19 エピローグ
あれから三日後、俺の安否を気に掛けたリリンが、スワロフの父親であるカーネリアンを説得して、穴掘り名人のドワーフを引き連れてきた。
彼女が、戻らない俺が悪魔に殺されたと諦めて、人間の街にいる兵団を呼び寄せていたら、あの場所で飢え死ぬところだった。
だから内側から死に物狂いで落石を撤去していたとき、坑道とのトンネルが開通して、長い耳のエルフを見て思わず抱き着いてしまう。
情けなさを露見させた俺だが、それはいつものことなので、旅の仲間には今さら見損なわれる心配がない。
剣と魔法を取り戻した俺も、喉の乾きと空腹には耐えられなかった。
「リリンさん、美人で強いよね」
「スワロフも、もっと研鑽を積めば私のように強くなる」
「ボクも、リリンさんみたいに美人で強くになりたい」
「スワロフは、美人になる必要はない。なぜなら既に、お前は可愛いからだ!」
「わーい!」
馬車の御者台から荷台を覗けば、スワロフの頭を胸で抱くリリンがいた。
俺たちは、領内の外れにあったドワーフの鉱山都市から、下宿先のある人間の街に引返す道中、ダンジョン攻略により婚約解消したはずのスワロフは、なぜか俺の弟子になると、その身分を弟子として旅の仲間に加わっている。
カーネリアンは自分の体験談として、嫁が三人いるならば、四人いても養う苦労は変わらないと、とりあえず『お試し期間』などと言いながら、婚約解消したはずの一人娘を押し付けた。
旅の仲間は嫁ではないが、ダンジョン攻略の報酬として、条件になかった金貨をくれたし、返品可能なお試し期間ならばと、報酬と一緒に娘の身柄を引き受けたのである。
リリンは当初、スワロフの同行に反対していたものの、男兄弟の中で育った女っ気のないドワーフは、恋敵になり得ないと考えたようで、今では子分のように扱っていた。
それにコロネは、いつも俺の周囲に女の子が集まるのを嫌がるのだが、自分より幼く見えるボクっ娘には、あまり強い態度で否定しない。
リリンやミアを『お姉ちゃん』と甘えていたので、幼く見えるドワーフとの接し方に困惑しており、妹キャラを演じていたのが裏目に出たようだ。
「スワロフは、私とキャラ被りしているのよ。お兄ちゃんも、そう思うでしょう?」
「スワロフは弟のような。俺の妹は、コロネだけだ」
「え、ええ、そのとおりなんだけど……。お兄ちゃんに、そんなこと言われても、べ、べつに嬉しくないんだからね。でもね、ちょっとは嬉しいわ」
手綱を握る俺に寄り添っているコロネは、ツンデレに属性を変えるつもりらしいが、今は迷走中である。
ミアは、あの性格なので問題ないと思ったが、リリンを単なる旅の同行者、コロネを妹として、自分だけが婚約者だと考えていたのであろう。
ドワーフが一夫多妻制だと知るや、スワロフが俺に近付くのを最も警戒している。
あのミアが、なんだかんだスワロフと一番意地を貼り合っていた。
「今夜は、カールさんの隣で寝ても良い?」
「いや、御者台は狭いから――」
「では私も、ご主人様の隣で寝ます」
スワロフは夜になり、狭い御者台で横になっている俺の隣に寝転ぶと、その反対側にミアが陣取る。
男冥利に尽きると言われてしまえば、それまでの状況ではあるものの、これが毎晩では身が持たない。
なぜならスワロフ、こいつが食わせ者だった。
「スワロフ、俺のベルトを抜いて何をしている」
「あ、カールさん起きちゃった?」
「本人の同意なしに、ズボンを脱がすのは犯罪だぜ」
「ボクは、可愛い?」
「小首を傾げたスワロフは可愛いけれども、毎度、毎度、それで誤魔化せると思うな」
「でもボクは、可愛い?」
「や、やめろ……、幼いなりで小首を傾げて、キラキラした目で、俺の背徳感を煽るんじゃない。なぜなら、そんなスワロフは直視できないほどドストライクだから!」
ミアが『ご主人様、スワロフは可愛いですか?』と、俺の肩越しで爪を尖らせて殺気を放っていた。
男勝りのスワロフだが、一夫多妻が慣習のドワーフの娘であり、他の婚約者がいようとお構いなしに、隙を見せれば既成事実を作ろうとする。
こいつが厄介だ。
「ミアさんも、ボクとカールさんとやろう!」
「え、私も、スワロフ様とご一緒に? 何を?」
「そうそう、ボクと一緒に! ナニを!」
「私には、そういう嗜みがありません。スワロフ様は、ご主人様の弟子ですが、ご主人様は、私のご主人様なのですよ。淫らな師弟関係は、有り得ないのです。ご主人様は、他の誰とも共有する気がありません」
獣人のミアがリリンよりスワロフを警戒するのは、たぶん野生の勘が働いている。
あの従順で優しかったミアが、今でも彼女は従順で優しいが、それに嫉妬深さが垣間見えると、ヤンデレのエルフに通じるものがあり怖い。
「お前たちも、適当に終わらせて寝ろよ」
俺はスワロフを説教するミアの金切り声に耳を塞ぐと、下宿先に戻ったら、婆さんを吊り天井固めで締め上げてやろうと思った。
こんな状況が昼夜問わず、所構わず、長々と続くのだから、これを地獄と呼ばずに何と言うのだろうか。
〈了〉




