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〘 2 〙 『佐木 隼人』

 実家に戻れた佐木さき 隼人はやとと言う名の男は、扉の前に立って居た。彼は『何処から』戻って来たのだろうーーか。自己に問い掛けた。一年半程前に、長く燻り悩んだ気持ちに、答えを求めたく、家を出て海外エリアに向かった。『修行』と銘打って。


 子供時代には素直に口へと運んだ『菓子』を、いつからか素直にそれが出来なくなってしまった。甘いからでは無い。塩味有る菓子も作って貰えたからだ。



 彼は素直では無くなったのだ。いつからかだ。何時ーーだったのだろうーーか。曖昧過ぎて思い出せなかった。


 弟が、「建築家になりたい」そう声に出した日からだったかも知れない。弟に『罪』は無い。理解っている。ただ、



 羨ましく思っただけだった。



 自分と比べて何もかもが違うーー 二つしか『違わぬ』弟の事をだ。弟の、自分とは違う『器の大きさ』を疎んだのだ。優秀なのは、兄だけで十分だーーと。



 兄は、無口で物静かで、穏やかな人だった。その割にモテる。だが、彼女を作らぬのを不思議に思っていたら、不意に結婚した。相手は隼人も良く知る、近所の幼馴染みだった。隣宅、華月カゲツ 陽藍ヨウセイの姪っ子だった。旧姓『瀬野尾セノオ ヒロ』は、兄大和ヤマトのバンド仲間、太一タイチの姉だ。太一と兄は同い年だが、絋はひとつ年上の、姉さん女房という奴に、成ったのだった。



 隼人はショックが隠せなかった。『姉』を『兄』に、とられたーーみたいな、妙な違和感だった。



 そして『知らなかった』事が、何よりもショックで在った。絋と大和がつき合っていた事等、誰もわれなくとも気付いていたと。自分『だけ』が、鈍かった。


 同じタイミングで、メンバーで幼馴染みの『山田ヤマダ 理一リイチ』が、絋の義理従姉妹、『美津原ミツハラ 沙羅サラ』と結婚を発表した。人気演技派俳優『美津原 美津之ミツノ』は沙羅の父で、陽藍の義兄だ。



 隼人は沙羅と理一の交際も知らなかった。少し年上なだけで、こんなにも疎外感をるものなのかと思った。



 『言ってくれれば良かった』ーーのにと。言い触らしたりしないのにと。感じた感情を哀しみと呼ぶ事を、佐木 隼人は気付きたくなかったのだ。隼人は些か劣等感コンプレックスが強いのかもーーしれない。理由は多分、やはり隣宅が原因であろう。



 隣、華月家には、スーパー過ぎる双子が居る。佐木 隼人は『彼等』と、同じ歳だった。



 華月 ユウ


 華月 セイーー此の双子の『桁違い』には、ほと々うんざりしていた。優秀。頭脳は明晰。容姿は端麗だ。ーー何なのだ全くーーと。



 友は学生時代『モデル』をしていた。おまけに隼人は『空手』でも友に勝った事が、ない。イケメンは運動神経も、抜群だった。挑みつつ早々に諦めざるを得なかった。青にしてもそうだ。青と言えば、やはり学生だと言うのに、態々海外エリアから、ヴァイオリニストとして、華々しくデビューした男だ。おまけに嫌味な位モテる。友は何方かと言えば、男性人気が有る『友人・・』タイプで、青は友よりやや細身な、バネのような、身軽なこなしのタイプだった。女性に対しても『身軽』な皮肉も含めてだ。歳上とつき合ってるのかと思えば、高校卒業と共に、同じの彼女と、『入籍・・』した。大学も行かずにだ。金も『頭』もあるくせにーー何なんだと隼人は思った。


 だが、友も進学はしなかった。どころか、卒業と共に『スクリーン』デビューをした。俳優に転職したのだ。


 人気絶大だった、モデル業を、あっさりと辞めてだ。隼人には理解出来なかった。そしてオマケの様に、友も人知れず『入籍』したのだ。『歳上美人』と。



 男友達しかいないだろうーーと思っていた友も、彼女がた訳だ。


 歳上だった事と、自分の仕事柄、『隠して』いたのだろうーーが。



 隼人はまるで、それこそ『狐につままれた』様な感覚で。馬鹿にされている様な感覚だった。




 彼等にその気が無くともーーだ。友達で幼馴染みでーーそれは『自分だけ』なのかと。ーーーー




 『他』の幼馴染みに、吐露してみた事が在る。然し言われた。『それ悩み?』と。



 『自分』は、『自分』に、『なる』しか無いーーだろう?と。





 そう簡単に成れるおさななじみの事も、佐木 隼人には羨ましかった。





 自分は案外『不器用』なのだと気付いたのだった。『兄』は、芸能人。『お』も芸能人。『御近所・・・』も、芸能人。こんな環境でなければ、彼は素直に生きれたのだろうーーか?ーーと。




 そんな彼の目の前の扉の『向こう』から、『謝罪』が聴こえたーーのだーー





 弟の声だった。




 『自分』が、巻き込んだ『相手』への『謝罪』だった。何故だ?



 『謝るべきは、「俺」だろうーー直夏?』 兄は、そう思ったのだった。



 そして聴こえたのは、『相手』の言葉。




 「『佐木』さんが………なにか『お詫び』してくれるんですか?…………私に。私、佐木さんが………………好きなんです。『そんな』の決まってるじゃないですか…………『キスして』ください。あと、『こわかった』ので、『抱きしめて』ください。佐木さんの………………『彼女』に『成りたい』んです、私。…………………わかってますよね、佐木さん。『彼女』にしてください。『かざり』じゃない、本当の『彼女』です。ちゃんとキスしたりとか…………」




 早瀬はやせ 茉美まつみというらしい彼女の言葉を最後まで言わせぬ為にも、佐木 隼人はその扉をーー開けたのだった。





 『女子』が口にしては為らぬ言葉だと思った。あの、先の言葉は。『恋愛・・』未経験の隼人にだって、『それくらい』は、理解わかるのだった。





 その頃近所に住む未だ高校生の義理の弟が、こんな言葉を発していた事等は、隼人は知らない。




 「『ハヤテ』って、さ、学校ガッコ勉強ベンキョの『偏差値セイセキ』もまあ、そこそこだったけどさ。。。より『ヤバかった』のは、寧ろ『恋愛・偏差値けいけんち』の方だよね。。。『彼女・・』が出来モテナイないからって……………大人な関係な女の子さん達とばかり……………遊んで…………、」



 「紹。や・め・な・さい。」




 瀬野尾邸にて、佐木 ヒロは、呆れて、弟、瀬野尾セノオ ショウを、注意して止めさせたのだった。『言葉の先』を。ーーーーー。誰かーー此の姉を褒めてあげて欲しい。




 そう。隼人はもてなかった訳ではなく、機会チャンスを自らの『勘違い』で潰していた訳だ。告白が『無かった』訳では無い。



 凄過ぎる幼馴染みや『兄』達へと、『取り次ぎ』だと『勘違い』したのは、彼当人だ。『彼女等』の『目的』を、も、れずにーーだ。




 彼に出来ないのは『恋愛・・』位だ。先ず、女の子を『愛する』事から始めてくれ。恋は最早手遅れで在ろうーーから。彼には。




 扉をけたが言ったーー「わかったーー君とは」



 『俺』が『つきあう』と。






 直夏の耳には、そう聴こえた。おそらく幻聴では無いだろうーーそう思った。




 茉美は幻どころか、『悪い夢』かと思ったが。

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