〘番外編 終幕〙 『母と彼女未遂。』
「早瀬『さん』で、『良かった』かしら?」
佐木家主、妻の夏美は、『客人』へとそう言った。
客人、早瀬 茉美は、その迫力に、思わずごくりと喉を鳴らしたーー耳の良い『音』にはーーはっきりと聴こえた。
音は、『あ、コノ女、大した事ナイーー』と、そう思った。音は『悪い子』ーーではないーーが、生意気と敦之は言ったが、生意気と言うより『小生意気』ーーで在ろうーーと思われる。
父に『似て』素晴らしく『顔』が、『美しい』ーー彼女は、例えばモデル等を目指せば、人気に成るのかもーー知れない。だが音は『歌手』に成りたい。シンガー・ソング・ライターを目指す。だが、確かに音は耳が良く、『演奏』にも才能があるーーが、『唄う』才能がーー無い。下手ではないーー寧ろ上手い。が、上手ければ歌手として『売れる』訳ではーー無い。
その事を未だーー音は分からないのだ。音は歌手には、『向いて』いないのだ。『声』が『美貌』を『越えない』のだから。容姿が邪魔に『なる』事もあるとーー彼女は『未だ』ーー知らない。
兄が既に『プロ』な事もーー良くない。兄達は既に不動の『地位』を築いていた。下手にデビューすれば間違いなく『比べ』られる。兄達は『売る』為に『作られた』グループだ。敵う訳は無い。音は『全て』が、素人なのだからーー『生き残れる』訳が、無いのだ。そんな甘い現象は起きない。
『好き』と『売れる』は、違うのだ。
音もきっとそのうちーー理解るであろうーーと、佐木 夏美は思ったのだった。先程『敦之』にくっついて『来た』音を、『面白くなるーー』かもと、『招き入れた』のは、勿論夏美で在った。
息子、隼人が『何を』したかーー母は勿論『知って』いた。母は思う。『騙される「女」も、悪いーー』のよねと。『見る目』が、無い訳ーーなのだからだ。音も、隼人も、そして此の『お嬢さん』も、『学習』ーーすれば『良い』のよーー夏美はそう思ったのだった。
敦之の『用事』は予想済みだったので、そちらも通した。『取込み中』は、『敢えて』だ。
隼人の『暴走』を、敦之はどうするのかと思ったのだが、意外にも『あっさり』帰ってしまった。『あら、つまらない』ーーは、夏美の本音で在る。
夏美が『デート』に応じない『理由』も、此れだ。夏美は『無難』な男は、楽しく『無い』のだ。
『父親』は、『興味深い』奴なのにね〜と、夏美は暢気に『昔』を、思い出した。
佐木 夏美ーーに生るーー大分昔俗に言う『前世』で、『美津原』夏美だった彼女は、息子達の知らない過去を、思い出していたーー
『我が家の息子達も、無難』よねーーと。
「『結婚』? いいんじゃない? 取り敢えずこのまま『引き留める』のは、犯罪だからね?ハヤト。直、後、宜しくね。あたし『ごはん』作っちゃうからさ。音は?『食べる』の?」
そもそも夏美は『昼飯』の宣言に来ただけで、『早瀬 茉美』の件に口出しに来た訳ではなかった。息子から相談された訳でも無いので、その気も無い。あればとっくに早瀬 茉美に一言申している。
「あ〜ごめん母さん。俺、仕事行くから、いいや。」
直夏が言った。母はあらと思う。ーー忙しい事ーーと。母は『じゃ、おにぎりでも握るわ。』と、直夏の好物を提案した。
おにぎりに、玉子焼き。息子の好物はわかり易い。玉子焼きは二種類だ。甘いのと出汁入り。後は肉じゃがである。最近母夏美は、嫁友理奈の『肉じゃが』と『玉子焼き』に、負け気味で在るーー別に悔しくは無いーー寧ろ嬉しい。新しい孫『夏文』もーー可愛い。しかも、自分と夫から『受け継いだ』夏の字をーー息子夫婦は、迷わず子供に『授け』た。夏美はひそかに嬉しかったりもした。
直夏は親孝行であると。夏美は幸せだった。大昔に『好きだった』人の『娘』と結婚した『長男』と、少しだけ『前』の『前世』で『好きだった』男の『義理の娘』と、結婚したーー三男。
『お前達は、見る目あるぞ』ーーと、思ったのだった。当人達には、教えないが。
佐木 夏央との、此の『縁』が、切れません様にーーと、彼女は願った。又生まれ変わっても、同じ気持ちでいたいーーと。
佐木 夏美は、その部屋を出た。それを佐木 隼人『達』は、見ていた。
閉まる扉。そして『彼』は『居た』。扉の横に。
「ーーーーーーーーーーえ? りゅーーーーーーーー」言い終わる前だった。
早瀬 茉美は、気を失った。『華月 龍』ーーの手に依って。
茫然とする隼人と直夏。『音』は、知っていた。龍と共犯だからだ。龍は『気付かれず』佐木家に『侵入』したかった。理由は『茉美』だ。
茉美は『何故』巻き込まれたのか。彼女は『何故』直夏に『執着』したのかーー理由ならあった。
魂の中に幽かに『残る』ーー残り香程の『前世』の『欠片』ーー大昔に『龍』を、『好きだった』事。当時、龍は『建築学科』に通う『学生』だった。
茉美は茉美と言う名では無くーー龍と『交際』していたーー『元カノ』だ。
倒れた『茉美』は、『音』が、支えた。『ミッション・コンプリ〜ト』と、瀬野尾 音は、良い音程で、そう言った。
「龍〜意外にも『こんな』女とつきあってたーーとか。音はウケるんですけど。」
「音、あのな。『男女』の仲に、口挟まないの。だから『音』は子供なんだよね。」
音は不満そうだった。龍は微笑って言った。「隼人」と。隼人はぎくりとした。
「巻き込んで『悪かった』。直夏もな。」
じゃ、『バレない』うちに、帰るーーと、龍は言って消えた。
消えると、『早瀬 茉美』は、目を、醒ました。音が覗き込む。茉美はやっと『焦点』が合い、身を起こした。
起きた茉美は、事態が飲み込めなかった。辺りを見渡し、見覚えが無い事は、分かる。音が声を掛ける。『大丈夫ですか?』ーーと。
曖昧な返事の早瀬 茉美に、瀬野尾 音は、『打ち合わせ』通りに、語り掛けた。
「大丈夫ですか? 貧血ですかね?おね〜さん。倒れたの『おぼえて』ますか? 気分は? 悪くありませんか? 良かった。『気付いて』くれて。」
音はしれっとそう『言った』のだった。中々の女優で在るーー龍が『信用』する力量でだ。何故なら『音』には、『前世の記憶』が、しっかりと在るーーずっとずっと『演技』して来たのだ。『年相応』を。
小生意気になるーー事で。あざとく生きるーー事で。『夢』を持つーー事で、『らしさ』を。
確かに『昔』は、『歌手』志望だったが。
にこりと笑った音が言った。『何かーー「憶えて」ます?』と。
きっと早瀬 茉美は覚えていないし、思い出さないだろう。又、『奇妙』な事に『巻き込まれない』限りは。
後日、改めて『詫び』に来た早瀬 茉美は、佐木 直夏への『想い』は、忘れていた。
だが、初めから『なかった』訳ではない、彼女の心には、『切なさ』だけ何故だか残ったが、理由はやはり思い出せなかった。
茉美と隼人に愛が生じるとすれば、又『後日』のーー『別の話』ーーなので在ろう。
瀬野尾 音はそう思って、次男の『嫁』の『義母』に為りそびれた『夏美』と、お茶を飲んだのだった。
『隼君、この前「一目惚れ」した「行き倒れ」の「おね〜さん」に、フラレたんだっておばちゃん?』ーーと、聞きながら。
夏美は『まあね』と答えた。
「恋愛初心者は、いきなり『求婚』したからね。先ずするのは、『お出掛け』の『お誘い』でしょうに………全く。我が息子ながら…………父に『似て』欲しかったわ。…………全く。」
然し、おそらく奇跡は起きる。音は目撃するのだから。
『詫び』に来た『茉美』は、『憑物』が取れた様だった。そして言った。
「あの『はやて』さんーーお元気ですか? ?『はやて』さんーーでしたよね? 佐木さんーーあ、いえ、『直夏』さんのーーお兄さま。あのーー『お礼』と『お詫び』がしたくてーー連絡先存じ上げなかったもので、直接お伺いしてしまいましたーー急にお訪ねして申し訳ありません。」
『せつなさ』を、『はやて』の存在のせいだと思い込んだ『早瀬 茉美』は、詫びの菓子折りと共に、自分の『連絡先』を、佐木家へと持って来た。
菓子は『家』の皆さんで。
連絡先は、『佐木 はやて』ーー『隼人』へと。
「直接『お詫び』と『お礼』がしたいので、お母様、お渡し願えますか?」と。顔を赤らめて。
夏美は彼女の『度胸』を認めて、預かった。隼人へと渡り、ふたりが『進展』する未だ『少し前』ーーの話で在る。
『母』と『彼女未遂』の、此のお話は。音はあくびをかみ殺したのだが。
『よかったね。はやて。』と、思いながらも。音の関心は今は最早『美津原 敦之』の、『嫁』で在るーー
『どう絡もうかしらーー?』と。いびる気満々なのは、御愛嬌と呼んであげてくれと。
Out side-story 〜 fin.




