二十五『すれ違うーー人々。』
「はあ〜」と、
小さい子供が、露店の前で果実のドリンクを飲み干していた。ウィアナは成る程と思った。多分『黄橙の果実』だろうと。程良い酸味とまろやかな甘味。ウィアも一杯飲みたくなった。
団体客が、露店の前にいた。男性客が、数人の中に、女性がふたり程混ざっていた。『冒険者?』にしてはーー何かが違う様なーー何だろうとウィアは思ったが、村から出る事が殆ど無く、街も露店も『聴いた話の中』でしか知らないウィアには、分からなかった。取り敢えず連れの男ーーシランへ『喉が渇いた』と告げた。『あれを買う』と。シランは良い顔はしなかった。
無視した。
団体の後ろに並んで、彼等が買い終えるのを、待った。シランは『仕方無く』といった風で、其処で待っていた。
団体客の中の、男のひとりが、子供に声を掛けていた。『美味しいか?』と。ウィアはその声を、『とても美しい』声だと思った。良く見るとその男は、顔も素晴らしく美しかった。
優しい笑顔が、女の子の頭を撫でた。にっと女の子は笑って、ドリンクの容器を男性へと渡した。受け取った男は子供に何か聞いてから、容器を店主へと返した。『ごちそうさま。美味しかったみたいですよ。』ーーと、言った男の声が聞こえた。
その光景を見ていると、連れの女性がウィアに気付き、声を掛けて来た。『ごめんね』と。
ウィアは面食らった。何を謝られたのだろうかーー
女は愚図る子供を抱えていた。そして、連れ達に言った。『次のお客さん待ってるから、撤収』ーーと。
「はい、移動ね。次いきますよ、次。邪魔だから退きますよ、皆さん。」
各々が何やら言いながら、意外と素直に、場所を空けたのだった。
「どうぞ。ごめんなさい。お待たせして。ジュース美味しかったよ。ねえ、おじさん。」
女性は店主へそう言った。『可愛い女の子には、おまけしちゃうの?』と。笑顔だった。
店主は面食らってから、『そうだな〜』と、苦笑いした。
「はいよ、お嬢ちゃん、おまたせ。まあちょっとまだ『嬢チャン』は、色気が足りないが、『ネエサン』に言われちゃ仕方がないーーまけちゃうよ。何にする? 嬢チャン。」
ペルウィアナは、面食らってしまった。戸惑うと、『女性』に又声を掛けられた。
「ふふ、おまけしてくれるんだって。じゃあ『おじさん』、『連れ』の男の子の『分』奢っちゃえば? 男前度、あがっちゃうよ?」と、彼女は笑ったのだった。
それに驚いたのはシランだった。目を剥くと、気付いた『女性』に、にっこりと微笑まれた。呆気に取られつつ、つい、照れた。珍しくも。
「ははっ、そうきたか。じゃあ『お嬢ちゃん』方、『味見』してくんな。」
と言った店主は、グラスにドリンクを半分程ずつ、注ぎ入れて、それを二つ、ウィアナに渡した。思わず手に取るウィアは、もそもそと『ありがとう……』と言って、代金を払おうとした。が、店主が『味見』だと言う。
「じゃあ、おじさん、『ミックス』を二つ。僕が払うよ。あの子達の『お代わり』分ね。じゃあ僕達は行くね。御馳走様でした、おじさん。又『会えたら』又ね。」
『ありがとう陸さんーー』と、『彼女』が言ったのが聴こえたがーーまともに礼も言えぬままに、彼等は行ってしまった。
ドリンクを『受け取った』ウィアはシランに呟いた。
『子供連れてたからーー夫婦かなーー?』と。シランは分からんーーと答えた。黄橙のドリンクも、『ミックス』と言われたドリンクも、何方も美味かった。ウィアナは『世界は広い』なーーと、実感したのだった。
自分の蛙レベルを思い知ったのだった。『お礼位、きちんと言える人間に』成ろうーーと。
上手く話せていない自分を、悔やんだのだった。これから先に、自分は、誰かを『好きに』成ったとしてもーーきっと『上手く』伝えられないのではないかーーと。
『剣士』との『出会い』で気付いたのだった。
又、同じ想いを『する』のは、『嫌だ』と。これから『やって来る』恋ーーの為に。
世界を、『世間を』ーー見に行こうとーー決めたのだ。シラー・ペルウィアナ14歳の、一大決心だった。未だ、誰にも『話して』いないーー決心だった。
÷ ÷ ÷
「ねえ〜『陸』さん。さっきの子って………」 「『お兄ちゃん』だからね。何で『紺』は、お兄ちゃんて呼んでて、僕の事は『陸』さんに『戻って』るのさ。全く。」
「いや、『精霊』がね……」 「いたね、精霊が。まあ、珍しいかな。」
「は?」 「………精霊?」 「あ、『あれ』が、精霊なんだ……」 「俺は『精霊』と『妖精』の区別がつかん。何で友理奈ちゃんは『見分け』が出来るの?」
佐木 友理奈は、憧れのバンドマンのドラマー、『ジャン・スモ』の山田 理一にそう言われた。友理奈は答える。
「そうですね〜何となくですかね。華月邸の『庭』って、妖精ちゃんも精霊ちゃんも『居る』じゃないですか………それで、自然に『なんとなく』見分けられる様に……? 強いて言うなら『妖精』ちゃん達は、もっと『いたずらっ子』です。だからさっきの『あれ』は、精霊ちゃんですね。雰囲気の『違い』ですかね?」と。
同意したのは、陸だけだった。良く見ると『真琴』ちゃんと『理桜』君は、愚図りながらも頷いてはいたのだが、一行は気付いていなかった。理桜は、『夏文』と遊ぼうと思ったのだが、夏文は陽藍と友美達が先に連れて帰ってしまった。理桜も帰ると泣いたが、太一達は『ツアー』を終えて『凱旋』したばかりだったので『休暇』中だった。故に今回の惨事の収集の褒美に、『異世界観光ツアー』を、強行中〜だったのだ。陸は、彼等の『お守り』で在るーー子供かと言うなかれ。
異世界は『危険』なのだ。『付き添い』無しには、『観光』は、許されない。陸が付き合いで帰れないので、理桜と真琴も帰れないのだ。『責任者』は、『陸』なのだから。友理奈が『居る』のは、『別件』だった。彼女は『観光』に付き合っている訳では無い。
彼女『自身』の『修行』中〜だったのだ。『身体』と『魂』を、しっくりさせる為に、友理奈は日々『努力中』だった。自身の『力』の『操作力』を、身に付ける為に。『暴走』して、『異世界』『転移』をーーしない為にも。
勿論陸は、その『監視』も、兼ねている。真妃瑠が居るのは、『もし』、友理奈に『何か』在って陸が『対処』しなければいけない時に、陸の子供達ーー真琴と理桜を『見ている』者が、必要になる。真妃瑠がその役目だった。依頼人は陽藍だが。
陸に言われたのは、その場合は、『必ず』戻るーーから、『指定』された場所まで、『子供達』を、『連れて』行く事ーーだった。指定された場所は何ヶ所か在った。
あの教会も、そのひとつだった。『用事』を済ます間、依頼された真妃瑠は、あの場所で『待って』いたのだった。『子供達』を、遊ばせながら。
教会では『マリーサ』と言う女性が、『友理奈』から『引き継いだ』『洗濯屋』をしていると聞いて、会うのを楽しみにしていた。実際楽しかった。ほんの数刻で在ったが。
教会を『借りて』商売していたマリーサだが、と或る日『神父』が、帰って来たらしい。友理奈が『借りた』時には、神父は『旅』に出ていた。『修行』の旅に。要は神父は『冒険者』をして来たのだ。『パーティー』に参加しながら。『回復』が使える『神職』は、重宝される。神父は『解毒』も使えた。『火』以外の自然魔法もだ。旅は数年続いたらしいーー修行と言ういい方をするが、要は『稼ぎ』に出たのだ。神職だって金は要るのだ。教会だって『建て直さ』なければ、朽ち果てる。教会近くにも『ダンジョン』が在ったが、『難易度』が高く、深い地層まで、ソロで降りるのは危険だった。神父は『冒険者』ギルドで冒険者登録をし、共に『潜る』仲間を募ったが、現れたその『パーティー』に提案される。自分達にもガザンガグルスタの迷宮は難易度が高いのでーー『共に少し修行の旅に出てーーレベルを上げないか?』と。神父は良く考えてから、彼等の提案に乗る事とした。
そんな話を、『待ちながら』色々聞いたーーが、要は『惚気け』だった。旅が神父を『強くしたーー』らしい。すっかり『男っぽく』為って帰って来た『神父』に、マリーサは惚れてしまったらしいーー帰ると教会の中は、『綺麗に』掃除されーー神父はうっかり『感極まった』訳だ。
そして『うっかり』ふたりは付き合い始めた『らしい』がーーマリーサには秘密があるーー
と、言うか、教会を隅々まで『磨きあげた』のは、実は友理奈だった。以前、『借りた』時にだ。マリーサはこの事を『未だ』神父には話していないーー勘違いから始まったらしいーーこの『交際』は、順調な様なので、『大丈夫』ではないか?と、真妃瑠は思ったのだった。
それよりも今真妃瑠が気になっているのは、と或る『冒険者』二人に、連れられて教会に『来た』あの『早瀬 末美』の事だった。
早瀬 末美の『名』に、聞覚えが在った気がしたーー
確かーーと。
『………ねらった獲物』は、『逃さない』とかの『例の』『肉食系』『女子』ーーとやらの名前って、確かーーーーーーーーーーと。
真妃瑠が通った高校は女子校だったのだが、真妃瑠が入学した時には既に卒業していた『卒業生』の噂話だった。
『見た目』と違い『えぐい』『狩り』をするハンター系女子の話だ。見た目が可愛いので、『騙される』相手が、多いが、やり方はひどい。『偶然』を装う『粘着』女子だったらしい。
分かりやすく言うならば『ストーカー系』女子だった訳だ。『噂と違わぬとは、最早天晴かーー』と、真妃瑠はひやりとした。
噂が『本当』ならば、彼女が『しつこい』のは『ここから』らしいーーと。友理奈を『守らねば』ーーと、真妃瑠は思った。
真妃瑠には、友理奈は『姉』なのだ。例え、友理奈にはそうで無くともだ。
❅ ❅ ❅
シラー・ペルウィアナは言った。連れの男にだ。『で、これから「どうする」のーー?』と。




