った。
「あ〜えっとね、…………………。えっと。………………、ヨウセイさん」
そう言った白い男は、連れを見た。
「俺に振るな。」
そう返されたが。
返した男は苦笑する。その顔すら美しかった。思わずオレガノも息を飲んだ。やはりかとカルセオラリアも思った。その『間』を、ひょいっと、小柄なウィアが通り抜けた。
「すぐそこ。案内しますよ。んとね、『灯りよ!灯れ。』」
皆があっと思うより先に、ウィアナの『魔法』が、其処を照らし出した。ぱあっと、光が広がり、1メートル程のぼんやりした、光に生る。その光はウィアナに合わせて、動く。ふわふわと。
『ありがとう』ーーと、美しい男がそう言った。然し、
「ちょっともうーー『お嬢ちゃん』が『お外』に『出る』時間にはーー遅いかな。大丈夫だよ、ありがとう。灯りはおじさん達も使えるからさ。良い子だね、君は。だから、忠告。良く聞いて? 『知らない』男二人に、ついて来ちゃ『駄目』だよ。危ないからね。何か『あって』からでは、『遅い』んだよ? もっと慎重に行動しなさい。 親切は良い事だけど、時と場合だ。俺達が強盗なら、君、どうするの? そういう事も『ある』からね。此処が例え『良く知った場所』でも、ちゃんと気をつけて。よし、君『危なっかしい』から、『お守り』あげるよ。『お礼』にさ。ちょっと待ってね。」
と、その男は言った。
そしてそれから不思議な事をした。